あるべき今と、これからの学童野球界をつなぐ輪『監督リレートーク』。2023年最後のバトンは、新たに総監督となってトップチームも再び率いることになった千葉県の名将から、大激戦区・東京の智将へ。今夏の全日本学童3位、新年度から4年生チームを率いての3年計画で頂点をうかがう指揮官は何と! 最高学府の頂・東大の出身者です。
(取材・構成=大久保克哉)
たかの・のりちか●1966年、北海道生まれ。千葉県松戸市に移り住んだ小4から野球を始め、県柏高卒業までプレーした。2006年、長男とともに豊上ジュニアーズに入団してコーチに。低学年の監督を2年間務めた後、高学年の監督となって2016年にチームを全日本学童大会に初めて導く。これを機に交流の輪も広がり、選手が増えてきた組織の再編も主導。全日本学童大会は19年から2年連続で銅メダル、3大会連続出場となった2022年は8強入り。現在は4チームが活動する中で、23年度は3年生以下のチームの監督。来たる24年度からは総監督として各チームの橋渡し役も務めながら、6年生チームを再び率いることが決まっている
[千葉・豊上ジュニアーズ]髙野範哉
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門田憲治
[東京・レッドサンズ]
かどた・けんじ●1978年、北海道札幌市生まれ。父親の仕事の関係で、小学生までは愛知県や東京都など転校を繰り返す中で、東京・清瀬市のレッドイーグルス(現レッドライオンズ)で3年生から野球を始めた。札幌市立栄南中の軟式野球部では強肩の外野手として活躍。札幌北高では1年時にラグビー部、以降は勉学に専念して東大へ進学。2012年4月、長男がレッドサンズに入って1カ月後にコーチに。18年に次男らの2年生チームの監督となり、6年時の22年夏は全日本学童ベスト8まで導く。翌23年も6年生チームを率いて東京勢最高成績の同大会3位に。来たる24年度からは、三男らがいる4年生チームを率いることが決まっている
感動が薄れてしまい…
この2023年は、結果としてリフレッシュをさせてもらうことができました。6年生チームを率いてくれた原口さん(守監督、新年度から5年生チームのヘッドコーチ)ほか、チームのみなさんに理解と協力をいただいたおかげです。
初めて受け持った3年生チームは、幼い分だけより可愛い子たちでした。6年生チームのように全国大会に向けて、ひたすらに勝利を追求するわけでもないし、個々の成長の度合いもよくわかる。ほとんどノープレッシャーの中で、1本のヒットや1つの好プレーを本人たちと喜んだりすることもできました。
3年生チームでも指導するべきは指導しつつ、笑顔も絶えなかった
以前の『学童野球メディア』のインタビューでも言いましたけど、1年前の私は指導者として「感動が薄れてきてしまった」状態でした。全日本学童大会に連続(2019年から3大会連続)で出られた反面、勝利へのプレッシャーはほぼエンドレスで相当なもの。正直、心を休めたいというのが一番の願いでした。
それが今はまた、あのヒリヒリするような勝負の世界でやってみたい、というところまで気持ちも戻ってきました。全国大会を再び目指したいと思います。
原口さんは6年生最後の大会だった、11月の千葉県ろうきん杯で優勝。決勝では、全日本学童3位のチーム(八日市場中央スポーツ少年団)に7対0の完勝ですから、立派なものです。県予選で負けて夏の全国大会は行けなかったけど、それだけの能力があるということと、予選敗退以降も切れずにやってきたことを証明してくれたと思います。
6月の県予選で涙した6年生たちが11月には県制覇、原口監督と有終の美を飾って笑顔に
原口さんはとにかく、マジメで一生懸命な人。朝の8時集合でも、必ず7時には来ているような几帳面さと自分への厳しさもある。元々、同じ柏市の別のチーム(松葉ニューセラミックス)で監督をしていたころから、そういうところが際立っていましたね。
全国のトップに立つべく
私もそうでしたが、学童の指導者は息子や娘の代のコーチから始まるのが大半ですよね。でも原口さんは、自分の息子たちの学年にだけ固執していなかった。息子たちの代は別の指導者に任せて、目の前の選手たちのために真剣に指導をしている感じ。
そこで、私が監督を兼務していた市選抜チームのほうをコーチで手伝ってもらうようになって、4年目から豊上ジュニアーズの指導陣に正式に加わってもらいました。ふだんの生活の面や自主練習など、従来のウチに足りなかった部分もフォローしてくれています。
ホントは新年度も、原口さんには6年生チームを一緒にやってほしかったんです。ただ、チーム全体のバランスとスタッフの配置などの関係で、5年生チームのヘッドコーチに。私は4年生以上の主要な大会は30番をつけてベンチに入りますけど、5年生チームは原口さんの采配も多くなると思います。また6年生チームが夏の全国出場を決めたときには、原口さんにはまたベンチに入ってもらうつもりです。
4回目の全国采配となった2022年は、猛打のチームで8強入り
1年の「リフレッシュ期間」をいただいた中で、学年の壁を超えた大きなうねり、系統立った指導の必要性を強く感じました。従来は各学年それぞれのやり方で完結してきたけど、それでは全国のトップにはなれなかった。ウチは良くも悪くも、内外から「髙野野球」とよく言われますけど、それは私一人の考えでしかなくて、もっと良い案がまだあるはずなんです。とにかく、全国では勝ち切れなかったんですから、進化していかないといけません。
新年度からは、打ち方でも投げ方でも技術的な指導に、全学年に共通認識と段階を持たせたいと思っています。私が総監督となって、原口さんに5年生をお願いするのは、そのためでもあります。
イメージも覆した智将
チームを進化させる、という部分でも図抜けている指導者が、私から紹介する東京のレッドサンズの門田憲治監督です。
実は門田さんは、三男坊がいる3年生チームも率いていて(6年生チームと兼務)、私の3年生チームとこの1年で3回試合をしているんです。すごいのは、彼の3年生チームは戦うごとに強くなっていること。初めて試合したときはウチのワンサイドだったのに、次にやったときは良い勝負に。そして、この11月の3度目の対戦は1点差まで詰め寄られました。
それだけでも、彼の指導力や向上心の高さを感じずにはいられませんよね。2年連続で6年生チームを率いて、今年は全日本学童で3位まで引き上げましたけど、東京のチームのイメージも覆したと思います。
今夏に全国3位まで躍進したレッドサンズ(写真)は、11月の東京23区大会も制している
東京はチーム数がものすごく多くて、練習の場所と時間が限られる。そういう事情もあると思うんですけど、バッティングのイメージが強い。細かく突き詰めて1点を奪って1点を守るというよりは、ばんばんホームランを狙って強振してくる強豪チームが多いんです。
私の知るレッドサンズも長いことそういうイメージでしたが、門田さんが6年生監督を務めたこの2年間は、見事にそこから進化していきましたよね。送りバントもスクイズもやるし、足も使う。打力というベースはあるけど、それだけで終わらずにどんどん引き出しを増やしてきた。今年の夏の躍進の要因は、そういうところにあると思います。
全日本学童大会の最高成績は3位(2回)。2024年から、さらにその上を目指す戦いへ
門田さんと面識を持ったのは4、5年前のローカル大会だったと記憶しています。長男の学年の監督をされていて、細かく考えた野球をするなぁという印象。その後に、誰かから「門田さんは東大出身!」と聞かされて、思わず言ってしまいました。
「え~、ウソだろ!? あんなバカそうな顔して(笑)」
軽い冗談ですけど、驚いたのは本当です。門田さんの率いるチームとは以降、数えきれないほど試合をしているので、彼の頭の良さと勉強熱心さは人よりもわかっているつもりです。
何より、温和で絶対に怒鳴らない。子どもたちを乗せるような声掛けもうまいし、パフォーマンスの引き出し方を心得ている感じがします。
新年度から4年生チーム(現3年生チーム)を正式に率いるということなので、これからも対戦が楽しみです。そのまま繰り上がって3年後の夏、6年生チームの監督となった門田さんと全国大会で対決してみたいですね。きっと、勝っても負けても清々しいと思います。どちらが先になるかわからないですけど、切磋琢磨しながら全国制覇を成し遂げたいですね。