連載
連載『メンタルコーチング』最終回⓯メンタル...
2023年7月にスタートした連載『メンタルコーチング』は、この第15回で最終回を迎えることになりました。時代が様変わりする中で、日本の野球界も大きな岐路に立っています。その中で走り出した『学童野球メディア』と、高校野球の監督から転身した私とのコラボによって、従来にないテーマと内容で野球界の大人のみなさんへ発信をしてきました。最後に総まとめをしながら、私自身の願いも綴って締めたいと思います。 (監修/諸星邦生) The Finale vol.15 問われるのは大人たちの知識とスキル 1年と2カ月に及んだ当連載で対象としてきたのは、保護者と指導者のみなさんでした。私自身が高校野球の監督として、長らく数々の失敗をしてきました。ですので、そういう大人を増やしたくない、関わる子どもたちも幸せにしてあげたい、との思いが根底にありました。 「コーチング」と「メンタルトレーニング」という専門分野から、学童野球の現場にお役立ちできるであろうというものを抽出。そして私の経験と知識と考えも踏まえつつ、できるだけ分かりやすく、順を追いながら丁寧にお伝えしてきたつもりです。全15回の連載というのも当初の計画通りで、先を急ぐことなく予定通りに進行してきました。 学童野球は「子育て」である、というのが私の持論です。野球を通して子どもが育つ環境を整えることがイコール、野球を好きにさせてあげる方法なのだと考えています。 「子どもが育つ環境」とは、ズバリと言えば「コミュニケーションが取れる環境」のことです。言葉を通じて、意見や気持ちなどを伝え合うのがコミュニケーション。学童野球で特にポイントとなるのは、大人と子どもの関わり方です。 より広く、より良いコミュニケーションを日常的に取るには、大人の側に相応の知識とスキルが求められます。もちろん、知識を得たから偉いのではなく、学びに終わりはありません。そして実は、大人が学び得た知識やスキルは、子どもたちをコントロールするものではなく、大人自身が自分をコントロールするものなのです。 どんなに崇高で博識な権者でも、人を意のままにコントロールするのは不可能です。しかし、セルフコントロール(自分自身の制御)は、万人に可能。そのためのアイテムがコーチングであり、メンタルトレーニングである。当連載を読んできてくださった方々には、きっとそれも理解されていることでしょう。 大人自身が冷静に、穏やかに、的確に状況を把握して、その場にあったコミュニケーションを展開する。これができると、身近にいる子どもたちは安心します。そしてその「安心感」こそ、子どもの成長に不可欠な要素である。そのためのスキルも、連載でお伝えしてきましたね。 基礎となる保護者編の「見守る」「聞く」「質問する」からスタートして、指導者編の「知る」「引き出す」「話す」へと、連載は続きました。それらのすべては、大人の立ち居振る舞いである、と言い換えることもできるでしょう。また、連載のどの回においても、子どもに何かを求めるという内容は一切ありませんでした。大人自身が、どのように対応していけるか、という知識を具体的に説明してきました。 さらに、「共感」「傾聴」というスキルにも触れましたね。やはり、スキルについても持ち合わせているのとそうでないのとでは、現場での対応の仕方が大きく違ってくるようです。かつて、高校野球部の監督をしていた私自身もそうでした。 スキルを得てからは、何があっても落ち着いて、俯瞰して対応できるようになりました。しかし、それ以前はすぐに感情的になってしまい、指導が行き詰まることも多々あったと記憶しています。 連載ではまた、お父さんコーチたちへも指南しました。その役割や、子どもの野球好きを助長・加速する手段にも言及。例えば、子どもが主体的に取り組むために、子どもたちと話し合いながら練習や試合を進めていく。子どもは各々、野球のどんなところが好きなのかを知る。上手くいかないときにこそ寄り添う…。 以上のように振り返ってみても、大人側の力量がいかに重要であるかが分かります。大人たちが子どもに与える影響というのは、それほど大きい。絶大である、ということですね。 家庭での子育ても、同じではないでしょうか。我が子の一番近くにいる大人は親ですね。その親の影響は、良くも悪くも最大の力となる。子どもは毎日、親と一番近くで接して、親を一番近くで感じて、親を一番近くで見ています。 ですから、親としてまた指導者として、ぜひ、メンタルコーチングを理解・実践してほしいと願っています。身を助けてくれることも、大いにあるはずです。 高校野球の元監督であり、メンタルコーチであり、スポーツマンシップコーチでもある私の見地から、連載の終盤には野球界の課題にも触れました。新たな提言もさせていただきました。繰り返しになりますが、最もお伝えしたいのは下の6行です。 チームあっての野球。 選手あっての指導者。 指導者あっての選手。 保護者あっての選手。 保護者あっての活動。...
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連載『メンタルコーチング』⓮「尊重」と「オ...
「選手ファースト」「アスリート・ファースト」「アスリート・センタード」。昨今の日本のスポーツ界でも、よく見聞きするようになりました。スポーツは指導者や大人のものではなく、あくまでも選手が中心であり、選手が主体性をもって主役になる。こういう考え方ですが、さらに進化した「オール・センタード」という考え方を私は提唱しています。もちろん、学童野球に携わる大人のみなさんも、それでハッピーになれるはずです。 (監修/諸星邦生) vol.14 子どもも大人もオール・センター 私は現在、一般社団法人の日本スポーツマンシップ協会のスポーツマンシップコーチとしても活動しています。同協会では、理想とするグッドゲームを実現するための心構えとして「尊重」「勇気」「覚悟」というキーワードを掲げています。 もっとざっくりと言うと、その3つの気持ちを持つことがスポーツマンシップである、と具体的に定義しています。中でも大人のみなさん、指導者や選手のお父さんお母さんたちにオススメしたいのは「尊重」です。 当たり前のようでいて、どこか不明瞭。人によって解釈の中身も幅も異なるものが、世の中にはたくさんあります。「尊重」もそのひとつではないでしょうか。 辞書をひも解くと「尊重」とは、「価値のあるものとして扱うこと。尊いものとして重んずること」という説明がされています。では、みなさんの人間関係はいかがでしょうか。家庭、職場、野球チームなど、あらゆるコミュニティにおいて、ご自分と人との関係を思い返してみてください。 相手を尊重することができているでしょうか。活動する野球チームでは、人と人とで尊重し合うことができているでしょうか。 野球は団体競技。少なくとも9人の選手がそろわないことにはチームは成り立ちません。学童野球は特に、指導者がいないと選手は路頭に迷ってしまいます。また保護者がいるからこそ、できている活動もたくさんありますね。練習試合だって、対戦相手と審判がいて初めて実現するものです。 要するに、それぞれの存在(人)で成り立つのがスポーツであり、学童野球チームやその活動なのです。このように俯瞰して考えてみると、互いを認め合う「尊重」の必要性や重要性が分かってくることと思います。 日常の立ち居振る舞いは? 大人のみなさんには今一度、考えてみてほしいと思います。またぜひ、ふだんのご自分の言動を客観的に振り返ってみてください。 同じグラウンド上にいる人たちに対して、価値のある存在、尊い存在として接することはできていますか? その評価・程合いは可視化や数値化ができるものではありません。しかし、往々にして立ち居振る舞いに表れるというのが私の経験則です。 立ち居振る舞いとは「姿勢・話し方・聞き方・歩き方である」と、私は定義しています。またそれをそのまま、指導・サポートする高校生や大学生たちにも伝えています。 指導者のみなさんは、選手や保護者の前でどのような立ち居振る舞いをしていますか? 保護者のみなさんは、選手や指導者の前でどういう立ち居振る舞いをしていますか? 最初はそんなつもりはなかったのに、「監督」や「コーチ」や「保護者会長」などの肩書きを授かって活動しているうちに、高圧的な物言いや横柄な態度が当たり前になって常態化している。人に何かをしてもらっても、礼のひとつも口にできなくなっている。そういう大人も、少なくはないのではないでしょうか。 過去は取り戻せませんが、未来は今から変えていくことができます。「尊重」という基準から、自分を冷静にジャッジしたり、襟を正すことができる。そういう大人たちがいるチームはきっと、雰囲気や空気感から良い方向へと転じていけることでしょう。 新たな提唱、みんなを笑顔に! さて、ここからはスポーツマンシップコーチとして、指導現場で実践をしてきた私なりの考え方を提唱したいと思います。「選手ファースト」や「アスリート・センタード」をアップデートした「オール・センタード」という考え方です。 学童チームの大多数は、互助団体ですね。大人たちの相互の協力で活動が成り立っています。 保護者であっても、指導やそのサポートを求められるケースがあります。チームの方針や指針は、創設者や毎年の指導者が決めるのが一般的だと思いますが、チーム内で明示・共有するべきものです。そこには保護者の思いもあるため、都度の指導者の立ち居振る舞いが問われることでしょう。同時に、保護者にも相応の立ち居振る舞いが求められます。 お互いに尽くした姿勢でコミュニケーションをとる。これが「尊重」となり、その影響は好循環として選手にも届くはずです。それが前向きなプレーやパフォーマンスのアップ、さらにはチームワークの醸成につながることもあるでしょう。指導者と保護者間の意見交換は、不可欠ではないにしても非常に大切だと私は考えています。 私は高校野球の監督をしていた時代に、選手の母親たちと「情報交換会」を開いたことがあります。各選手の学校での様子や家庭での様子を、みんなで共有するという試みでした。 すると、母親たちで共感し合うことも多々。また監督である私に対して、求めていることなども言葉にしてアウトプットしてくれました。そして母親たちには「監督が話を聞いてくれた」という思いが広がり、私(監督)の「親たちが話をしてくれた」という思いとも重なり、互いを尊重することにつながっていきました。 今から振り返っても、非常に有意義であったと感じています。これは一例に過ぎませんが、やはりコミュニケーションをとればこそ、認め合いが生まれるのです。...
連載『メンタルコーチング』⓮「尊重」と「オ...
連載『メンタルコーチング』⓭あるべきチーム...
野球人口の減少。それが少子化を大きく上回るペースであることが問題で、その原因は多数あって複雑に絡んでいる。そんな野球界に対する、世間からのイメージは相当にマイナスの方向へ振れてしまっているようです。それでもなお、たくさんの選手が集まる学童チームもあります。一般的な親子からも「野球」が選ばれ、野球場に子どもたちが集まるようになるには、どうすればいいのでしょうか。メンタルコーチの立場と経験から、提言をしていきたいと思います。 [監修/諸星邦生] vol.13 世の親子から「野球」が選ばれるためには まずは、子どもの特殊性から踏み込でみましょう。どの時代にあっても、子どもには一定の共通した性質や行動パターンがあると思います。 では小学生たちは、どんな場所に集まるのでしょうか。集まりやすいのでしょうか。自分の時代も思い返して、考えてみてください。 ●友だちがいる ●楽しそうなこと面白そうなことをやっている ●好きなことができる おそらく、上記のような答えが最大公約数になってくると思います。 では、少し強引ですが、そこに「野球」を絡めて順にイメージしてみましょう。 ❶友だちと野球をする ❷ボールを打ったり投げたり捕ったり、を楽しむことで笑顔になる(楽しい・面白い・好きになる) ❸笑顔のある場所に人が集まる いかに、そういうサイクルや環境を確立するか。これが普及への大きなポイントではないかと私は考えています。 試合に勝つことや大会で何度も優勝しているとか、レベルが高いとか。現場に出てみると、そういう理由から集まる子どもというのは、実はそう多くないことがわかります。 もちろん、結果として勝利することや、野球レベルが上がることは当然あるでしょう。でも大前提として、「選手が楽しむことができる環境」にないチームには人が寄り付かなくなってきて、活動も存続も危ぶまれる。年々、この傾向が強まっているように感じます。 厳しくしなければ成長しない! 楽しいだけでは勝てない! それは大人の勝手な妄想です。スポーツをする子どもにとっての「厳しさ」の真実や概念は、当連載の第7回(➡こちら)でお伝えしました。「厳しさ」とは、大人が設定するものではなく、選手が自ずと感じるもの。小学生はそれだけで十分です。 どんなに楽しく野球をしていても遅かれ早かれ、試合中に大きなプレッシャーを感じる場面が必ず訪れます。また練習でも、同級生に後れを取ったり、なかなか思うようにできないなど、壁に当たることが必ずあります。それらを乗り越えられる選手を育てること、それこそが「育成」だと私は考えています。 世間一般のリサーチでは、「野球は練習が厳しい」「野球は練習が長い」というイメージが定着しているようです。 それを「野球は楽しい」「野球は面白い」へと変えていくためには、何が必要でしょうか。 強いチームは明るい! 私はメンタルコーチとして活動していますが、高校生や大学生にも「強いチームの共通点は明るさ」と伝えています。その「明るさ」とは、野球を楽しめるかどうかの度合い、と定義しています。 試合になれば、ピンチの状況もほぼ確実にやってきます。そのときに「ここでこうやって抑えたら、めっちゃすごいじゃん!」などのイメージを持つことで、成功させる楽しみが湧いてくる(セルフイメージ・セルフトーク)。そしてそのマインドが、実際に成功を呼び込むのです(可能性を高める)。 このように、前向きになれることが明るさである、と伝えています。練習時から、選手たちが前向きな気持ちで取り組めるように導くことが、指導者の大事な役目。大好きな野球を明るくできる環境にあれば、選手たちは表情も豊かになります。現にそういうチームには、自ずと人が集まっています。 学童野球は、プロ野球のミニチュア版ではありません。試合の結果や個人成績に応じて、報酬が発生するわけでもありませんね。...
連載『メンタルコーチング』⓭あるべきチーム...
連載『メンタルコーチング』⓬シンパシーでな...
「練習に行きたくない」「野球をやめたい」――。ある日、我が子がそう訴えてきたら、お父さんお母さんはどうされますか? まずは理由が知りたいですね。でも待ってください! 本意や真相に迫るには、即座の質問攻めは逆効果のことが大半。では、どうすれば――。今回はそのスキルを紹介していきます。「ウチの子に限って…」はありません。野球に限ったことでもありません。子どもはいつ、何に対して拒否反応を示すのかわかりません。大人がそこで慌てないためにも、よりベターな対応を学んでみてください。 [監修/諸星邦生] vol.12 我が子が「やめたい」と言ってきたら 「練習に行きたくない!」「もう野球をやめたい!」 そこまでハッキリと意思を口にしないまでも、我が子が落ち込んでいたり、いつものような元気を失っている。そういうことはどの家庭でも、日常的にあると思います。 もしかしたら、練習中に叱られたのかもしれません。自分のミスから失点して試合に負けてしまったのかもしれません。理由はともかく、まず心配になるのが親というものですね。 当連載の開始当初を振り返ってみてください。 第6回までの「基本編」では、親子の関係を健全・良好とするには、日々のコミュニケーションがいかに大切であるかを訴えてきました。またそのための大人のスキルとして、見守ること、傾聴すること、ジャッジしないことなどを紹介してきました。 明らかに負のマインドにある我が子に対しては、それらに加えて「共感」というスキルを強くオススメします。 以前にも少し触れましたが、この「共感」は心理面のカウンセリングにも用いられます。英語では「エンパシー(empathy)」、その意味を調べると『人の意見や感情などに、その通りだと感じること。また、その気持ち』とあります。 響きも意味合いも似ている言葉に「シンパシー(sympathy)」というものがありますが、決定的な違いもあります。エンパシーは相手の立場になって想像したり、相手を思いやること。一方のシンパシーは、あくまでも自分の立ち位置から共感や同情を寄せることです。ポジジョンが違えば、物事の見え方や感じ方もまた違ってくるものですね。 悩める子どもに対して、保護者にまず求められるのは、本人の気持ちにしっかりと寄り添ってあげること。つまり、エンパシーです。大人の目線や親の立場からジャッジするのではなく、できるだけ子どもと同じ目線、同じ境遇や状況を想像して思いを馳せてみる。すると自然に、「そうなんだね」「そうだよね」という言葉も出てくることでしょう。 子どもには子どもなりの感情があり、物事の捉え方をします。これは大人も含めて同じです。「練習に行きたくない!」「野球をやめたい!」と思うのは、子ども自身の感情です。 それに対して、まずは「そうか、行きたくないんだね」「やりたくないんだね」と共感する。そうして保護者が親身に寄り添うと、子どもは安心するものです。逆に絶対に避けるべきは、質問攻めです。 現状や真相を突き止めて、自分にできることなら何とかしてやりたい、と躍起にもなるのが親というもの。しかし、「なんで行きたくないの?」「なんでやめたいの?」「何があったの?」など、矢継早に聞けば聞くほど、子どもは心を閉ざしてしまうことでしょう。何かしら返事をする子もいるでしょうが、本意はきっと心の奥にしまわれたまま。それでも質問を浴びせられ続けると、ついには「行きたくない」「やめたい」も言わなくなり、心を堅く閉ざしてしまうこともありえます。 親も人間ですから、我が子の口から思わぬことや好ましくないことを告げられれば、驚いたり、動揺したり、うろたえたりすることもあるでしょう。でも、そこは人生の大先輩ですから、まずは自身の感情には蓋をして、子どもの感情を最優先にしてあげたいものです。そのための有効なスキルが、エンパシーです。 指導者の大人もまた然り 私が高校野球の監督をしていた時代を振り返ってみると、選手の心に蓋をしていた時期が長くありました。何でもすぐに理由を聞き出そうとしてしまい、結果的に本心を聞いてあげられなかったことも多々あります。 基本的に練習は休ませない。いちいち嫌なことから逃げ回っていたら、ろくな人間に育たないし、目標到達もありえない。そういう考えの下、徹底的な監視で選手をがんじがらめにしていた自分を悔いています。指導者サイドの思い込みや根拠も危うい正義感が先行し、選手たちに寄り添ってやることがまるでできていなかった時代がありました。 指導者も保護者と同じで、悩める選手を何とかしてあげたいと思うもの。そのため、即時の回答を求めたり、できるだけ早期の速やかな解決をはかって行動します。その瞬間は、選手を全力で守ってあげようとの思いに突き動かされているのですから、必ずしもすべてがNGとは言い切れません。 ただし、子どもに限らず、人の感情は第三者がコントロールできるものではありません。これは事実です。にもかかわらず、強引にコントロールをしようとすると、どうなるでしょう。高圧的に話をしたり、肩書や身分をもって強制的に前へ進めようとしたり。こういう一方通行では、選手の気持ちが完全に置き去りにされてしまいます。 練習に行きたくない、野球をやめたい――。子どもがこういう気持ちになる理由は、さまざまです。上達の足踏みや試合で結果が出ないことで、おもしろさを感じなくなっている時期かもしれません。自信や希望が薄れたり、劣等感を募らせていたり。対指導者だけではなく、仲間との関係がギクシャクすることもあるでしょう。あるいは、他にやりたいことができたということも……。 繰り返しになりますが、保護者や指導者がそういう核心に触れるには、すぐに聞き出そうとしないことです。本人のほうから理由を伝えやすくなる環境を整えることに、まずは注力することをオススメします。遠回りのようですが、即座の質問攻めや手荒な詰問より、核心に迫れる可能性が高いと思います。 ぜひ、エンパシーというスキルを活用してください。「私はあなたの味方だよ」という思いで、そっと寄り添ってあげることで安心感が相手に伝わります。子育てや指導をする上で、子どもや選手に安心感を与えることは、心と体の成長に良い影響を大いに与えてくれます。 ...
連載『メンタルコーチング』⓬シンパシーでな...
連載『メンタルコーチング』⓫練習のプログラ...
野球とはこういうもの――。ルールや競技性は不変ですが、価値観や好みは人それぞれです。ところが、学童野球の現場では、指導者や保護者からの一方的な強制が見受けられます。選手はそれが元で、野球の熱が冷めてしまったり、中学で継続しない、という残念な事態も。子どもが野球を好きなままでいるために――身近な大人たちが果たすべき役割と具体的な方法を紹介していきます。 [監修/諸星邦生] vol.11 子どもが野球を好きなままでいるために 「野球のどんなところが好きですか?」 指導者や保護者のみなさんは、そういう質問を受けたら、どう答えますか? 私ならこのように答えます。 「仲間と力を合わせたり、相手と駆け引きをしたりするところが好きです」 当然ですが、回答には正解も不正解もありません。十人十色ということです。 しかし一方で、その「自分の好き」をチームの選手たちや、わが子に押しつけようとしていませんか!? 無自覚であることが大半だと思いますので、日ごろの自分を客観的に振り返ってみてください。 『野球とはこういうものだ』『練習はこうするべき』という、一個人の価値観や経験だけで子どもたちに接していませんか!? 試合で勝つには、大人の経験に基づくのが手っ取り早いのだと思います。ただし、子どもが野球を好きになる理由は、必ずしも「勝利」だけではないことも知っておくべきではないでしょうか。 ではどうしたら、選手たちの「好き」を伸ばしていけるのでしょう。私が理事を務める一般社団法人 野球まなびラボの代表・松井克典とともに実施した『学童野球アンケート(2021年2月発表)』も参考にしながら、考えていきたいと思います。 ■学童野球調査 【子ども編】リンク先➡こちら 【保護者編】リンク先➡こちら ※調査対象(有効回答数)=全国の野球チームに所属する小学生(293)と保護者(712) まず、子どもたちが野球を始めた理由です。「野球が好きだから」という回答が約4割でした。好きになった理由はさまざまだと思いますが、チームに入る前から「好き」という感情が芽生えているのはとても素敵なことです。 ぜひとも、その気持ちを伸ばしていける、助長していける指導者になりたいものです。少なくとも「好き」という感情を消滅させないことが、指導者の責務ではないでしょうか。 次に、野球の何が好きなのか。この問いに対する答えは、圧倒的に「バッティング」で、77%に上りました。 この顕著な結果は、練習メニューを組み立てるときにも役立つと思います。打撃に割り当てる時間を増やせば、選手たちの約8割は自ずと好きなことに取り組んでいることに。それが「楽しさ」につながっていくと考えられます。この「楽しい」と感じることが、さらなる意欲や好奇心などプラスをもたらすことも十分にあるでしょう。 もちろん、野球は打つことだけではありませんね。個々の可能性を広げつつ、失点を減らすには守備練習、得点率を上げるには走塁練習も必要です。 打撃練習と並行して、守備の基礎練習をグランドの空きスペースで行うのも有効でしょう。打撃練習に走者も入れて、走塁の判断力を磨くこともできると思います。選手たちは「次は打つ番だ!」と、ワクワクしながら守備練習や走塁練習ができるかもしれません。 これはほんの一例ですが、練習メニューの内容や組み合わせ、順番などプログラムをひと工夫するだけでも、選手の反応は違ってくることと思います。 また「打撃練習」といっても、トス打撃(ペッパー)、ティー打撃、フリー打撃、実戦形式といろいろありますね。目的や時期、レベルで選択されると思いますが、いずれにしても「待ち時間」を削ることがポイントです。何もすることなく、ただ順番を待っているのは大人でも退屈ですね。...
連載『メンタルコーチング』⓫練習のプログラ...
連載『メンタルコーチング』❿低学年チームの...
学童野球の指導の難しさは、技術に加えてルールやゲーム性も教えていくところにあると思います。体も心も未熟で、習熟度や理解力も個人差が激しい低学年生なら、なおさらです。何からどう手をつければいいのか、悩まれる指導者も多いことでしょう。では、対象を初心者・低学年生チームに絞って、活動の柱となる練習と試合について提言していきたいと思います。 [監修/諸星邦生] vol.10 結果よりチャレンジにフォーカスする 指導者の「分かっているだろう」「これくらいできるだろう」という思い込みに反して、試合でプレーしている選手たちは知らないことや不安だらけ。低学年チームでは、そういう状況も珍しくないことでしょう。頭数が減っている昨今は、ルールもまともに知らないうちから対外試合や大会に駆り出されるケースもあると聞きます。 ボールを捕る・投げるという基本がある程度備わり、選手同士でキャッチボールが続くようになるまでは、対外試合は避けるべきでしょう。最近はイニング5得点で自動的に攻守交替などのローカルルールも広まっているようですね。一方で、1回表が終わらないまま、野球とは思えないスコアでタイムアップというケースが地区大会の序盤戦で見られます。こういう気の毒な試合は、敗者にはマイナスでしかなく、勝者にもプラスや好影響はあまりないことでしょう。 最低限のボールを捕る・投げるができるようになってきたら、同程度のチームと試合をしていくのは悪くないと思います。野球の醍醐味や真の楽しさは、実戦でプレーをすればこそ分かることが多いのも事実。計画的に実戦を積んでいくほうが、ルールやゲーム性を理解しやすいという側面もあるでしょう。 ただし、試合になると、選手はまだ分からないことばかりのはずです。未体験のことも次々に起こると思います。そういう中で、みなさんのチームではどういう指導をされているでしょうか? たとえば、ライトを守る選手が、自分はどこに位置すればいいのかよくわからない、と困っている――。 試合中に選手が分からないことがあれば、私はその場で具体的に指示します。立ち位置がよくわからないというライトの選手には「そこを守っていればいいよ!」と明確に場所を伝えます。その立ち位置の理由も含めて、試合中にそれ以上を教えることは控えます。 ヘタに考えさせるより、安心してプレーしてほしいからです。そして試合後に、本人に分かるように説明します。状況が許せば、そのままライトのポジションまで行って確認をしながら練習します。 経験が浅いほど、人は不安になります。未知のゾーンが広いほど、足がすくむものです。ですから低学年の試合では、安心してプレーできる環境をつくってあげることが最優先だと私は考えています。 大前提として、指導者には子ども目線での理解と想定が必須。当たり前ですが、敗者になりたくて試合に臨む選手はいません。打ちたいと思っても、バットが振れないことがあります。アウトにしようと思ってプレーしても、エラーをしてしまうのが子どもです。 試合では、最初から気持ちが一杯いっぱいという選手が大半でしょう。そこで無理に何かを教えようとすると、パニックを招くことがあります。思考が停まり、その後のプレーにも悪影響ばかりに。指導者がノータッチでも、分からないことが続くなどして涙を流し、フリーズしてしまうケースもあります。 試合中は、そういう涙の原因をいちいち追求しなくてもいいと思います。選手1人だけにかかりきりになると、進行に支障もあるでしょう。まずは安心させてあげることが肝要。そのために、次に何をするのかを具体的に伝えてあげます。 「バットを3回振っておいで」 「一球一球、自分で守っている位置を確認してみて」 試合中はそうした指示だけで十分ではないでしょうか。 「できるだろう」「分かっているだろう」「知っているだろう」…指導者が端からこういう頭でいると、試合中は腹が立つばかりだと思います。 試合をしてみると、教えきれていなかったことが見えてきます。まったく教えていなかった部分にも、たくさん気付くはずです。指導者は常にそういう視点に立って、確認と振り返りをするべき。そこでの「気付き」が、次の練習を有効なものとしてくれるはずです。あるいは、練習内容や指導方法の見直しの必要性を自ずと感じることもあるかもしれません。 技術練習と、実戦的な練習に区分 練習は技術練習と実戦的な練習に分けることをオススメします。この区分けによって、選手たちの思考を整理・コントロールすることも容易になります。 技術練習は、ボールを捕る・投げる・打つなどの各項目を、いくつかのパートに分けて反復する。一般的に「ドリル練習」と言われるもので、基礎技術の習得にも非常に有効です。 部分的に取り組むことで、体得したい内容が明確になり、難易度が下がって数もこなせるので集中も続きやすくなります。ただし、「ドリル練習」はやりっ放しで終わらないことが大切です。各ドリルの成果や習熟度は、一連の動作を通してやってみて初めてわかるからです。時には本人も驚くほど、送球や打球が激変することもあるでしょう。 個々のスキルアップと、チームとしての戦い方の浸透と精度アップ。それぞれ区分して練習をすると、子どもも混乱しにくい 実戦的な練習は、野球のルールやゲーム性など知識の習得と、戦い方の共通理解が主な目的となります。...
連載『メンタルコーチング』❿低学年チームの...
連載『メンタルコーチング』❾応用編「心理的...
100%に近いボランティアの指導者で成り立っている。これも学童野球の外せない側面です。また、指導者でも圧倒的多数を占めるのは、選手の父親である「お父さんコーチ」ですね。キャリアの長い監督も、多くは出発点がそこだったという話も聞きます。そこで、父親コーチの役割について、メンタルコーチングの分野から言及してみたいと思います。 [監修/諸星邦生] vol.9 お父さんコーチの居場所と役割 我が子が入団した野球チームから、このように誘われてコーチデビューした、という方も多いことと思います。 「お父さんもぜひ、お時間があるときには手伝いに来てください!」 ボール拾いくらいなら――。軽い気持ちで始めたところ、大人の手が足りなくて週末はチームに付きっきりになるとか、手伝っているうちにだんだんのめり込む、というパターンもよくあるようです。逆に最初からコーチ志望で、正式なチームスタッフとして指導現場に立つケースはあまりない印象です。 高校野球で長らく監督をしていた筆者も、地元の学童野球チームでお父さんコーチを経験している 私も過去に3カ月ほど、息子の学童チームでコーチをさせていただきました。指導者が不足していたことに加えて、私が長らく高校野球で監督をしていたこともあり、「経験を子どもたちに還元してほしい」との依頼。監督が仕事で不在のことも多く、そういう日は練習をほぼ任されました。 そこで私が指導したことは、高校生を相手にしていたときと大きくは違いませんでした。主な内容と意図は、以下の通りです。 【技術面の指導】 ■学年や体格、技術の習熟度別に練習を区分(守備・打撃)➡安全かつ総体的な上達を促進するため ■指導はできるだけ全員(指導者・保護者も含め)の前で行う➡他の大人にも習熟度練習を任せるため ■走塁の基礎は全員で練習する➡試合時に同じ目標を持てるように 【全員の約束事】 ■グランド整備や道具の準備と片付けを率先して行う ■元気よく野球をする ■道具の整理整頓を心掛ける ■チームを大切にする 上記の約束事は、私が指導していた高校の野球部とほぼ同じです。もちろん、伝え方は変えました。小学生には言葉だけでは伝わらない部分が多いので、自分(指導者)も一緒にやりながら、という点も意識していました。 そうした指導による変化や成果を汲み取るには、3カ月(しかも週末のみ)という時間はあまりにも短すぎました。それでも、保護者の方々から「ウチの子は野球が好きになった」「楽しく野球をするようになった」という声をいただくことはありました。 さて、その短い指導期間に、私が少し悩んだのは、チームのキャプテン(当時)をしていた息子との距離感です。親子で同じユニフォームを着て野球ができることに喜びがある反面、難しさも感じました。これは私に限らず、父親コーチ(お父さんコーチ)に共通するものだと思います。 私の場合は、全体練習の中では息子より他の選手を優先的に指導していました。思うようにいっていない選手が息子だったら、対処は後回しにしていたような気がします。思い返すと、当時の息子の寂しそうな表情も浮かんできます。その場その場で、しっかりと指導してあげるべきだったなと反省しています。 遅かれ早かれ、息子・娘絡みのそういう局面に出くわすのも父親コーチの宿命でしょう。自戒も込めて、現役の父親コーチにお伝えしたいのは、我が子も我が子以外の選手も「平等が一番ベターである」ということ。すべての選手に同じように指導して、同じように接するのが理想だと私は思います。 それでも保護者からは「自分の子だけ、ひいきしている」とか「平等じゃない」など思わぬことを囁かれたり、そういう目で見られることがあるかもしれません。でも、そこは切っても切れない親子なのですから、仕方のないことです。 逆に、周囲の目を気にするあまり、自分の子にだけは明らかに厳しくしてしまっている父親コーチ、みなさんのチームにもいませんか? あとから後悔したり、心の中で我が子に詫びたりしても、やってしまった事実と我が子の切ない気持ちは消えません。ならば人にどう思われようが、自分の中(主観)で平等という正義を貫いたほうが、よほど健全で賢明ではありませんか?...
連載『メンタルコーチング』❾応用編「心理的...
連載『メンタルコーチング』❽応用編「切り替...
本気でスポーツをしていれば、厳しい状況は自ずとやってくる。つまり「厳しさ」は指導者が与えるものではなく、選手が感じるもの。前回の応用編❶では、そこまで言及しました。では、試合中のミスや失点直後など、より厳しい状況にある選手に対して、指導者はどう対処するべきか。「責めない」代わりに「切り替え」を促すのがオススメ。その目的と効果、実践例を紹介していきます。 [監修/諸星邦生] vol.8 責める代わりに切り替えのススメ 徐々に確実に変化はしているものの、いまだに昭和チックな一方通行の指導や大人の高圧的な言動も散見される野球界。みなさんは、昨今の指導現場をどのように感じていますか? 今も昔も、週末のグラウンドで指導者のこういう声はよく耳にすることと思います。 「おい、切り替えろ~!」 「切り替え、切り替え!」 試合中に手痛いミスをした選手にその場で。あるいは失点したり、逆転されてから3アウト目を取ってベンチに戻ってきた選手たちに対して。 そこで使われる「切り替え」という短い言葉には、過ぎたこと(ミスや失点など)は忘れて、次のプレーに集中しよう! というメッセージが込められているのだと思います。私もそういう意図で、このフレーズを使うことがままあります。 ただし、単純にその言葉を発するだけでは、事態が何ら変わらないことも多いことでしょう。「切り替え!」を連発し過ぎても、あまり効果を得ないことも十分に考えられます。 野球や子どもだから、効き目がないのではありません。われわれ大人でも、日常や仕事中の失敗を引きずることが少なからずありますね。ましてやそれが、野球の知識も経験も乏しく、人格形成も途上の子どもとなれば、ついさっきの失敗からなかなか立ち直れないこともあって当然なのです。 5年生や6年生、いや、かつて私が指導していた高校生でも、指導者からの「切り替え!」の一語でマイナスの感情を抜け出せるケースは、それほどないと思います。ミスや失敗の重さにもよりますが、逆転タイムリーエラーや、一打同点のチャンスで見逃し三振など、厳しい結果であるほど尾を引いてしまうものです。 指導者に責められた選手は… 過去に高校野球の監督をしていた私は長いこと、選手のミスや失敗を一方的に責め立てていました。時には感情のまま、こういう言葉を平気で吐いて責任を押しつけていたのです。 「オマエのあのミスで負けたな!」 「何でできないんだよ!」 「意識が足りないからだろ!」 そういう言葉を吐かれた選手が、思考停止(ある種のパニック)に陥ることも多々あったと記憶しています。しかし、当時の私は、メンタルトレーニングやコーチングの知識も皆無。「監督」という立場をいいことに高圧的に発する言葉には、経験則以外の根拠に乏しく…。 ただがむしゃらに「気持ち」や「気合い」で解決できると信じていました。今こうして振り返っても、当時の教え子たちには申し訳なさしかありません。 ではなぜ、選手を責めてはいけないのでしょうか。前述した通り、選手が思考停止の状態に陥ってしまうからです。試合中に思考がストップしてしまうと、以降のプレーでパフォーマンスを発揮するのは極めて困難です。 野球は1球1球に「間」があります。そこで頭を使い、適切な準備や判断・理解をすればこそ、本来のパフォーマンスを発揮できるのです。そして選手たちのパフォーマンスの度合いが、勝敗を左右することは言うまでもありません。 にもかかわらず! 指導者の言動がパフォーマンス発揮を妨げているケースがいかに多いことか。またこの事実に、指導者自身が気付けていないことがさらなる罪。かつての私のように…。 ミスをしようと思ってミスをする選手はいません。すべての選手が、成功するために、成功を願いながらプレーをしています。 今の私であれば、試合中にミスや失敗をした選手には間髪を入れず、次のプレーや行動の準備をさせます。そのためには、どのような言葉が有効でしょうか。...
連載『メンタルコーチング』❽応用編「切り替...
連載『メンタルコーチング』❼応用編「厳しさ」とは
「楽しい」の対義語は「厳しい」ではなく、「つまらない」です。昨今の学生野球の現場では、楽しいか、厳しいか、で二分するような極端な議論や是非、反目が広がっている気がしてなりません。メンタルコーチングの応用編、第1弾はそもそもの「厳しさ」に迫ります。 [監修/諸星邦生] vol.7 叱ることと、責めることの違い 「今の時代、指導する側が厳しくできなくなって…」 50歳の元メジャーリーガー、イチローさん(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が、高校球児たちを指導する動画の中でそういう話をしていました。そして、このように結んでいます。 「自分たちで厳しくするしかないんですよ」 今回の連載を読んでいただくと、イチローさんのその言葉の真意や深さにも気付けるのではないかと思います。 「厳しい」の意味 みなさんは、「厳しい」という言葉から何を連想されますか。ハードな練習、引きつった選手の顔、指導者の怒声や鬼の形相、スパルタ指導など、いろいろと浮かんでくると思います。国語の辞書をひいてみると、次のようにありました。 「失敗や過ちなどを少しも許さないこと」 「厳格」 「程度が甚だしいこと」 「容易ではないこと」 「張り詰めている様子」 「緊迫している様子」 正しい意味を知ると、イメージも具体的になるはずです。さらに意訳も加えて、野球チームにおける「厳しい」とは、おおよそ次のような状態を指すのだと私は定義しています。 失敗を許さず、行き過ぎた指導で威圧的に緊張感を与え、選手は考える隙間がない――。 実は私も、高校野球の監督時代に長いこと、それを常態化させていました。試合でのミスを必ず責め立てる。それによって選手の気持ちを刺激し、奮い立たせようと考えていたのです。 しかし、それが逆効果であることを私自身が理解するまでに、かなりの時間を要しました。結果として選手は「ミスしちゃいけない!」「ミスしたら怒られる!」というマイナスの心理に陥っていたことも知らず、間髪入れずに大声での指摘を繰り返していました。それでどれだけ、選手の可能性をつぶしてきたことでしょう。 では、「厳しい」の何が問題なのか。これをメンタルコーチングの視点から解説していきたいと思います。 失敗を全否定しない まず問題なのは、「失敗・過ち=いけないこと」という考え方。これが、チャレンジを恐れてしまう原因になるのです。もちろん、指導者も選手も求めているのは成功であり、失敗は推奨されたり、称賛されるものではありません。 ただし、失敗の経験から学ぶことというのもたくさんあるのです。指導者がそういうマインドを持つと、「許すこと」ができるようになっていきます。それによって、選手が果敢にチャレンジできる環境が整うことにもつながります。 果敢にチャレンジできる環境――これは選手にとって決して、気楽なものではありません。チャレンジとは「挑戦すること」「困難な問題や未経験のことなどに取り組むこと」(国語辞典より抜粋)。容易ではないし、相当な勇気を必要とするはずです。つまり、選手にとっては厳しい状況が自然と生まれているのです。 では、実際に試合中にミスが起こったときに、指導者はどうするべきか。その瞬間に「切り替え」を促すことが大切です。反省や振り返りは、試合が終わってからでもできますね。試合中は次のプレーへの準備を優先することが、成功の確率を高め、チャレンジにもつながっていきます(※「切り替え」の詳細は次回に)。...
連載『メンタルコーチング』❼応用編「厳しさ」とは
連載『メンタルコーチング』❻指導者も幸せに...
選手たちのやる気や集中力を高めるには、どうしたらいいのでしょうか。かつては、恐怖や痛みをもって強制する指導もありました。人格を無視するような言動が許されない今の時代、悩まれている指導者も多いことでしょう。そこで今回のテーマ「引き出す」が、ヒントやきっかけになれば幸い。キーワードは「イメージ」です。 [監修/諸星邦生] vol.6 潜在意識や能力を表に導くスキル メジャーリーグで活躍する大谷翔平選手が、日本全国のすべての小学校に計6万個のグラブを寄贈、というニュースが先日ありました。 とても素晴らしいことだと思います。野球少年・少女はもちろん、感激するはず。また野球をしたことがない子どもでも、興味や関心を抱くきっかけになることも大いにあるでしょう。 現在、小学校の体育では、「ベースボール型の授業」が採用されているところもあります(任意)。ただし、その授業では軟らかいボールを素手で扱うので、野球用のグラブを目の前にしたり、触ったりしたこともない小学生が圧倒的に多いはずです。そのグラブを実際に手にはめてみれば、使ってみたいという感情がわいてきても不思議はありません。 さて、今回の大谷選手の行動。子どもたちの興味や能力、潜在意識を引き出すという意味で、指導者の大きなヒントにもなり得えます。ちょうど今回のテーマでもある「引き出す」ということの、具体例のひとつにもなっているのです。 もしかすると、大谷選手からのメッセージは、全国の子どもたちにだけに発信されたのではないのかもしれません。指導者や野球界の大人たちは、称賛で終わらずにもう一歩踏み込んで、大谷選手の本意に迫ってみるのも大切ではないかと思います。 机の引き出しの中には? それでは、メンタルコーチングの「引き出す」というスキルについて、掘り下げていきましょう。 指導者のみなさんは、「引き出す」という言葉から、どのようなシーンをイメージされますか? 有無を言わせぬ強制的な技術指導、打撃練習や投球練習中のそういうワンシーンが浮かぶ人もいるかもしれませんね。あるいは、プロ野球の「名コーチ」を思い浮かべる人もいることでしょう。 ではちょっと具体的に、小学生の自宅の机の「引き出し」をイメージしてみてください。その引き出しの中には、何が入っているでしょうか? 鉛筆、消しゴム、三角定規、コンパス、ハサミ、糊、ホッチキス…。 それらは、使用者(小学生)の中にある答えを引き出してあげるための、必要なアイテムとなります。逆に言うと、鉛筆や消しゴムを用いながら、使用者の心の内を自ずと明らかにしてあげる。 ちょっと難しい比喩だったかもしれませんが、メンタルコーチングにはそういう手法があります。 答えは自分の中にある――。これは心理学でよく言われていることです。 「今、何をしたいのか?」「今、何を考えているのか?」という問いに対する答えは、各自の心の中にあることが多い、ということです。 だからといって、その答えを強引に言わせるのはNG。潜在している答えに自分で気付かせ、それを自然に言動としてアウトプットさせてあげる。それが指導者に必要な「引き出す」というスキルであり、そのテクニックとして用いるのがアイテムというわけです。 ■会話で引き出す ■紙に書かせて引き出す ■動作で引き出す ■表情で引き出す 引き出す方法は上記だけではありません。アイテムもまた多様です。これをまずは押さえておいてください。 集中が持続する時間 学童野球でも、指導現場では選手のやる気や集中力をどう引き出すかが大切になってくると思います。指導者のみなさんは、そのためにどのようなアプローチをされていますか?...
連載『メンタルコーチング』❻指導者も幸せに...
連載『メンタルコーチング』❺指導者も幸せに...
選手を知るのは「聞く」ことから始まりますが、選手は「話す」ことで思考力が育まれ、それがまた成長を後押ししてくれます。指導者向けのメンタルコーチング基礎編第2回は、いかに選手に喋らせるかがテーマ。昭和の時代には当たり前だった「指導者=厳しい・怖い」という固定観念も覆して、選手たちとの活発なコミュニケーションから幸せになりませんか!? [監修/諸星邦生] vol.5 選手の思考力や成長を促す会話のコツ 指導者は、選手のやる気を出すことに 関しては意欲的であったが、やる気がなくなってしまう可能性に対しては比較的無関心であるということがわかった――。 上記は、高知工科大学の江口遥奈さんの論文『指導者と選手の「やる気が出る教え方」の認識の差異について~中高生を対象とした事例研究~』の一部です。 研究対象は高知県内の女子卓球部の指導者と選手たちで、インタビューとアンケート調査を実施した結果、非常に興味深い結論を導いています。 中でも「選手がやる気をなくしてしまう可能性に対しては、比較的無関心である」という点について。学童野球に限らず、スポーツの指導者で思い当たる方々が相当数いるのではないでしょうか。 「無関心」というよりは「無頓着」。実は自分(指導者)の言動が、選手のモチベーション低下を招くこともある。この事実を自覚している指導者は、とても少ないと思われます。 では、その言動の「言」、子どもたちと話をすることの重要性や意義、そこで用いる言葉や口調による変化・効果について、今回は掘り下げていきましょう。 指導者のみなさんはチーム活動の中で、どのようなシーンでどのように、選手たちと話をしていますか? また、その際には、どういう話し方や言葉遣いをしていますか? ミーティングは1日の始まりと終わり、練習や試合の前後に行うチームも多いと思います。練習中は個々に声を掛けたり、アドバイスをしたり。試合になると、確認や指示も頻繁にありますね。ランチタイムや休憩の際には雑談したり、談笑することもあるでしょう。 このように、指導者と選手とが話をする機会は、非常に多くあります。では、そういう日常のシーンを具体的に思い返しながら考えてみてください。 独演会か、話し合いか 選手と話をする際の、自分(指導者)の立ち位置やアプローチは、どういうものか。漠然とし過ぎて考えが及ばないという場合は、こういう基準に照らしてみてください。 選手に話を聞かせているのか、選手と話し合っているのか――。 当然、それも場面によって変わってくることでしょうが、学童指導者は前者の割合が圧倒的に多いと思います。話し合っていたつもりが、結果として指導者の独演会となっており、自身の価値観や経験則に同意を求めているだけというケースも少なくないことでしょう。 小学生は心も未熟で、情緒もまだ不安定。野球スキルの習得と同じく、言葉や話を理解する力やスピードも個人差が激しいものです。ですから、質問や問い掛けに対して答えがすぐに返ってこないこともあって当然なのです。 それなのに、ノーリアクションに激昂して独演の度を強めたり、「やる気が感じられない!」「覇気がない!」などと、主観で断じるのはナンセンス。また、選手たちの返答が「はい」「いいえ」「そうです」「違います」、この4つ程度しかない場合にも、指導者側の話し方や問い掛けを見直してみてもいいかもしれません。 子どものリアクションが乏しい。何をどう聞いても、沈黙の状態が長い。こういうケースでは、指導者はまず冷静になるべきです。そして、無反応や無言の理由は答えが分からないからなのか、自信がないからなのか、それ以外に何かあるのか。このあたりを追加の質問で把握することができれば、話し合いは成立していくことでしょう。 子どもは話すことで思考力が育つ、と言われています。自ら話をすることで「言葉」をより覚えていきます。そして、思考力や判断力、共感力といったコミュニケーションスキルを身につけていきます。 したがって、選手たちに「喋らせてあげること」も、指導現場では大切な要素だと私は考えています。人の話を聞くことはできても、それがイコール「理解」ではないのだ、ということを私も過去に幾度となく痛感させられてきました。 そう、かつての私も上から目線の強い言葉で、一方的に話をすることが非常に多い指導者でした。そして選手たちから「はい」しか返ってこないことに、当初は違和感すら覚えませんでした。しかし、この循環からは何も生まれない、得るものはほとんどない、ということをやがて悟りました。 学童野球の現場でも、話をする際には子どもたちに喋らせてあげることから入ることをオススメします。 子どもから聞き出す...
連載『メンタルコーチング』❺指導者も幸せに...
連載『メンタルコーチング』➍指導者も幸せに...
選手もお父さんもお母さんも。さらに指導者もいっしょに幸せになれたら、素敵ではありませんか!? 大人向けのメンタルコーチングの連載は、新たに指導者編に入ります。もちろん、前回までの保護者編も、指導者のみなさんに応用いただける部分が多々あります。高価なアイテムも高度な野球スキルも戦術知識も不要。大切なのは学びの心と実践です。 [監修/諸星邦生] vol.4 選手の「0」をプラスへ転じる方法 同じ指導者でもジャンルやカテゴリーによって、求められるものが違ってきたりします。今回からお届けする「指導者」向けの基礎編は、学童野球に特化して進めていきたいと思います。 私は昨年の夏まで20年以上、体育科の教諭としてまた高校野球の監督として、教育現場に携わってきました。その晩年になって、非常に強く実感していたのが「教育の在り方」の変化でした。 時代の移ろいとともに、生徒の思考や価値観、保護者の関わり方や要望、教師や指導者の立ち位置も様変わりしてきたように思います。昭和の時代の画一性や当たり前が、ご法度や不謹慎となることも珍しくありません。変化や多様性は、まだまだ加速しているようにも感じます。 そうした中で、やりづらさや戸惑いを感じているという、学童野球の指導者も少なくないことでしょう。でも、いつの時代も変わらないのは、みなさんが目の前にしているのは子どもである、という事実。体も心も頭脳も大人には程遠い、6歳から12歳までの小学生が相手です。 遊びで個々を把握 では、お聞きします。指導者のみなさんは、自分のチームの選手たちのことをどのくらい知っていますか? 学童野球チームの大半は、週末の活動がメインですから、学校や家庭での様子を知ることはなかなかできません。そこまで深入りをしなくてもいいと私は思います。 ただし、選手の一人ひとりが、週末の活動にどういう気持ちでやってきたのか。このあたりを知るのは難しくないはずで、知ることによって選手の背中を押してあげることもできたりします。 オススメの「知る」方法は、野球の練習の前に「遊び」から入ること。どんな遊びでも構いません。ウォーミングアップの中に「鬼ごっこ」や「ドッジボール」を組み入れてもいいでしょう。大切なのは、子どもたちが自ずと夢中になる「遊び」であること。「野球」や「練習」という意識が介在したり、大人の過度な監視があると、楽しめない子どももいると思います。 ですから、指導者はあくまでもさりげなく。存在を消しつつ、しっかりと個々の様子を観察することをオススメします。すると、いつも元気な子が冴えない表情をしていたり、動きが緩慢だったり。そうした気付きから、体の不調や痛みなどを察知できることもあるでしょう。 遊びも毎回重ねるほど、個々のささいな異変にも気付けるようになると思います。5分でも10分でも構いません。ぜひ、そういうトライから、鋭敏で懐の深い指導者になっていってください。 聞き取って可視化の利点 まずは「観察」。そして「コミュニケーション」が、選手たちを適切に知るキーワードです。そのツールとして、下のような表を作成して活用するのもオススメです。 表の項目にあるのは、守備・打撃・走塁・バントなど、練習の大枠にもなるもの。それと投手から右翼手までの全9ポジションです。隣の列は、それぞれの「好き・嫌い(得意・不得意)」度を5段階で示せるようにしています。 可能なら、一人ずつ聞き取りをしながら、表に記入していくのがベターです。1対1のやりとりの中で、新たな発見や認識があるかもしれません。指導者は、自分の先入観や主観がいかに現実と違っていたかを悟ることもあるでしょう。選手もまた、自分の考えや特徴をあらためて知る良い機会になることでしょう。 何となくや、うやむやだったものを可視化して残せる、というのも表を用いるメリットです。項目に決まりはありませんので、指導者のみなさんもご自身で考えて作成、活動をしてみてください。 「聞く」と「聞かず」の差異 では、少し専門的な話に入りましょう。 「コーチング」と「カウンセリング」の違いを、ご存知でしょうか。 メンタルコーチングの分野では、「カウンセリングはマイナスを『0』にすることで、コーチングは『0』をプラスにすること」と言われています。ケガや病気にならないようにする「予防(医療)」と、ケガや病気の症状を治す「治療(医療)」との違いに、近いのかもしれません。 スタートラインが「0」なのか、マイナス(0以下)なのか。これを知るにも「コミュニケーション」が不可欠です。 人の心持ちは刻々と変化します。どの週末も、同じ心の状態で活動に参加する選手はいないはずです。各々の状態を把握する(知る)ことは、その日一日のマイナスをなくす作業になるとも言えるでしょう。 では、コミュニケーションの具体例を2つ、ご紹介します。...
連載『メンタルコーチング』➍指導者も幸せに...
連載『メンタルコーチング』❸パパもママも幸...
日々の親子のコミュニケーションを活発にして、お父さんもお母さんも、我が子といっしょに幸せになりましょう! そのための子育てコーチングの基礎スキルには「承認」「傾聴」「質問」があります。連載第3回は保護者の基本編の総仕上げ。「承認」の4原則と「質問」を掘り下げます。高価なアイテムも高度な野球知識も不要。大切なのは学びの心と実践です。 [監修/諸星邦生] vol.3 こどもが自ら走り出せるように いきなりですが、お父さんお母さんにお願いです。普段の自分であれば、どのような対応をするのか――想像したり、考えたりしながら、読み進んでみてください。 日曜日のチーム練習から帰宅した我が子の第一声が、このようなものだったとします。 「ただいま~! きょうの練習は、ちょーつまんなかった」 さて、保護者の皆さんはどのようなリアクションをされますか? この手のぼやきが日常的に多い子なら、軽いうなずきや相づち程度で、そのまま受け流す親もいることでしょう。いつものがまた始まったな、程度に。 むしろ気掛かりなのは、我が子にしては珍しく、ネガティブな感想を漏らしたという場合だと思います。なぜ、つまらなかったのか。その理由は何なのか…詳しく知りたくなるのが、親というものかもしれません。 「何かあったの?」「ミスして監督に怒られた?」…こういう質問に始まり、最終的に「それはアンタが悪いよ!」とか、「それは監督もひどいね。今度、お母さんから話を聞いてみるから」など、一方的な結論づけで話を終わりにしたり、深く介入していくケースもあるかもしれません。 どれが正解で、どれが不正解ということはありません。いつもの自分ならどうするか――保護者の皆さんが、改めて自分の言動を振り返ることで気づきがあったり、適切なリアクションに興味がわいたりしたら、素晴らしいことです。 まずは共感・同意から 子育てコーチングの3つの基礎スキル「承認」「傾聴」「質問」のうち、「傾聴」には「うなずき・相づち・繰り返し・言い換え」という4原則があります。 「うなずき」とは、首を縦に振ることで、「相づち」は「うん」「へぇ~」「そうなんだ」など声に出る間投詞のことです。 「繰り返し」は、「オウム返し」のことで、相手の言ったことをそのまま返すという会話の手法のひとつ。これによって、相手が話の続きをしやすくなります。 冒頭の例題、帰宅後の我が子の第一声に対する「繰り返し」の一例は、次のようなものになります。 「そうかぁ、そんなにつまらなかったんだ、きょうは」(※繰り返し) 「言い換え」も目的は「繰り返し」と同じですが、相手の発言をそのままなぞるのではなく、別の言葉で言い直して返すという、やや高度で奥が深いテクニックです。コミュニケーション力を高める「言い換え」のハウツー本やビジネス書が、世に複数出ていますが、それほど幅も用途も広い手法と言えるでしょう。 例題の第一声に対する「言い換え」の一例は、次のようなものになります。 「へぇ~、きょうはそんなに面白くなかったんだね」(※言い換え) 各家庭のお父さんお母さんは、我が子の日常や前後の状況・流れもわかっているはずですので、もっと踏み込んだ「言い換え」もできると思います。例えば、「先週は、楽しかったのにね」とか、「たまに、そういう練習もあるみたいだね」など。あくまでも、相手の本意に沿った言い直しが求められますが、多少のズレはかえって、相手の発言意欲を高めるケースもあるかもしれません。 以上4つの「傾聴」の原則には重要な共通点がありますが、わかりますでしょうか? すべてにおいて「共感」をしているということです。逆に、否定や批判はおろか、ジャッジすらしていませんね。 このように、こどもからのアウトプットに対して、まずは共感や同意を示してあげるのがポイントです。お父さんお母さんの側にこういう習慣が根付くと、こどもは話しやすくなるはずです。すると、聞いてあげるお父さんお母さんのほうにも、親として余裕が生まれることにもつながっていきます。 本心を引き出すテク それでは、子育てコーチングの3つの基礎スキルのうち、最後の「質問」に入りましょう。...
連載『メンタルコーチング』❸パパもママも幸...
連載『メンタルコーチング』❷パパもママも幸...
お父さんもお母さんも、選手といっしょに幸せになりましょう! そのためには重要となるのが、日々の親子のコミュニケーションです。コーチングのスキルを具体的に知り、磨いてくことでコミュニケーションも自ずと活発になってくることでしょう。基礎スキルには「傾聴」「承認」「質問」の3つがあることを第1回の連載でお伝えしましたが、今回は「傾聴」について掘り下げます。高価な道具も難しい技術も不要。大切なのは学びの心と実践です。 [監修/諸星邦生] vol.2 こどもがワクワクして話せるようになるコツ こどもの話を聞く――。自分はできているという感覚があっても、こどものほうには聞いてくれている、という実感がないケースもあるかもしれません。そもそも「聞く」という行為を、ふだんから意識している大人はあまりいないのではないでしょうか。 書店に足を運んでみると、『聞く力が○○』『傾聴力』といったタイトルの実用書や自己啓発本をよく目にします。これからの社会で活躍していくためには、「聞く」ことを含むコミュニケーションスキルが非常に重要なものとなってくるのだと私は考えています。 話好きなら「聞き上手」に 保護者のみなさんはふだん、我が子とどの程度の会話をされていますか?(話の深さ) また、そういう親子でする会話の比率はどのくらいですか? 深さはなかなか計れませんが、回数だけなら手間でもカウントするのは簡単ですね。 もちろん、会話の数が多ければ良い、という単純なことではありません。大切なのは現状を知ることで、目的はそれを基準として、あしたからの「聞く」に生かしながらトライをしていくことです。 自分から話をするのが好きな子もいれば、控えめで口数が少ない子もいて当然です。いずれにしても、「聞く」側の保護者のカギになるのは「必要な情報を本人から直接に聞けているか」ということです。 会話を好む子であれば、学校や野球での出来事もどんどん話して教えてくれることでしょう。逆に口ベタな子は、保護者のほうから聞き出さないといけないかもしれません。どちらにせよ、問われるのはこどもの言語能力ではなく、話せる・話せないを判定する必要もありません。 我が子が困っていることや悩みごとの有無と、その具体的な中身。保護者にとって特に必要な情報は、そのあたりだと思います。しかし、そういう深層や核心というのは、親が相手でもなかなか表にしないものかもしれません。 話が好きな子の場合、親としての心構えは「聞き上手」になることがポイントになります。 「そうだったんだね」「話してくれてありがとう」など、承認をしながら聞いてあげることを心がけて、話しやすい環境を提供してあげる。こどもは楽しかったこと、うれしかったこと、おもしろかったことを伝えようとする習性があります。その中に「必要な情報」があれば十分ですが、もしもまだ気になることがあれば、簡単に質問してあげてもいいでしょう。 さりげないアプローチも 難しいのは、口数が少ない子の場合ですね。あるいは、学校生活や友人とはよく話をするのに、家庭内では口が重くなる、という子もいることでしょう。そういうご家庭は、保護者のほうの「見守り(承認)」(連載第1回参照)から、再考してみてもいいかもしれません。まずは子どもの承認欲を満たしてあげることが大切。これを頭の片隅に置いた上で、保護者のほうから話を始めるようにしてみてください。 「今日はこんなことがあったよ」「ランチにパスタ食べて美味しかった店があるから、今度いっしょに行こう」など、たわいもないことで構いません。そしてその後に「○○ちゃんは、どうだった?」などと話を振るのがポイントです。 まずは親のほうから、やさしいボールを投げる。こどもがそれを捕れても捕れなくても構いません。そしてまた簡単にできる返球を、それとなく促す。初心者が相手の実際のキャッチボールより、難しくないはずです。こういう言葉のキャッチボールが自然に増えてきて、日ごろのコミュニケーションのリズムができてくると、自分から話をするようになる子もいると思います。 ただし、気をつけたいのは、親のほうが執拗になり過ぎないこと。子どもにボールを投げたからといって、必ずしも投げ返してもらえるわけではないのです。先を急がず、結果や見返りを強く求めず、さりげなく日常のなかで始めていくのがコツ。話すのが面倒くさいなと、こどもに思われてしまっては元も子もありませんよね。 「給食」話はテッパン!? 私の場合は、我が子に毎日の「給食」の話を聞くようにしていました。ヒトにとって食べることは楽しみや喜びであり、学校給食を思い返してストレスが生じるケースはそうないはずです。 実際に「今日はこれが美味しかった」「おかわりした」「あれを残した」などの返事が必ずありました。そしてそこから、会話が発展していくという流れ。このように、普段から話しやすい環境づくりを今でも心がけています。 なお、こどもが話しやすい環境をつくる上でオススメしたいのが『傾聴のスキル4原則』です。うなずき・あいづち・繰り返し・言い換えが4原則となりますが、このスキルについては次回、詳しくご説明したいと思います。 粗探しにならないように! メンタルコーチングの観点から、保護者のみなさんに特に心がけてほしいのは、こどもの「好き」を伸ばすこと。野球においても同じことが言えると思います。こどもの欠点を見つけるために話を聞き出すのではなく、こどもの可能性や意欲を助長するために話を聞いてあげるのです。 ...
連載『メンタルコーチング』❷パパもママも幸...
連載『メンタルコーチング』❶パパもママも幸...
「アスリート・センタード」。昨今のスポーツ界では「選手が主役」と盛んに言われるようになりました。でも、私は思います。お父さんもお母さんも指導者も、選手といっしょに幸せになってもいいのではないか。それが最高の理想ではないだろうか、と。つまりは「オール・センタード」。では、保護者と指導者のみなさんもハッピーとなれるように、メンタルコーチングの分野からナビゲートをさせていただきます。高価な道具も難しい技術も不要。大切なのは学びの心と実践です。 (監修=諸星邦生) vol.1 こどもの意欲を後押しする 選手の保護者、お父さんお母さんに、お聞きします。普段、我が子をどれだけ、どのように見守っていますか? 親が子を見守る、とはどういうことでしょうか? 日常やシチュエーションからイメージをしてみてください。子育てやこどものスポーツの現場には、さまざまな「見守る」が存在することと思います。 これが正解! という唯一のものがあるわけではありません。正解をたくさんつくっていくことがとても大切です。そして見守りのカギとなるのは、『こどもの意欲を後押しできているかどうか』――。この成否だけでも、未来が変わってくるケースもあるでしょう。 こどもの習性から 保護者がこどもを見守る局面には「家庭生活」「学校生活」「野球(習い事)」が挙げられますね。ここでは「野球を見守る」について言及していきます。 こどもというのは、新しいことや愉しいことに好奇心をもって行動するという習性があります。そこで、その行動から「愉しさを感じていることは何か」を読み取ることができます。 たとえば家庭生活の中では、野球についてどのような話をしているのか。ボールを投げるのが好きなのか、打球を飛ばすのが好きなのか、テレビでプロの試合や選手を見るのが好きなのか。また、週末を中心とするチーム活動の際には、どのような練習メニューで意欲的に取り組んでいるのか。 漠然と眺めているのではなく、そういう関心(観察眼)をもって見ることが、我が子をより理解する手掛かりにもなります。発見とはいかないまでも、意外な側面を知ることもあるかもしれません。まずはそういう見守り方が、子育てをする際のメンタルコーチングの第一歩です。 著者(右)は現役の学童球児の父でもある ちなみに私の子育ては『我が子の好きを伸ばす』をモットーにしています。ですから、こどもから「やりたい!」「やってみたい!」と提案してきたことには、可能な限り応えるようにしています。 「監視」「干渉」は逆効果 見守り方で気をつけたいのは「行き過ぎない」ことです。見守りは「監視」や「干渉」ではありません。また、こどもにもそれぞれ人格というものがあって、身体と同じく成育していきます。 その過程において、「保護者が期待する行動」をこどもがやっているかどうかを保護者が確認するというのは、典型的な「行き過ぎ」です。この見守り方では、こどもの好奇心や意欲を削いでしまう可能性があります。 「監視」をしがちな保護者は、こどもが自分の期待通りの行動をしていなければ、褒めることや前向きな言葉をかけることがないものです。つまり、こどもの行動を認めてあげていない、ということになります。愛情を注いでいるつもりでいたのに、そういう結果になっているというお父さん、お母さん、少なくないのかもしれません。でも、あらためるのは簡単です。今日この今からでもきることのはずです。 「承認」までで十分 保護者が適切に見守ることができているどうか。これは、こどもとのコミュニケーションで推し量ることもできます。 練習から帰宅してきた息子や娘のほうから「今日はこんなことがあったよ!」「今日のあのバッティング見てくれた?」など、承認を求める言葉が出てくるのが理想です。もちろん、無口や口下手なこどももいますし、時には誰とも何も話したくないということもあるでしょう。ですから一概には言えませんが、こどもからの発信があまりにもない場合は、日々の見守り方を再考してみてもいいのかもしれません。 こどもには「私のことを見てくれている」「私のことを知っていてほしい」という承認欲求というものがあります。これはイコール、こどもから保護者に対する期待でもあります。ですから、期待に応えてあげる。こどもの言葉をきちんと聞いてあげることが、好奇心や意欲をより促すことにつながっていくはずです。 ジャッジは無用。親の適度な承認が、子の自主性や好奇心をより促すことに 難しく考える必要はありません。「そんなことがあったんだね」「すごいね」「ちゃんと見たよ」「見られなくて残念だったんだよね。でもパパもうれしいよ」など、自然な会話の中で承認をしてあげてください。ただし、評価はできるだけしないことが望ましいと言われています。 コーチングスキルには「傾聴」「質問」「承認」があります。こどもの行動力を引き出すことを目的とする場合には、「こどもの自主性を承認する」ことが求められます。大人からやたらにジャッジをされるほど、こどもは自主性を失っていくとも考えられます。少なくとも、マイナスの評価というのは絶対に避けるべきです。 スキルとして心がけを こどもを見守りながら、こどもの承認欲を満たしてあげるために「評価をしない」。これが保護者の重要なスキルになります。そうしたコミュミケーションの積み重ねが、親子の信頼関係を築いていきます。「見てくれている」や「認めてくれている」とこどもが感じることが、安心感につながり、メンタルの安定となります。...