東京・千葉・埼玉・茨城から30チームが参加した第10回フィールドフォースカップは2月18日、埼玉・三郷市の半田公園野球場で決勝トーナメントと敗者復活トーナメントを行い閉幕。全国区の茎崎ファイターズ(茨城)と熊谷グリーンタウン(埼玉)による決勝は、真っ向からの打撃戦に。4回裏に大逆転した茎崎がそのまま逃げ切り、2年連続3回目の優勝を果たした。
(動画&写真&文=大久保克哉)
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■決勝
熊谷 14000=5
茎崎 11050x=7
※大会規定時間により、5回裏途中で終了
【熊】木村、新藤-原口
【茎】折原、佐藤映-藤城
本塁打/根岸(熊)、石塚(茎)、藤城(茎)
⇧優勝/茎崎ファイターズ[茨城]
⇩準優勝/熊谷グリーンタウン[埼玉]
⇩茎崎・藤城匠翔主将が決勝2ランで大会MVPに(動画)
サク越えアーチが計3本。内野の併殺プレーに二盗阻止もあり、タッチアップから間一髪のクロスプレーや重盗にスクイズもあり。節目の第10回大会から登場した黄金の優勝トロフィーも等分したくなるほど、決勝戦は中身を伴う互角の好勝負となった。
ともに直近5年の間に、夏の全国舞台でメダルを手にしている強豪だ。茎崎・吉田祐司監督と熊谷・斉藤晃監督は、互いに認め合う旧知の仲でもあるが、対峙した両軍は開始から激しく火花を散らした。
1回表、無死一塁から茎崎が5-4-3併殺を奪う(上)も、直後に熊谷の三番・根岸が先制ソロ(下=動画)
まず、貫録を示したのは熊谷だ。1回表、先頭・新藤大惺の左前打の後に、5-4-3併殺で意気消沈しかけた矢先だった。
「ダブルプレーを取られた後だし、初回にどうしても1点は欲しかったので初球から狙っていきました」
こう振り返った三番・根岸瑛人が、カウント3ボールからの4球目を迷わずにフルスイング。舞い上がった白球は、左中間の70m特設フェンスを越えていった。
「アウトコース高めを引っ張ったつもりが左中間に。逆方向のサク越えは初めて」(根岸)
熊谷の斉藤監督は「待て!」のサインをほぼ使わない。代わりに、初球ストライクから打ちにいくことを選手に求めている。「正々堂々の勝負」(同監督)で全日本学童マクドナルド・トーナメントに3回出場しており、2022年は銅メダル。この日の根岸の先制ソロは、積極打法の浸透ぶりをも象徴していた。
地域選抜チームが半数以上の埼玉の全国予選を、単独チームが制するのは並大抵ではない。熊谷は持ち前の強打で4度目の全国出場を期している
一方の茎崎も序盤から持ち味を発揮した。先発の右サイド・折原颯太は苦しみながらも大崩れしなかった。先制アーチを浴びてなお、テキサス安打や死球で二死満塁のピンチを招くも、空振り三振で切り抜ける。
「再登板ができないルール(大会規定)の中で、折原をどこまで引っ張れるかと考えながら見守っていました。点数は取られましたけど(3回途中5失点)、不運もあったし、悪くなかったと思います。波を減らしていくのも、経験していかないとできないことなので」
今年の茎崎は投手陣も豊富。右サイド・折原はアクセントにもなる
吉田監督から及第点を得た折原が、初回の3アウト目を奪った直後。昨夏の全日本学童大会でもプレーしている新5年生、石塚匠がライトへ同点ソロを放った(下動画)。
「正直、ホームランは狙ってなかったけど、先制された直後だったので良かったと思います。調子は上がってます」(石塚)
一進一退の1回の攻防を経て、流れは熊谷に傾く。
2回表、八番・林和磨と続く神山隼輝(新4年)の連打から無死満塁とし、二番・松島佑輔のセンター犠飛で勝ち越し。そして三番・根岸から四番・髙金泰良、五番・木村波瑠まで3連続長短打で4対1に。さらには六番・原口優貴がスクイズを決めた。
2回表、無死満塁から熊谷の松島が中犠飛(上=動画)、続く三番・根岸が右前タイムリー、四番・髙金も中越え二塁打で続いた(下)
熊谷の斉藤監督は、自身でほぼ“禁じ手”としているスクイズで5点目を奪いにいった。その理由は、力量も含めて相手をよく知ればこそのようだった。
「ウチは守り勝つのは難しいので、5点勝負になってくれたら、わからないなと思っていました。でもやっぱり、吉田さんのところ(茎崎)が関東で一番だと思っている。良いチームはいろいろあるけど、組織としても茎崎が一番ですよ」(斉藤監督)
2回表、3点を勝ち越した熊谷はなお、六番・原口が高めのボール球に食らいついてのスクイズバントを決めて5対1に
にわかに風向きが変わり始めたのが3回表だった。
守る茎崎は無死一塁となって、中堅に就いていた佐藤映斗をマウンドへ(下動画)。昨夏の全国大会で先発登板も、続く秋の新人戦(県準V)はヒジ痛で未登板に終わっていたエース左腕だ。
「(ノースロー期間から)復帰してきたときに、遅いボールを試してみたら結構良かったので、今にもつながっています」
こう振り返った佐藤映は、コントロールと緩急の投球が冴えた。強肩捕手・藤城匠翔主将にも助けられて結局、相手の強力打線を内野安打1本に封じる完璧に近い好リリーフ。エースがマウンドで輝けば、黙っているような打線ではない。
4回裏、茎崎は七番・牧内志生のテキサス安打を皮切りに、敵失や一・三塁からの重盗、3本の長短打など打者8人の猛攻で7対5と一気に逆転した。一方の熊谷は、準決勝で粘投していた左腕・林(=優秀選手賞)を最後に投入するプランもあったが、5回裏の途中でタイムアップ(90分終了)となった。
茎崎は三番に入った藤田が、不在の四番の穴を埋めた。1回に右前打、4回には右中間へタイムリーとなるエンタイトル二塁打(写真)
茎崎は2年連続3回目の優勝。吉田監督は「今年は近年になく、打撃のほうも力があるので、ちょっとの点差ならドンとひっくり返せるところはあります。ただ、序盤で4点差をつけられちゃったので、厳しいかなと思っていたんですけど、子どもたちが最後まで粘り強く戦ってくれたと思います」と選手を労った。
実はこの日、不動の四番・川崎愛斗と中堅手・大類拓隼のレギュラー2人が病欠。しかし、穴をまるで感じさせない戦いぶりだった。左右へ長短打を放った三番・四番コンビ、藤田陽翔と藤城主将の力強いスイングは全国準優勝した2019年当時のチームを彷彿とさせる。
勝負強さはそのままに、近年にない打力も発揮した茎崎。いよいよ今夏は天下獲りか
昨夏の全国舞台でプレーした選手も3人いるが、そこで優勝することになる大阪・新家スターズ(優勝)に喫した、2対19という屈辱的な大敗を茎崎戦士は忘れていない。チームではその後、投球マシンを導入し、冬休み中は1人1日400~500球を打ち込んだという。その成果は下位打線にも見て取れた。
追い込まれても、しぶとく粘った茎崎の九番・佐藤大(新5年)。4回裏は一死二塁から左越えタイムリー二塁打(写真)
指揮官も「大きかった」と渋い働きを認めたのが、九番の新5年生・佐藤大翔だ。2打席で実に6球もファウルで粘った末に、2安打2打点。端から四球狙いのファウル打ちではなく、自分のベストスイングを続けた上で、4回裏には反撃の狼煙となる左越え適時二塁打。二塁手として初回には併殺プレーを完了させ、重盗で本塁を陥れたのもこの下級生だった。
「3年生から試合に出ていて、4年生チームはショートとキャッチャーをしてました。自分の持ち味を出して、5年生(新6年生)たちを全国優勝に導きたいと思います」(佐藤大)
茎崎は昨年の6年生たち(卒団)から、粘りと抜かりのなさも継承しているようだ。
敗れた熊谷も、2022年(全国3位)を思わせるようなパワフルな打者たちが目を引いた。ことごとく失点に絡んだのがテキサス安打や内野安打で、その半分でもアウトにしていれば結果は逆に出ていたかもしれない。「最低限は守れないと、試合には出られないよ!」という指揮官の忠告は、新6年生13人の胸にあらためて響いていることだろう。
決勝戦前のメンバー表交換の後、握手で健闘を誓い合った名将2人。茎崎・吉田監督(右)と熊谷・斉藤監督(左)
〇茎崎ファイターズ・吉田祐司監督「石塚(同点ソロ)も佐藤映(好救援)も、あれくらいはできる子。チーム力としてはまだ半分くらいの出来。マック(夏の全国予選)までにあと半分、走塁と守備を重点的に鍛えていきます」
●熊谷グリーンタウン・斉藤晃監督「茎崎の打者はスイングがコンパクトで良い。交流戦でも戦うのが、いつも楽しみなんです。きょうは病み上がりで本調子でない子がいたり、不運な当たりで失点したりもあったけど、勝ち負けは時の運ですから。これからも正々堂々と自分はやっていきますよ」