学童野球チームは、歴史も規模も指導体制も千差万別。だが、全国大会に何年も続けて出場しているチームや、そういう大舞台に肉薄している段階での指揮官交代はあまりない。この2023年度、関東地方ではそんなイレギュラーが相次いでいる。実績と指導力を伴う監督が、3年生以下のチームの新指揮官に。これは偶然か、必然か、またその真意や意図は何なのだろうか。まずは無名のチームを千葉県きっての強豪へと押し上げた、全国区の名将に訊いた。
【質問❾】
▶「1年間休みたい」と?
▶3年生チームの監督に転じた理由
▶過去1度あった理想のチーム
▶チームの指導体制とシステム
▶具体的な育成方針・内容
▶初めて3年生を指導してみて
▶3年生相手でも説得力のある声掛け
▶試合中の注意や指導のポイント
▶「公式戦はエラーしたら忘れろ!」
※インタビュー動画10min⇩
たかの のりちか
髙野 範哉
千葉・豊上ジュニアーズ
3年生チーム監督
3大会連続4回目の出場となった昨夏の全日本学童では、豊上ジュニアーズを8強まで導いた
「豊上ジュニアーズ」と言えば、今や全国区の強豪として知られる。夏の全日本学童大会は2019年から3大会連続出場中で、銅メダルを2個獲得。昨夏は準々決勝で敗退も、3試合連続の2ケタ安打で大勝など、全国舞台でも猛打やスキのない戦いぶりに貫録すらうかがえた。
無名チームを全国区に
学童球界の「選手激減」など、どこ吹く風。大目標とする「日本一」までの残り一歩、二歩をリアルに見ている。今では取り立てて勧誘活動をしなくても、志の高い小学生と保護者が地元の柏市の枠も超えて、近隣の市町や県外からも集まってくるように。今年も昨年同様、5年生チームと6年生チームとが個別に活動し、大会にもそれぞれエントリーしている。
活動拠点は、人口が爆発的に増えている流山市もすぐそこ。電車の最寄り駅から歩いて行ける距離ではないが、閑静な住宅地の奥に広がる専用グラウンドは全面土で、コロナ禍の間にナイター練習もできる環境へとアップデート。照明器機の設営はすべて、指導陣と選手の父親らの手で行われたという。
柏市豊四季(とよしき)にある豊上グラウンド。コロナ禍の活動自粛中に、ハンドメイドでナイター照明を設置
かつては、柏市の大会でもなかなか頂点に立てなかったという無名のチーム。それを名実ともに、ここまで充実した大きな組織へと躍進させた張本人、それが髙野範哉監督である。
キャリア17年で初
豊上の栄光は髙野監督とともにある、と言っても差し支えないだろう。2006年に長男とともに地元の豊上ジュニアーズに入り、父親コーチに。やがて、チームは県大会にも出場するようになり、さらにその上位にも食い込むように。そして長男も卒団し、高学年の指揮官に定着すると、2016年に県大会を制して全日本学童大会に初出場。全国初陣も白星で飾り、3回戦まで進出した。
翌2017年は「指導者不足」というチーム事情から低学年(4年生以下)の監督となり、選手たちとそのまま1年ずつ繰り上がって2019年に2度目の全国出場。この夏は、一気に3位まで躍進した。
「ベスト4まで来たときには、優勝できると思っていました」
今回のインタビューの中では、3年掛かりで人間関係も育みながら仕上げた2019年のチームが「すべてにおいて理想的だった」とも語っている。
一般的に「低学年大会」は4年生主体だが、今年度は3年生チームを率いて市の大会にも参戦
もちろん、6年生チームの監督を降りたのは「理想の再現」だけが理由ではない。しかも2017年当時と異なるのは、今回は4年生チームではなく、さらに1学年下の3年生以下(3月までは2年生以下)を指導していることだ。これは髙野監督の17年の指導キャリアの中でも初めてのことだという。このまま1年ずつ繰り上がるとすると、6年生チームを率いるまでに3年を要することになる。
大願成就はいつ!?
今年の6年生チームは、昨年の5年生チームから継続して原口守監督が指揮している(※レポートは→こちら)。この体制で昨年秋には新人戦の千葉大会で優勝、さらに関東4強まで進出したこともあり、「原口監督の続投」を髙野監督から提案して決まったという。「原口監督も僕とずっと一緒にやってきている指導者で、コーチとして全国大会も柏市選抜チームも経験しています。また、6年生チームの背番号28、29のコーチ2人は僕よりも豊上で長いキャリアがありますし、何も心配していません」(髙野監督)
3年生以下の指導は「初めてで楽しい!」と語るが、ただ甘い顔をしているだけではない
さて、気になるのは来年度以降だ。髙野監督は、現3年生たちとの4年掛かりで最強チームをつくっていくのか。それとも来年はまた、6年生チームを率いて日本一を目指すのか。
「今の段階ではまだ何も決まっていないし、決めていません。選手を預けてくれている保護者の意見も尊重したいと思っていますし、私の一存だけで簡単に決まるようなことでもありませんから」
こういう答えだったが、現在も平日は5年生の練習をみている(3年生以下は平日練習なし)。また豊上の4年生チームには、絶対的な信頼と指導力を有する監督が固定でいるという。要するに、組織全体の未来も踏まえつつ、現段階ではあらゆる可能性を探っているということだろう。
2月からの約3カ月で30試合以上をこなして個々の特性も掌握。春の柏市大会・低学年の部で3位に
いずれにしても、それほど遠くはない未来に、髙野監督が再びトップチームを率いるのは確か。従来とはまた違った、新生・豊上ジュニアーズがついに大願成就を果たすのかもしれない。それとも今の6年生たちが、先に成し遂げて大ボスを驚かせるか。原口監督率いる現6年生チームは、今週末から全国切符を掛けた千葉県大会に臨む。
(大久保克哉)