【2024注目の逸材】
あいす・しょうた愛須翔太
[兵庫/6年]
東播ナインストリーム
※プレー動画➡こちら
【ポジション】捕手、投手
【主な打順】一番
【投打】右投右打
【身長体重】149㎝43㎏
【好きなプロ野球選手】森下翔太(阪神)
※2024年4月15日現在
見て驚き、聞いて驚いた。昨年11月、近畿圏中心のローカル大会に出場していた、東播(とうばん)ナインストリームの背番号2の捕手、愛須翔太だ。
キャッチングはピンポイントで、球の握り変えも二塁送球動作もスピーディーで動きにムダがない。落ち着き払ったリードに声掛けといい、のっけから惚れ惚れ。1学年下のチームが相手だったとはいえ、日本一3回の多賀少年野球クラブ(滋賀)の手練れの走者たちの二盗も次々と阻んでみせた。
捕球も送球も、動作から一切のムダを省いたかのようにスムーズで速い
いったいどれだけの経験と、どのような努力を重ねてきたのか。試合後に本人を直撃すると、このような答えだった。
「キャッチャーはきょうが初めてやから、とりあえず思い切りプレーして笑顔でやりたいと思いました。2週間くらい前から、キャッチングとストッピングの練習はしてきました」
それまではエース格の投手で、最速は100㎞(当時)。彼ら新チームの最上級生たちは、4年時の秋に兵庫県大会で優勝している。それなのに、総仕上げともいえるラストイヤーの入り口でなぜ、捕手にコンバートされたのか。
大垣幸信監督の答えは明快だった。
「今は勝ち負けやなしにいろいろね、可能性を広げとるんです。ホンマは吉本(瑛翔と)いう子がずっとキャッチャーをしとって、愛須とのバッテリーやと相手は盗塁もそうできん。でも、あの吉本は足がむちゃくちゃ速くて、中・高とそれ以上の先も考えたら、もっと足を使えるようにしたらなアカンなと思って、あえてセンターをさせたんです」
球速は計っていないが、昨年の最速100㎞より明らかに速くなっているという
足も肩も長打力もある愛須も同じく。活躍の場をより広げてやらん、という指揮官の親心からマスクを被ることを命じられたのだった。
「愛須は野球の通知表で言うたら、オール4.5以上。過去にはもっとすごい打者も投手もおったんやけど、すべてが高いレベルでできるという意味では、私が教えてきた中で一番ですね」
選手を知り抜く大垣監督は、2018年に全日本学童初出場まであと一歩、県大会準優勝までチームを導いた。2021年にはポップアスリートカップ全国ファイナルに初出場。その6年生たちが卒団後、愛須ら当時4年生たちの監督となった。
チームの勝利と、選手各々の未来。大垣監督のタクトはどちらにも向いている
「今は3年周期で、4年生以上を3人の監督でグルグル回していきよるんです。それ以前は私が5・6年生の監督をしとったんですけど、子どもたちと話もして、4年から5年になるときに監督も含めてガラッと変わるのがうまくいってヘんのかな、という判断で今の方針に」
利己主義とは真逆。時代も見据えながら子どもを中心に据える指導者が、兵庫にもまたひとり。現在は総監督も兼ねる大垣監督は、2025年度は4年生以下のチームの監督になるという。
「愛須はお姉ちゃんだけで男兄弟はおらんけど″野球バカ”ですね。ホンマに野球が大好きなんやなと感じます」(同監督)
止まらない進化と意欲
「めっちゃ暑い夏とかでも、キャッチャーは防具を着けて汗かいてがんばってるんやなと、やってみてわかりました。面(マスク)も着けてみると臭うし? はい、臭いときも(笑)」
愛須が野球を始めたのは1年生の11月。友人の誘いで東播の体験練習に参加したのがきっかけだ。
「すごく楽しかったので、すぐにチームに入りました。監督は厳しいけど、野球は今も楽しい。試合で逆転したり、ホームランを打ったり、キャッチャーで盗塁を刺したときとか、すごくうれしいです」
きれいな投げ方や投手のモーションは、父とプロ選手の動画を見ながら研究してきた成果もあるという。やはり、生まれ持った天性だけでは、これだけの万能選手にはなれないのだ。
「足をグッと上げて踏み出しいく感じは佐々木朗希投手(ロッテ)とか、参考にしました。キャッチャーは指導者に教えてもらって。スローイングは肩を入れて遠くへライナーを投げるイメージ」
圧巻の捕手デビューから約5カ月。近況を語る大垣監督の声は弾んでいた。
「愛須はもう、文句なしの正捕手です! 元から肩が強いし、スキルもある程度あったけど、去年はまだまだやった打球への反応も今は鋭いし、配球面も勉強して、より楽しくなっとるようです」
自ら語るまでもなく、捕手への意欲は周囲にも伝わっているようだ。
「始めたころより、さらにキャッチャーが楽しくなりました。ボールとバットが当たる瞬間に前は目を閉じてしまってたけど、そこを意識して見るようにしてきて、今はキャッチャーフライも普通に捕れてます」
新年から一番打者となって打率は5割近く。逆方向へも長打があり、ランニングホームランは通算で15本程度
来たるゴールデンウイークに、チームは最大の山場を迎える。5月の4連休中に開かれる、全日本学童大会の県予選だ。愛須が目標とする「全国制覇」も、ここを突破しないことには始まらない。
「一番打者として塁に出ること。キャッチャーでもピッチャーでも、状況判断と打者をしっかり見ながら勝負する。県大会は強いチームが多いけど、みんなで一致団結して優勝したいです」
2024年は全勝ロードをばく進中の東播ナイン。このまま全日本学童初出場を決めるか
2021年の同予選では準々決勝で抽選負けという憂き目に遭った大垣監督にとっても、全日本学童出場は悲願。昨年秋に撒いた種はそこここで芽を出し、そろって花を咲かせようとしている。
「去年のポジションのシャッフルから、年末にかけて相当に負けが込んで、しんどかったですね。『なんでこんなん、したんや!?』と言われたり。でも、みんな辛抱強くやってきてくれたおかげで、年明けから勝ちっ放しなんです。成果が相当に出てきたと感じています」(同監督)
「セールスポイントは球の速さと長打力。将来は阪神タイガースに入団して森下(翔太)選手のようなバッティングをしたいです」
全日本学童の加古川市予選や練習試合を含めて、新年の連勝は「20」を超えてきた。このまま勝っても、どこかで負けても、大会は必ず終わる。一方、愛須ら東播の6年生たちの成長と可能性が尽きることはないだろう。そこに大垣監督がいる限り。
(動画&写真&文=大久保克哉)