【2024注目の逸材】
おおくま・いちき大熊一煕
[東京/6年]レッドサンズ
※プレー動画➡こちら
【ポジション】中堅手、投手
【主な打順】二番
【投打】右投右打
【身長体重】148㎝43㎏
【好きなプロ野球選手】村上宗隆(ヤクルト)
※2024年5月5日現在
夏はやはり、燃えるような赤い太陽が映えるのかもしれない。
昨年8月の全日本学童マクドナルド・トーナメントでは、チーム最高位となる銅メダルを獲得したレッドサンズ。その中央では、最速124㎞のスーパーエース・藤森一生(駿台学園中1年)が、さん然と輝いていた。そして渋く光っていたのが2人の当時5年生、大熊一煕と中田静だった。ともに1カ月前の都知事杯からレギュラー争いに食い込み、チームの底上げに大きく寄与した。
都知事杯の準決勝で、途中出場からレフトへ豪快に2ランを放った大熊は、続く打席ではライトオーバーのサヨナラ打(コールド勝ち)。すると決勝は、スタメン四番に大抜擢された。
2023年7月16日、都知事杯準決勝(対高島エイト)。3回から中堅守備に入った大熊(当時5年)は、直後の打席で左へ2ラン
続く全国大会は1回戦から準決勝まで全5試合に出場。うち2試合はスタメンで、準々決勝では満塁走者一掃の左二塁打など打率.286をマークしている。
「全国は応援もすごいし、相手のレベルも高いし、良い環境の中で良い経験を積ませてもらいました。ヒットはそんなに打てなかったんですけど、外野の守備で貢献できたかなと思います。レフト、センター、ライト、全部守りました」
実は野球で何よりも好きなのが、中堅守備だという。4年時の春から学年チームを率いている佐藤公治監督は、大熊についてこう評している。
「チーム内では運動能力が一番高い。体はまだ大きくないけど体幹もしっかりしていて、非常に動きにキレがある。外野守備も抜群で、肩も足もある上に打球の飛距離がまた断トツ。よく言う『走攻守』のすべてがそろった選手ですね」
2023年8月10日、全日本学童準決勝(対新家スターズ)。大熊(上)と中田(下)の当時5年生コンビはそろってスタメン出場も、無安打でチームも敗れている(写真/福地和男)
本塁打は正確にカウントしていないが、低学年から通算すると50本は確実に超えているという。このGW中は地元の文京区春季大会(優勝)や、隣県の全国区の強豪との練習試合でも70mのサク越え弾を放っている。
「最近打ちまくっている? いえ、そこまでではないですけど、しっかりとミートした打球が良い所に飛んでくれています」
チームの活動がない平日も、努力を怠らない右のスラッガー。バッティングセンターへ行って打ち込むか、行かない日は素振りと約2kmのランニングを自らに課しているという。
「夢はプロ野球選手になること。バッターでいきたいと思っています」
必勝リレーを確立
一人っ子の大熊の両親は、硬式テニスの元選手。幼いころから親子でテニスをしてよく遊んだという。
「今はテニスはまったくやっていないですけど、とても楽しかったなという思い出があります」
「外野守備で目立っていたのが、5年生からはバッティングが非常に伸びてきた感じですね」(佐藤監督)
野球を始めたのは1年生の冬。すでにレッドサンズでプレーしていた友人の誘いで体験入部し、すぐにのめり込む。ラケットからバットに持ち替えても、同じように気持ちよくボールを打ち返せたのが快感だった。
「バッティングが楽しいなと思って始めたら、守備も楽しくなってきて、今年に入ってからはピッチャーも楽しくなってきました」
昨年までは外野手一筋で、この2024年からマウンドへも上がるように。潜在能力の高さに加え、昨秋の新人戦で区大会敗退というチーム状況も踏まえれば、当然の成り行きだった。
怪物クラスだった前年の大エースのような、異次元のスピードボールはない。それでも、指に掛かったボールはきれいに伸びていくし、スローボールでもカウントをつくれるので大崩れしない。
どんな場面でも冷静でバタつかない。投球のフォームもコントロールも安定している
「ランナーがいたりしても、ストライクをしっかり入れられる」と本人も語るように、土台にあるのは制球力。さらには場面やボールカウント、打者のスイングなどに応じて、投球にもフォームにも緩急と幅がある。
「打者のタイミングを外すのは岡田(圭司)コーチに教えてもらって、自分でもいろいろ考えてやるようになりました」
この3月、全日本学童の最初の予選となる区大会は投打で優勝に貢献。大熊はスターターとしてゲームをつくり、本格派の長身右腕・高橋勇人へつなぐ必勝パターンも確立している。
「一戦一戦を大事にして都大会に出る、という目標を達成できたので、今度は全国大会に出ることを目標にみんなとがんばっています」
指にしっかりと掛かったときの速球は、きれいに伸びていく
昨年は都大会で名勝負を演じて、ともに夏は全国舞台で躍進した盟友・不動パイレーツ(全日本学童準V)も、来たる12日開幕の全日本学童都大会出場を決めている。それぞれ順調に勝ち進めば、6月2日の準々決勝で対決することになる。佐藤監督は、ここにきて手応えを感じているようだ。
「チーム状況は2月あたりが底でしたが、この1カ月でかなり上がってきていますね。大熊も投打ともにまだ伸びているし、計算できる選手の一人。私自身も(4年連続の全国出場を)狙っています」
1年前のチームのように、都大会でも相手を圧倒するまでの力はまだおそらくない。だが、昨夏の酷暑下で全国5連戦も経験した大熊が、先輩たちから学んだのはプレーや戦術や試合運びのことだけではないという。
「ベンチの盛り上げ方とか、声の掛け方とか、一人ひとりの礼儀とか…」
どんなにスーパーな選手がいて、日替わりヒーローがどんどん現れて、またどんなに勝ち続けても、全国銅メダリストたちの真摯な取り組みと謙虚な姿勢は変わることがなかった。
そこは年度や季節を問わない、レッドサンズの定番。顔ぶれや結果がどうあろうとも、不変の伝統なのかもしれない。
(動画&写真&文=大久保克哉)