【2024注目の逸材】
すが・まひろ菅 真紘
※プレー動画➡こちら
【所属】津山ヤングマスターズ/岡山
【学年】6年
【ポジション】投手、中堅手
【主な打順】三番、四番
【投打】右投右打
【身長体重】166㎝63㎏
【好きなプロ野球選手】山本由伸(ドジャース)、吉田正尚(レッドソックス)
※2024年3月10日現在
2023年の秋。関東方面の新人戦を中心に取材して回った中で、断トツに速いボールを投げていた5年生(新6年生)が中国地方にいた。岡山県第三の都市・津山市で活動する、津山ヤングマスターズの右腕・菅真紘だ。
「最速は110㎞ちょい。来年、6年生になったら卒業するまでに125㎞くらいを投げたいと思っています」
「投げ方は監督やコーチにも教えてもらいました。あとは小さいころから、お父さんとボールを投げてきました」
当時161㎝(現166㎝)の背丈も群を抜いていたが、単なるサイズとパワー頼みのタイプとは明らかに異なる。粗削りでいて危うい動きは見当たらず、身のこなしも軽い。全身を使った投球フォームには躍動感があり、中堅守備では捕殺も決めてみせた。
「ピッチャーも好きですけど、センターの守備も大好きです。外野同士で位置を教えたり、バックホームでアウトを取ると、うれしいのもあります」
中堅を守っているときには、ピンチも逆に見せ場なのだろう。揚々とスタンバイする様子も垣間見られた。小学生にありがちな“お山の大将”でもなく、登板時にはバックにエラーが出たりしても、いちいち制球に影響しない。
「ミスがあっても気持ちを切り替えて、次にアウトを取ればいい。そこは意識をしています」
試合では真剣勝負をしつつ、ベンチや仲間の声掛けに笑顔で応じることも
打席ではコースや状況に応じたスイングで、快音を連発。塁に出れば、果敢に走って次塁を陥れる。昨年に学校で計った50m走は8秒フラットだったという。
「将来はプロ野球選手になって、一流のピッチャーになりたいです」
チームの新6年生は11人。自他ともに認める仲の良さで、試合中は先を読んでのアドバイスや注意がよく飛び交う。戦況を問わず、どの顔も真剣そのもので、見守る保護者たちからもネガティブな声はまるで聞かれない。たとえ凡打でも一塁へ全力で駆ける菅の姿は、シンボリックでもあった。
家庭もチームも強制なし
「最近になって、中学で硬式のチームに入るというのを自分で宣言しました。のんびりしている性格なんですけど、チームでも小さい子のお世話をしたりとか、楽しそうに見えてきました。野球がより好きになってきたのかなと思います」
球春の到来を前に、菅の変化を敏に感じているのは母・貴子さんだ。165㎝の高身長で、中高とソフトテニス部で活躍。父・剛志さんは元球児で、津山ヤングマスターズでは背番号29でコーチを務めている。
「食べるのが大好きで、ご飯(白米)は1日3合はいきます」
菅の上には3人の兄がおり、長男は島根の古豪・浜田高でプレーした。次男だけはサッカーに一筋で強豪私学高へ。三男はこの4月から、故・星野仙一氏も輩出した公立の名門・倉敷商高の野球部の門を叩くという。
末っ子の4男坊・菅が、幼いころから白球に触れ、小1でチームに入ったのは自然な流れ。家族のみんなから愛され、良い意味で放任されて育ってきているという。
「母親としては、息子たちがやりたいことをそれぞれ叶えてあげられたらという思いだけで、特に苦労とかは感じていません。主人も長男の野球にはかなり熱を入れてましたけど、真紘は4番目で上の子と年も離れてますからね」(貴子さん)
神崎監督(上)は温かく選手に寄り添い、パフォーマンスを引き出さんと腐心。昨秋の新人戦は県2回戦までチームを導いている
菅は家庭の外でも、出会いとタイミングの運に恵まれているようだ。チームを率いて13年(指導歴15年)になる神崎徳泰監督は、今日からは想像できないが、かつてはガミガミと口うるさい指導者だったという。
「4、5年前に自分から意識的に変えました。野球を好きになって楽しんでもらいたい、というのが一番に」
取材した大会では好機で見逃し三振もあったが、咎めるような言動は一切なし。「目の前の結果でベンチが何かを言ってしまうと、バットも振れなくなってしまう。いつも気持ちよく打席に入って、気持ちよくバットを振ってほしいので」(神崎監督)
もちろん、打撃に限らず技術面の指導もある。昨秋の新人戦では、近隣2市1町の美作(みまさか)地区予選を制して県大会に出場し、初戦を突破した。
菅は昨年1年間で10本塁打。通算では20本近く打っており、その半分程度はサク越え弾だという。今年は夏の全国出場を全員で期しており、チームとして持ち前の走塁にさらに磨きをかけている。
あるべき自然な芽生え
「ひょうきんで、みんなを楽しませてくれるムードメーカー。大きいし、失敗してもあまりくよくよしないので、どんなときも任せられる頼もしい存在です」
昨秋、指揮官からこのような評価を受けていた菅は、気負いや悲壮感とは無縁。話してみると、どこにでもいそうな素朴な5年生だった。
「チームの活動は土日だけ? はい、1日の練習量は多いです。平日は? 学校があって、家に帰ったら友だちと一緒に遊んでいます」
野放しでも、ここまで人目につくプレーヤーに育ってきたのだから“未来モンスター”に違いあるまい。身体は中学生並でも、中身のほうは子どもらしい子ども。そんな菅が最近の自分をこのように語る。
「前よりは野球をする気持ちが大きくなってきたと思います」
身長はこの4カ月弱で5㎝アップ。自らバットを振るなど、運動量が増したこともあって体重は逆に2kg減。冬場を経て制球が安定し、試合を重ねながら緩急のピッチングもできるようになってきたという。
「いくら速い球を投げても、それだけだと打つバッターは打つので」
投打のハイパフォーマンスに加えて、果敢な走塁でもチームを引っ張る
一方、成長は身体とプレーだけに限らない。そう指摘するのは神崎監督だ。
「取り組む姿勢が意欲的になりましたね。調子が悪くても、テンションが下がらないし、切り替えが早くなって周囲への声掛けも活発になっています」
アスリートの芽生えとは本来、このように自発的であるべきなのかもしれない。常に一歩先をゆく体に、技と心が追いついてきたときに果たして、どのような化学反応が起こるのか。未来のことは誰にもわからないが、本気のスイッチが自ら押された分だけ、可能性も期待値も跳ね上がっている。
(動画&写真&文=大久保克哉)