【2024注目の逸材】
すずき・こうだい鈴木煌大
[東京/6年]高島エイト
※プレー動画➡こちら
【ポジション】投手、三塁手
【主な打順】二番、三番
【投打】右投左打
【身長体重】160㎝53㎏
【好きなプロ野球選手】山本由伸(ドジャース)
※2024年5月12日現在
全日本学童東京都予選会のメイン会場。府中市民球場は8月の本大会とは異なり、70mの特設フェンスがない。つまり、外野への打球はすべてフリーだ。
となると、外野手の前後の位置取りと守備範囲、内野手の後方の打球へのケアが、明暗を分けることが多くなる。しかし、このバッターの打球は、そういう次元を超えていた。
高島エイトの二番・鈴木煌大だ。5月12日、開会式直後のオープニングゲーム。足立区王者・西伊興若潮ジュニアとの1回戦の第4打席で、衝撃的な一打を放っている。
「外野バック!」「内野もバック!」「内野も外野もみんな下がれ!」
6回表、二死無走者で左打席に向かうと、相手ベンチから長打警戒の指示が盛んに飛んだ。前の打席では、右前へあっという間に達するタイムリーを放っていたから、無理もない。
その警戒網を打ち破ったのは、1ストライクからの2球目だった。やや余して握るバットをコンパクトに振り抜くと、白球は中堅手の頭上をライナーで襲い、122mのフェンスへと芝の上を転々。相手の完璧な打球処理からの中継プレーを前に、本塁憤死でランニングホームランとはならなかった(記録は三塁打と走塁死)。それでも、実績と実力を伴う両軍によるこの一戦で、文句なしに一番の打球の飛距離とスピードだった。
全国大会最終予選の1回戦。第3打席の右前タイムリー(上)に続き、第4打席は中越え三塁打(下)
「緊張しました。(三塁打も)あまり覚えていないです。手ごたえもあまりなかった感じで…」
8対5で初戦を突破した後の鈴木は、拍子抜けするほど口が重かった。
なぜ、バットを短く持つのか。力感みなぎるフルスイングというより、ミート優先のスイングにも見えるが、なのになぜ、あれほど打球を飛ばせるのか。本塁打は今年に入って何本、上積みしたのか(昨年までで通算10本程度)…。何を聞いても、どうにも歯切れが良くない。代わりに、周囲の仲間たちが口々に教えてくれた。
「今年だけでホームラン20本は余裕でいってるでしょ!」「チームで一番打っている!」「めちゃめちゃ打つし!」…。
またフィールドでは、逆に鈴木が仲間を励ますシーンもあった。印象的だったのは4点リードで迎えた最終6回裏の守り。内野ゴロの送球エラーから無死二塁になると、藤井誠一監督がベンチを出てきて内野陣を集め、こう声を掛けた。
「4点差あるし今、反省しても仕方ない。1個1個アウトをとっていこう! お説教は試合後にできるからな(笑)」
ミスした選手も心を立て直せる内容と時間だった。マウンドでの円陣が解けてから、鈴木はさらに何かしら言葉を掛けて三塁の守備に戻っていた(=下写真)。
「おとなしくて、喜怒哀楽をあまり表に出さないので、わかりずらいところもあるんです」と指揮官から聞かされていた。そんな6年生が、仲間をどういう言葉でフォローしたのだろう――。
この謎も謎のまま…。それでも、思いやりのほどは十分にうかがえる。また球場表示で最速105㎞をマークした投球については、本人から意外に多くが語られた。
「スピードはまだまだですね。6年生のうちに115㎞くらいまでいきたいです。2イニング目に2アウトをポンポンと取ってから、抑え切りたかったです(結果は連続タイムリーを許して降板)」
背番号1の鈴木は、エース格の右本格派。指導陣の当初からの期待どおりに育ってきているようだ。藤井監督は半年ほど前に、こう話していた。
「まだ出し切れていないけど、ポテンシャルが素晴らしい。野球に真摯に取り組んでいるので、ケガをさせないように大事に、順調に伸ばしてあげたいなと思っています」
球速は4年時から計っていなかったが、この5月12日に最速は105㎞と判明
このところ、球速とともに目に見えて上がっているのが、スローボールの制球力だ。球の緩急によってフォームが大きく変わることもなく、ピッチングの幅も増している。
投手陣は3人でつなぐ必勝リレーを確立しているなかで、役目は主に二番手か三番手。この都大会1回戦では4回裏、二死一塁で救援した。バックのミスから走者には三進まで許すも、本塁にはかえさずに切り抜けている。
味方にエラーが続いたりしても、表情も制球力も変わらない。この強みは以前から際立っており、今年1月にはこのように話していた。
「自分がしっかり投球すれば、エラーとか不運もだんだん減っていくだろうと、いつも思っています」
父子で真摯に向き合う夢
きょうだいは姉が1人。鈴木はケンカをすることもなく、決して内弁慶というわけでもないようだ。自宅でも控えめで口数が少ないと教えてくれたのは、元高校球児の父・隆也さん。
「野球に対しては私は厳しいです。平日はピッチングとかノックとか素振りとか、息子と一緒にメニューを考えてやっています」
チームの活動は週末と祝祭日が基本。あのコンパクトなバットスイングは、父の直伝だった。「後ろ(テイクバック)を小さく、前(フォロースルー)を大きく」と、平日に練習を積み重ねてきた結果、バットヘッドが瞬時に猛烈に走る今の打ち方が身についたという。
打席へ入るにも、守備に就くにも、必ず審判に挨拶している
野球を始めたのは1年生の5月。テレビでプロ野球中継を見ていて興味が沸いたという。このあたりも、父はよく覚えている。
「テレビで野球を見せたのは私。作戦通りにハマってくれましたね(笑)。まぁ、その後も本人が好きで野球をやれていることに感謝。チームにもみなさんにも感謝しています」(隆也さん)
父子が抱く夢は、最高峰のプロ野球。鈴木はまず、1学年上の先輩2人がプレーした、年末のNPB12球団ジュニアトーナメントを目指している。
「ジュニアに入るには、バッティングをもっと磨いて波をなくさないと。将来はプロに行って、ピッチャーで良い結果を出したいし、バッターでも打率を残せる選手になりたい。二刀流? はい!」
「守備とピッチャーが好き。見逃し三振とか、気持ちいいです」
一方、チームの仲間と目指しているのは夏の全日本学童大会だ。
予選の都大会は勝ち進む限り、6月15日の決勝まで毎週日曜日に試合が続く。2回戦の相手は、新人戦の関東王者・船橋フェニックス。昨秋は都大会3回戦で対戦し、2対19と大敗している。
「まともにやって勝てるとは思っていないので、目一杯にやって、あとはどうなるか。多くを望まずにやるだけですね」
指揮官の控えめなコメントを、強気で上回ったのが鈴木だった。
「結構、接戦になると思うんですけど、絶対に勝ちたい! 全国に行きたいです」
高島エイトは2022年に全日本学童初出場。船橋より1年早く、全国デビューを果たしている。注目の一戦は5月19日、郷土の森第1球場A面。午前9時にプレーボール予定だ。
(動画&写真&文=大久保克哉)
藤井監督(下)は2022年に初出場の全日本学童大会でも采配している