第18回ポップアスリートカップくら寿司トーナメントの全国ファイナル。「冬の神宮」の好勝負セレクション第2弾は、最終回の二死無走者から振り出しに戻った準々決勝の一戦にフューチャーする。開始から間もなくして日没で北風も強まる中、最後までどちらに転ぶかわからない熱戦だった。
(写真&文=井口大也)
経田野球スポーツ少年団(富山)
000001=1
100001x=2
しらさぎ(東京)
【経】永井、朝野拳、島澤大-島澤大、朝野拳
【し】新井、田中-方波見
本塁打/石田(し)、朝野拳(経)
1回裏、しらさぎは三番・石田のランニングホームランで先制する
試合の流れを左右する「初回」と、勝負が決する「最終回」。いわば、入り口と出口で見せ場がそれぞれ訪れたが、その間も引き締まった内容の好ゲームだった。
まずは1回裏、しらさぎの三番・石田波瑠が口火を切った。一走のけん制死で二死無走者となり、先制の機運がしぼみかけた直後の2球目を力強くインパクト。痛烈な打球は瞬く間に左中間を破り、先制のランニングホームランとなった。
1回表を3者凡退で立ち上がっていた先発左腕の新井葵葉は、1点のリードをもらってさらに波に乗った。柔らかなフォームからキレのいいストレートを投げ込んだかと思いきや、山なりの遅球“イーファス・ピッチ”も織り込む投球で相手打線を手玉に。4回二死からの与四球で2番手の田中伊織にバトンタッチするまで、走者を1人も許さない快投だった。
いきなり被弾した経田の先発・永井だが、柔軟なフォームが目を引いた
対する経田(きょうでん)野球スポーツ少年団は、継投で互角に試合を運んだ。立ち上がりで一発を浴びた永井結大は、2回には一死三塁のピンチもあったが、丁寧にコーナーを突く投球で後続を断つ。3回から登板した朝野拳心主将は、抜群の球威で打者9人をシャットアウトした。
また、双方のバックの活躍にも目を見張るものがあった。しらさぎの二塁手・三原泰芽(=下写真)は4度の守備機会を捌き切り、中堅へ抜けようかというゴロに素早く追いついての一塁ストライク送球で奪ったアウトも。経田は捕手の島澤大将が難しい飛球も処理し、2投手をしっかりとリードしながら流れをイーブンに食い止めてきた。
1点を追い続けながら、無安打で反撃の糸口さえつかめない経田打線は、最終6回表も二死で走者なし。だが、この崖っぷちで起死回生の同点ランニングホームランが生まれた。打ったのは3回から快投を続けていた主将、一番の朝野拳だ。打球は左中間を抜けていき、ダイヤモンドを疾走する背番号10が本塁を駆け抜けると、ベンチとスタンドの応援席はお祭り騒ぎに(=下写真)。
しかし、「夏の夢舞台」全日本学童1回戦でも接戦を演じていた、しらさぎは慌てていなかった。1対1で迎えた6回裏、先頭の一番・井手上季稜が遊撃手後方にポテンヒットを放つと、一瞬のスキを逃さずに二塁を陥れた。後続2人は倒れて二死三塁となるが、四番・新井は高く弾むゴロを打って一塁へ全力走。
この新井の打席結果が、公式記録は内野手の失策となっているが、打者走者をアウトにするには難しい打球とタイミングであり、サヨナラ内野安打が妥当と思われる。ともあれ、これで勝負あり。最後まで手に汗握る、がっぷり四つの大接戦であった。
〇しらさぎ・坂野康弘監督「(日も陰り風も強まる中で、打撃面が)寒い試合でしたね。チャンスを逃し続けるとこういう試合になる。もうちょっと打ってもよかったと思うけど。経田さんも本当に良いチームで、出てくる投手がみんな良かったですね」
●経田野球スポーツ少年団・高瀬友也監督「(目に涙を浮かべ)何とか勝たせてやりたかった。ノーヒットノーランで進んでしまっていた中で、6回表は何とか1本打ってくれ、という気持ちでした。子どもたちには中学、高校と次のステージがあるので、この経験を糧にしてもらいたいです」
――Hero❶――
緩急自在の投球にV打
新井葵葉
[しらさぎ6年/投手]
投げては3回2/3をノーヒットに抑え、打っては四番打者として勝負を決める、しぶといバッティングと全力疾走。準決勝進出の立役者となった。
イーファス・ピッチを交えた緩急自在の投球が冴えまくったが、それも「急」の質があってこそ。ストレートにも十分に力があり、経田の中軸打者に対しても怯むことなく投げ切った。
明くる日の準決勝では、大阪・新家スターズを相手に4回無失点の好投を披露している。
――Hero❷――
崖っぷちで見せた主将の意地
朝野拳心
[経田6年/投手・捕手]
しらさぎの二番手投手、田中伊織は快速球を投じていた。5回から回またぎで3者連続三振を奪い、最終回となった6回表も二死無走者。スコアは1対0ながら、攻める経田は開始から無安打のままで、このまま決着すると多くの人が思っていたはず。
ところが、一塁側の経田のベンチには諦めムードはなく、その急先鋒でもあったのが3回から完璧な投球を披露してきた主将、朝野拳心だった。そして自らのバットで、一時同点となる起死回生の本塁打を放ってみせた。
勝敗は付いたが、試合後の指揮官の言葉の通り、「冬の神宮」を糧として、さらにスケールの大きな選手になっていくことだろう。