秋の新人戦で最上位となる関東大会の、決勝と同一カードが東日本少年野球交流大会で実現した。大会2日目、船橋フェニックス(東京)と、西埼玉少年野球(埼玉)による準々決勝だ。昨秋は8対3の勝利で関東王者に輝いた船橋が、このリマッチは5回コールド勝ち。予想外のワンサイドゲームとなったが、王者には負けられない理由があった。返り討ちにされた西埼玉も、2回戦では関東大会の神奈川代表に完封勝ちなど、実力を示した大会だった。
※記録は編集部、学年の無表記は新6年生
(写真&文=大久保克哉)
■準々決勝
◇3月31日 ◇茨城・希望ヶ丘公園野球場
西埼玉 00000=0
船 橋 14101x=7
※5回コールド
【西】金子、杉山-村井
【船】松本-竹原
本塁打/松本2(船)、濱谷(船)
関東出場組が激突
茨城県を舞台とする東日本交流大会は毎年、全国大会の最初の予選が各地で始まる直前にある。どのチームも、最終のテストや調整を兼ねて参戦してくる。
昨年は雨で中止となったが、節目の第20回を迎えた今年は、福島県の常磐軟式野球スポーツ少年団と、長野県のTeamNを加えた1都8県から32チームがトーナメント戦にエントリー。しかも、昨秋の関東大会に出場した各都県の王者8チームのうち5チームが参加とあって、例年にも増してハイレベルで拮抗した戦いが多く見受けられた。
早くも2回戦では、関東出場組の4チームが激突。船橋フェニックスは栃木の真岡クラブに、西埼玉は神奈川の平戸イーグルスに、それぞれ快勝した。
西埼玉の四番・白垣大耀(下)は2回戦で長打を連発。平戸は「自分たちのできることをしっかりやろう!」(中村監督=上)と臨んだが、0対5で敗北
平戸は対外試合解禁の2月(県独自のルール)から、負けなしで来ていたという。互いに無四死球のハイペースで進んだ2回戦は、守と走の綻びから序盤で流れを失うと、相手打線の中軸につかまり5失点でそのまま敗れた。1996年アトランタ五輪で主将も務めた中村大伸監督は、西埼玉の個の能力の高さと安定した試合運びに脱帽の様子だった。
「能力的にも、ちょっと相手との差を感じましたね。こっちのミスを逃してくれないし。こういう相手に対しても、ガマン強くやれるチームをつくっていかないといけませんね。選手たちには良い経験になりました」(中村監督)
「当たって砕けろ!」
迎えるダブルヘッダーの2試合目。準々決勝で関東王者・船橋と戦う西埼玉には、好材料もあった。平戸戦で右腕・歩浜鈴乃助が完封したことで、エース左腕の金子塁主将と右腕の杉山拓海を温存できたのだ。
西埼玉の18番・杉山は今大会、伸びのある速球で注目を集めていた
成長痛が癒えて、2月から実戦のマウンドに復帰したという杉山は今大会、伸びのあるストレートが際立っていた。
「金子と杉山がフルでいけるのは確かに大きい。ただ、相手のほうがポテンシャルがぜんぜん上なのはわかっているので、当たって砕けろ! ですよ」(綿貫康監督)
船橋の選手たちは、ハイポテンシャルを開始から見せつけた。1回表の守りを3人で終わらせた右腕・松本一がその裏、今度はバットで右へクリーンヒット。
西埼玉の先発・金子主将は空振り三振で二死を奪う。続く船橋の四番・濱谷隆太も打ち取ったかに見えたが、浅い飛球と深い外野守備が災いしてこれが先制タイムリーに。
船橋の四番・濱谷は先制タイムリーに続き、3回には文句なしのソロアーチ(上)。五番・吉村は前日の1回戦で2本のサク越えを放っていた(下)
西埼玉は今大会、大胆に深い外野シフトを敷いていた。定位置なら頭を越される長打を単打に食い止めよう、との意図だろう。いわば、ローリスク・ローリターン。綿貫監督もこう語っていた。
「あのバット(一般用のレガシー)でやる限り、仕方ないですね。力のあるチームはみんな飛ばしちゃうから、外野は後ろからアプローチしていくのが無難」
船橋打線は前日の1回戦で、五番・吉村駿里が2本のサク越えアーチなど、何と28得点。圧倒的なパワーで相手の外野陣を後退させてのテキサス安打も、中にはあった。この準々決勝でも同様のヒットが3本。これも実力の証明だ。
課題にも向き合う王者
2回裏、一死から七番・直井翔が右へテキサス安打。続く長谷川慎主将の左前打の間に、一気に三塁を陥れた直井が語る。
「レフトが深いのを見ていたので、打球が飛んだ瞬間に三塁まで行けると判断しました。こういう走塁を意識してます」
船橋は約1カ月前に、京葉首都圏江戸川大会で優勝。このときに木村剛督が課題を口にしていた。
「一発で決められないときにどうするか。走塁とか、細かな野球ですね」
2回裏、船橋は一死二、三塁から佐藤のスクイズで三走・直井が生還、2対0に
選手たちがその課題にも素直に向き合っていることは、直井の走塁以外でもうかがえた。一死一、三塁から、まずは一走・長谷川主将が初球で二塁へ走る。そして九番・佐藤蔵乃丞が、スクイズバント(記録は内野安打)を決めて2点目を奪ってみせた。なお、再び一死一、三塁。
「ここでどういう声掛けができるかだよ! 成長しろ!」
西埼玉の綿貫監督は、あえてベンチを動かずにそう発していた。満を持して先発していたマウンドの主将のもとに、内野陣が集まる。
ピンチで自発的に集まった西埼玉内野陣(上)。エースの金子主将(下)は真っ向勝負を挑み、バックは無失策でそれに応えた
「打たれてもフォアボールは出さないとか、最低限は意識してやれました。でも、きょうは相手バッターが上でしたね、強かったです。勝負した球を完全にいかれましたので」(金子主将)
エース左腕がこう振り返った1球は、2点目を失った後の被弾だった。船橋の松本が、左打席から右へ豪快に3ラン。
リードは5点に広がり、主導権も船橋が掌握した。3回には濱谷が右中間へソロアーチ。そして5回、松本が2本目となるサク越えをセンターのやや左へ。この一発で7対0となり、コールドゲームが成立した。
リスタートへ潔く
西埼玉は4回に金子主将が左へチーム初安打も、あとは上位打線が沈黙。下位打線はバスター打法を試みて、5回表の歩浜のチーム2安打目がやっと。3回途中から救援した杉山は期待通り、4者連続でアウトを奪ってきたが、痛恨のサヨナラ弾を浴びてしまった。
「重心を低くしてミートしていく」(綿貫監督)と、西埼玉は中軸以外はバスター打法。写真上は二番・成田煌。下はチーム2本目の安打を放った歩浜
「いやぁ、強い! やっぱり、甘かねーわ。全国制覇を目指しているチームと、全国出場を目標にしているチームとの差ですね」
敗軍の将は自嘲気味に淡々と続けた。
「特に船橋の松本クン、緩急のピッチングが素晴らしい。去年の関東大会は寒くて、彼も緩いボールが入らなかったのでウチの打線も絞れたけど、きょうは緩いボールもみんなストライクで速いボールも来るし、小学生ではなかなか打てないと思いますよ。あっちはみんな生き生きしてる、自信満々だもんね。ウチはこれが第一上四半期の実力。ゴールではないので、またがんばります」
3安打2本塁打4打点に、5回を被安打2の無四球完封と大車輪の活躍だった船橋・松本
確かに完敗だった。だが、登板した2投手は四死球ゼロ。けん制やクイックモーションも巧みで、二盗阻止もあった。大会を通じれば、打も守も十分に磨かれた跡と関東準V王者の実力も垣間見えた。
「キャプテンである自分がもっと成長して、チームを率いる選手になれるように。みんなも全力でがんばれるチームにしていきたいです」と、金子主将は目標の夏の全国出場へ意気込みを語った。
負けられない理由
勝利した船橋の木村監督は、穏やかな安堵の笑みで振り返った。
「去年の関東決勝で戦って以来、お互いにどれくらい仕上がっているかなと思ったんですけど、きょうはウチが点数を取れましたね。『相手はすごく良いチームだし、この1時間半は意識を高く、緊張感を持っていこう!』と選手たちに話して入ったゲームでした」
大技小技での7得点に加え、ノーエラーの守備もお見事だった。相手の監督も感心したように、まるで奪い合うかのように打球へ向かっていく好戦的な姿勢は、一方的な展開になる前から見て取れた。
「そのへんはやはり、きのうの負けがあったからかもしれないですね。きのうの反省点を共有しつつ、各自で持ち帰ってそれなりに立て直してきてくれたのかなと思います」(木村監督)
そう、実は前日で船橋の全勝ロードがストップしていた。1回戦後に、全国区の強豪・茎崎ファイターズ(茨城)との練習試合が実現し、4対12のコールド負け。
新チーム始動から初めて喫した黒星であった上に、まさかのスコア。目に見えない後遺症も内外から危惧されたなかでの大会2日目、負けるわけにはいなかったのだ。
「きのうの茎崎戦はミスとかも多かったので、負け癖がつかないようにと、きょうは集中してやりました」と正捕手の竹原煌翔。長谷川主将は、茎崎へのリベンジをこのように誓った。
「きのう負けて、ちょっと落ち込んでいるわけではないけど、悔しい気持ちがあります。あの負けをどんどん生かして、公式戦はこのまま全部勝ち続けたいし、(準決勝で)今度は逆に茎崎にコールド勝ちしたいです」
6日後の4月6日、準決勝の第1試合で、船橋は茎崎と激突している。