各支部代表62チームによるトーナメント。決勝のみの最終日は、投手の球数を稼ぐような消極策はなく、実力派同士が真っ向から対峙。緊迫した試合は終盤に動いて決着した。ノーブルホームカップ第25回関東学童軟式野球秋季大会の予選を兼ねた東京都新人戦は、10月22日に閉幕。2連覇を達成した船橋フェニックスは11月25からの関東大会(茨城)と、来年7月の高野山旗(和歌山)に出場。準Vの旗の台クラブは、同じく来夏の阿波おどりカップ(徳島)の出場権を得ている。
※記録は編集部
(写真&文=大久保克哉)
⇧優勝(2年連続2回目)/船橋フェニックス(世田谷区)
⇩準優勝/旗の台クラブ(品川区)
■決勝
船 橋 000013=4
旗の台 100000=1
【船】松本、長谷川、木村-濱谷
【旗】井手、寺村、片山-片山、梶原
47都道府県で最多にして唯一の4ケタ、1051チームが登録する東京都。今夏の全日本学童大会(東京3枠)は、不動パイレーツが準優勝してレッドサンズが4強入りした。
5年生の新チームに代が移っても、大激戦区の頂上決戦は同じくハイレベルだった。
両チームの応援が熱戦を盛り上げた。旗の台は母親たちの歌声(下)もよく響いたが、投手の投球動作中は静寂に
全面人工芝の板橋区立城北野球場で行われた決勝は、70mの特設フェンスなし。町中とあって午前9時までは声出しNGながら、解禁30分後に始まった一戦は、王者を決するにふさわしい両軍が真っ向から激突し、緊迫の勝負を展開。控えメンバーやベンチ外の下級生、保護者らの応援合戦も自ずとヒートアップしていった。
交流する両軍に共通点
内容と結果は別として、登板した双方3人、計6人の投手たちはいずれも出色だった。それぞれ球を受ける正捕手2人もまた、高い次元で張り合えるレベル。互いにバッテリーミスが失点の一部に絡むも、野手7人はともにノーミス。どちらの打線も好球必打で、二番打者が決定的な仕事をこなすなど、共通点が多くあった。
そして決着、表彰式の後には両軍の指導陣が歩み寄って、しばし談笑。船橋フェニックスの木村剛監督は、旗の台クラブについてこう語っている。
「旗の台とは交流もあって、何度か練習試合もさせてもらっているので、子どもたちも非常に前向きで良いチームなのはわかっていました。なので、そう簡単には勝てないなというふうに感じていましたし、良いゲームができたと思います」(木村剛監督)
船橋・木村監督(上)も、旗の台・寺村監督(下)も、コーチを経て新チームから指揮官に。いちいち感情的にならず、選手のパフォーマンスを引き出せる点でも共通していた
旗の台は3年前に大会初優勝。コーチとして現5年生たちとともに繰り上がってきた寺村俊監督が、新チーム始動とともに指揮官に就任。自身は早大までプレーして故・應武篤良監督から「細かい野球と得点するための武器もいろいろ学ばせていただきました」。
試合前のアップは専門のコーチに任せ、応援には選手の母親たちも前面に招くなど、父親監督でありながら組織の長としても一目置かれる存在だ。
対する前年王者、船橋フェニックスは今夏、開催地代表として全日本学童に初出場した。学年単位の活動がベースだが、長谷川慎主将と木村心大は6年生チームに加わって全国舞台を経験(1回戦で惜敗)。
その2人を含む5年生20人の新チームは「6年生チームとも良い勝負するんです」と木村監督が語るように、体格に恵まれた選手が多く、内外野の肩の強さやスイングの鋭さも際立っていた。
大一番は船橋・木村の先頭打者ヒット(写真)に始まり、完璧な火消しで終わった
そして全国デビュー済の一番・木村が、開始2球目を左翼線へ。貫録の一打で幕を開けたが、次打者の初球で仕掛けた二盗は成功しなかった。
「打てない展開でこそ」
持ち前の強肩で二盗を阻んでみせた旗の台の正捕手・片山龍和がまた、6年生も上回るような体躯の155㎝60㎏。「この新人戦から本格的に捕手になりました。スローイングの練習をしまくっています」と語るように、捕球やバウンドストップには鍛錬の余地が見られるも、相手のトップバッターを冒頭で刺したことでの抑止効果も十分にあったようだ。
1回表、船橋は二死無走者となってから三番・松本一と四番・竹原煌翔が連打も無得点。2回以降も毎回走者を出したが、盗塁企図はなかった。旗の台の先発右腕・井手初紀はボール球が先行する苦しい局面もあったが、緩急を用いて粘り、4回を6安打1死球の無失点とゲームをつくった。
「たぶん打たれるだろうけど、焦るとコントロールが悪くなるから落ち着いて投げました」(井手)
旗の台は先発の井手(上)が、長い手足を操っての粘りの投球で4回無失点。1回裏には中前打の徳重(下)が相手の隙を逃さない好走塁で生還する
1回表に3安打されながら無得点で切り抜けた旗の台がその裏、先制する。一死から中前打で出塁した二番・徳重孝太郎が、バッテリーエラー3つで生還。記録は確かに暴投や捕逸だが、捕手がほんの少し球を弾いただけでも次塁を陥れることができたのは「ショーバンゴーをいつも練習しているので」と徳重は試合後に語っている。
5回にはそれが裏目に出て、二走の二岡和暉が三塁を狙って刺されたものの、これは船橋の正捕手・濱谷隆太の正確かつ強かった送球を称えるべき。四球を選んでから二盗を決めた二岡にも、高い走塁力が見て取れた。
「打てない展開でどうするか、エラーが出たときにどうするか、バリーションがないと。選手たちに『考えろ!』と言う前に、そういう引き出しをたくさん与えてあげないといけないと思っています。ショーバンゴーも、引き出しの1個です」(寺村監督)
力でねじ伏せる
ただし、走塁力も出塁しないことには発揮のしようがない。船橋の先発右腕・松本一は、2回から5回までに許した走者は四球による2人だけ。旗の台打線もバットが振れていたが、それを力でねじ伏せていった。
5回表、船橋は松本の三塁打(上)とボークで1対1に。旗の台は寺村監督がタイムを取る(下)。「捕手のサインをベンチから修正する中で投球動作を停めてしまい…あのへんの判断力も課題です」(同監督)
そして5回表に試合が動く。旗の台は二番手の左腕・寺村陸主将が、ダイナミックなフォームから勢いのあるボールを投じて簡単に二死を奪う。しかし、船橋の三番・松本に左翼線三塁打を許してリズムが狂ったか、ストレートの四球、さらにボークで1対1の同点に。
「優勝した阪神のように」
6回表は旗の台の捕手・片山がマウンドへ。その代わりバナで船橋は七番・長谷川主将が右前打。強いボールを投じる片山が許したクリーンヒットはその1本のみだったが、より際立ったのは船橋打線のつながりだった。
小柄な左打ちの九番・佐藤蔵乃丞が、外角球を流し打つファウルなど、あくまでも手を出しながら四球を選んで一死一、二塁に。「とにかく先頭につなぐことを考えて打席に立ちました。ストライクが来たら打ってランナーを返そう、と」(佐藤)
6回表、船橋は長谷川主将が右前打(上)。九番・佐藤(下)はストライクを打ちながら結果として四球を選んで一死一、二塁に
さらに2安打していた木村の打席中に、暴投で二、三塁となったが結果は空振り三振で二死に。意気消沈しかけたところで、二番・半田蒼馬が大仕事をやってのけた。
「自分で決めてやろう、と。ピッチャーの球が速いのでアウトコースだけに山を張らないで、真ん中からインコースに来たのを狙って打ちました」
ボール2から振り抜いた打球は、中前で落ちるテキサス安打となって2人が生還。続く三番・松本もテキサス安打で、4対1とリードを広げた。
6回裏、船橋の二番・半田が勝ち越しの2点タイムリーを放つ
6回裏、船橋は長谷川主将が登板も、制球に苦しんで2四球で木村へスイッチ。旗の台は四番・片山もストライクに手を出しながら四球を選んで無死満塁に。本塁打なら逆転サヨナラという好機に、後続打者も果敢に打って出たが快音は響かず。右腕の木村が、大ピンチも楽しむかのように伸びのあるボールを投じて3アウトを奪い、胴上げ投手となった。
「自分は阪神ファンで今年の優勝を見たので、自分もここで抑えて優勝したいなと思って投げました。フェニックスは全力プレーで、キャプテンをはじめとしてみんなで助け合える良いチームです。来年は高野山も優勝したいし、マクドナルド(全日本学童)も1回戦負けだったので、今度はちゃんと優勝したいです」(木村)
木村の父でもある指揮官は今夏の高野山旗も帯同。「大目標はマック(全日本学童)ですけど、高野山も今年のベスト8を超えられるように、隙をもっとなくしてしっかりとレベルアップしていきたいと思います」と抱負を語った。
旗の台・寺村主将もダイナミックなフォームから力強いボールを投じていた
逆転負けの旗の台は、寺村主将が今後の決意をこう語っている。
「ピッチャー陣は打たれることを想定して打撃を鍛えてきたんだけど、きょうは1点しか取れなかったのが敗因です。チームの目標は全国1位ですけど、今はまだ船橋に勝てないと思うので、打撃と終盤に最少失点に抑えることを課題に頑張って、来年は船橋を倒して全国に行きます」
〇船橋フェニックス・木村剛監督「ワンチャンスが得点(勝ち越し)につながったのかなと思います。私自身、相当なプレッシャーも感じながらの決勝戦で良いゲームができたと思います。修正するべきところを修正して関東大会に挑みたいと思います」
●旗の台クラブ・寺村俊監督「先制までは良かったんですけど、追加点が取れなかったのが響きました。先発の井手はよく投げましたし、ベンチも保護者も含めた一体感で戦えたと思います。課題も見つかりましたのでまた来年に向かって鍛え直します」
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ド迫力の投打二刀流
まつもと・はじめ松本 一
[船橋5年/投手兼遊撃手]
最速は「99㎞」との自己申告だが、決勝では確実に100㎞を越えていただろう。丸々と逞しい体型といい、二段モーションに真上から力強く振られる右腕といい、ソフトバンクのクローザーとして一時代を築いた森唯斗(2023年シーズン後に戦力外)を思わせる。
立ち上がりこそ暴投絡みで失点し、直後に連打も許したが2回から5回までは1本のヒットも許さずに逆転勝利を呼び込んだ。
「相手は良いバッターが多くて、自分の調子はそんなに良くなかったですけど、粘れたかな。そこそこ投げられました」
打つほうも迫力満点だった。5回には左打席からレフト線へ流し打っての三塁打。ベース上ではWBC決勝でメキシコ代表のランディ・アロザレナ(レイズ)が披露した「腕組みポーズ」を再現しながらドヤ顔もベンチへ。そしてボークで同点のホームを踏むと、6回には3対1と勝ち越した直後にダメ押しのタイムリー。
「打球が詰まったのが逆にラッキーでした」と振り返ったように、ほぼ打ち損じのテキサス安打ながら、スイング力が白球をそこまで飛ばしたとも言える。
低学年時からエース格で最速102㎞の長谷川慎主将に、見事な火消しで今大会の胴上げ投手となった木村心大と、チームには指折りの右腕3枚がいる。木村剛監督は「どんぐりの背比べで、誰がエースという感じはない」とやや辛口。だが彼らの切磋琢磨がこの秋の関東、さらに来年夏の全国でもチームを頂点へと輝く原動力になるかもしれない。
―Pickup Hero❷―
一体感を象徴した4年生
よねだ・ぜん米田 然
[旗の台4年/三塁コーチ]
「4年生のチームでは副キャプテンで、ポジションはキャッチャーとセカンドです。ジュニアマック(4年生以下の都大会)に出場するので、優勝に導きたいと思います」
満10歳。まだどことなく、表情にあどけなさも残る4年生だが、声はつぶれかけたように少しかすれていた。それもそのはず、試合前の練習から終始、5年生たちを鼓舞し続けていたのだ。
カメラのレンズを向けられて軽くはにかんで笑ったが、すぐさま真剣な眼差しに戻って全力発声をどこまでも。攻撃中は三塁ベースコーチに入り、走者がいないときには体も傾けながらの大発声で音頭を取り、ベンチと保護者で奏でる応援マーチを先導した。
「自分の声でチームが楽になればと思って、大声を出しています」
上級生のチームでのそうした役回りは昨年から。指導者に命じられたり、保護者に諭されて始めたわけではなく、「自分から始めました」
主将の父親でもある寺村俊監督は、保護者たちも含めたチームの調和を重要視しているという。
「この代は母親も前面に出て来てもらって、親と子の一体感を常に大事にしてきています」
三塁コーチ・米田然はその象徴にも思えた。ジュニアマックの1回戦は11月5日。今度は存分に、フィールドで主役となる番だ。
「応援も好きだけど、自分でプレーするのはもっと好き? はいっ!(笑)」