第43回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント茨城県予選兼令和5年度全国・関東ブロックスポーツ少年団軟式野球交流大会茨城県大会は6月24日、ノーブルホームスタジアム水戸の軟式球場で決勝と3位決定戦を行い閉幕。2年ぶり10回目優勝の茎崎ファイターズ(土浦市)が全日本学童出場を決めたほか、準優勝の上辺見ファイターズ(古河市)はスポ少の関東予選へ、3位の水戸市野球スポーツ少年団は関東学童への出場がそれぞれ決まった。思わぬ大差となった決勝から、チームの横顔にも迫った。
※記録は編集部
(写真&文=大久保克哉)
⇧優勝・茎崎ファイターズ=2年ぶり10回目の全日本学童へ
⇩準優勝・上辺見ファイターズ=全国スポ少交流関東予選へ
■決勝
茎 崎 15057=18
上辺見 00060=6
【茎】佐藤映、石塚、中根-藤城
【上】鹿倉、小岩、大曾根、中澤、大曾根-櫻井
本塁打/中澤(上)
「力がなくても」
2017年には吉田慶剛主将(千葉・専大松戸高3年)を擁して全日本学童4強入り。そして19年には同大会準Vと、日本一に肉薄した年の「関東の雄」茎崎には、絶対的な大黒柱がいた。
今年の6年生6人は粒ぞろいの中で、エースで四番の中根裕貴が頭ひとつ抜けている。昨秋の新人戦で関東準V、年が明けてローカル大会も制してきた。それでも吉田祐司監督は「決して力のあるチームじゃない。でもそれを言い訳にしない」と繰り返してきた。そんな指揮官が、夏の全国出場を掛けた大一番ではエースではなく、5年生の佐藤映斗を先発のマウンドに送った。
茎崎は5年生・佐藤映(上)が先発して相手の強打を巧みにかわし、4回途中から救援のエース・中根(下)が冷静な投球で胴上げ投手に
「(対戦相手の)上辺見は打撃が良いチームなので、やられるとしたら一方的に打ち込まれる展開。のらりくらりとした佐藤映のピッチングのほうが、うまくかわせるんじゃないかな、と」
吉田監督の読みはズバリと当たった。2回戦から準決勝まで2ケタ得点中の上辺見打線を、5年生左腕が3回まで無得点に。いずれも三塁に走者を置いたものの、あと1本を許さない。また、重圧のかかる場面でこそ堅くなる守備は、いかにも茎崎だった。
「監督から『ストライクだけ入れて、あとは何も考えずに後ろの守りに任せろ』と言われていて、だんだん調子も上がってきて楽しく投げられました」(佐藤映)
1回表、三番・藤城の左越え三塁打(写真)に五番・藤塚の左前打で茎崎が先制
全国初出場に王手をかけていた上辺見は、機先を制されて波に乗れなかったのかもしれない。1回表に二死無走者から2安打されて先制点を献上。2回表には無死満塁から3-2の本塁封殺で一死は奪ったものの、以降は不運な当たりや茎崎の徹底したバント攻撃に崩されて5失点、早くも0対6に。
このワンサイドになっても、茎崎の攻撃は手堅くて執拗だった。3四球3得点の八番・渋澤律斗が「後ろにつなぐこととムダにアウトにならないことを心掛けています」と語ったように、どの打者もボール球には決して手を出さなかった。
一塁に出れば、ほぼ確実に二盗とバントで好機を広げる。そして4回には藤塚凌大の2ランスクイズと新岡蓮の3点三塁打で5得点。11対6と5点差に詰められた直後の5回表は、2安打ながら敵失に乗じた足技と小技で大量7点を奪って再び大きく突き放した。
2回には三走・渋澤が暴投で生還(上)、4回には2ランスクイズ(下=打者・藤塚、三走・佐藤遥主将)など、茎崎は機動力と小技も駆使してリードを広げていった
「個性を大事に」
「ウチとすれば打って点差を広げないと勝てないと思っていたけど、あれだけ守りがバタバタしちゃうとね…。茎崎の足とバント攻めは想定内。でも、取れるアウトを取れなかったのはベンチの声掛けを含めて指導者の責任です」
試合後の上辺見・板橋勲監督は反省の弁が続いたが、6年生4人で堂々の銀メダルだ。持ち前の強打は、同監督の教え子である棚井一博コーチの「個性を大事にした指導のおかげ」だという。
上辺見は4回裏、先頭の牧内が反撃の狼煙となる左前打
遅きに失した感はあるものの、4回裏には牧内志生の左前打から反撃に転じた。二番・大曾根生夢が足を高く引き上げてからの力強いスイングで逆方向へ2点タイムリー。四番・櫻井斗暁もこの試合3本目の安打となる右前タイムリーを放つと、救援した茎崎のエース左腕から五番・中澤涼音が右へ2ランアーチで6点を奪ってみせた。
上辺見は四番・櫻井(上)が3打数3安打。4回裏には五番・中澤が右へ2ラン(下)
敗北後は口が重い上辺見ナインを代表して、鹿倉順平主将が「関東大会(7月16日)で2つ勝って、スポ少の全国に行きたいです!」と声を振り絞った。
「関東の雄」に変化
一方、2年ぶり10回目の優勝で全日本学童出場も決めた茎崎には、従来にない姿も見られた。6点を失うことになる4回の守りの途中で、内野陣だけがマウンドに集まって二番手の4年生右腕・石塚匠を笑顔で励ますなど、選手主導の動きも散見。「ちょっと前から、自分たちでタイムを取ることも普通にやっています」と佐藤遥音主将。
5回裏、打球を追った茎崎の右翼手・野口翔太郎(中央)がネットに突っ込んで転倒も、大事に至らず。「最後までプレーして優勝したかったので代わる気はありませんでした」
茎崎ナインはまた、殊勲打の後はプロ野球DeNAの選手のように「デスターシャ」のパフォーマンスを塁上で。優勝後の記念撮影では指導陣、保護者、OBらもこのポーズで一枚に収まった。
「今年の子たちは自分たちに力がないのもわかっているんだと思うんです。だからこそ『やるのは自分たちだ!』という意識も強いと思います。今まで全国に9回出て準優勝1回にベスト4が3回なので、目標とするところは一つ。この力なのでなかなかそこは言えないんですけど、出るからには最後の頂に子どもたちを導いてあげたいなと思います」
ゲームセットまでの厳しい眼差しから一転、大人たちの手で水戸の空にも舞った吉田監督の目は軽く潤んで光っていた。
■Pickup Hero
ミスに3点三塁打に涙
[茎崎6年/三塁手]
新岡 蓮

生え抜きの茎崎っ子。下級生のころから全国出場だけを夢みてきたという新岡蓮は、優勝が決まると歓喜の輪の外で一人、目頭を押さえていた(写真上)。「もう、僕の夢は叶いましたので全国では負けたとしても…。今までで一番の試合でした」
実は4回表、満塁走者一掃の三塁打(写真下)を放った際も涙があふれていた。九番打者にして4打数3安打4打点。絶妙のバント安打に三盗も決めるなど、執拗な攻めのシンボルのような働きだった。
三塁守備では2回裏に一塁悪送球も、「切り替えて打撃で取り返そうと思いました」。失策直後に2度続けて来た打球は無難にさばいた。3回裏二死満塁のピンチでは、ゴロをグラブに収めて三塁ベースを踏み、ベンチ前で笑顔のグータッチ。
全国大会は必ずしも怪物級のショータイムではない。等身大で輝く星もある。こうした健気で堅実なプレーヤーにも一生の宝になるだろう夏の夢舞台が、もうすぐやってくる。