学童野球界の年内最後の全国舞台。第17回ポップアスリートカップ全国ファイナルトーナメントが12月9、10日に神宮球場である。わずか2枠の関東代表に入った宇都宮ウエストキッズ(栃木)は、合併5年目で初出場。この9月には、夏の全日本学童8強の簗瀬スポーツを決勝で破り、県下125チームの新王者に。初夏の失意もバネにした努力と成長が、今回の全国デビューにもつながっているようだ。
(写真&文=大久保克哉)
※文中の試合記録は編集部
宇都宮ウエストキッズ
【栃木】
6年生メンバー
⑩石川維人
①勝俣陽翔
②高柳心翔
③角田駿斗
④君島壮祐
⑤飯田陽春
⑥根本一絆
⑧渡邉哉汰
⑨平本汰我
※丸数字は背番号、⑩は主将。関東Vメンバーは他に5年生6人、4年生5人、3年生2人、2年生3人
※『微笑みマイスター』主将の紹介➡こちら
年中無休の学童野球にも、ある程度の節目はある。秋が深まるにつれて、主役は6年生から5年生以下の新チームへと切り替わっていく。高校野球の夏ほどはっきりとした交代のタイミングがあるわけではない。年が明けても小規模な6年生大会を行う地域やチームも、あるにはある。
だが、多くは6年生の活動は12月まで。夏をもって卒団というチームも珍しくない。今夏の全日本学童大会に初出場でベスト8入りした栃木代表、簗瀬(やなせ)スポーツもそうだった。
全国大会後の8月終盤に開幕した栃木県下125チームによる巨大トーナメント、夏季大会の準優勝をもって6年生たちは卒団。彼らを率いてきた父親監督、松本裕功監督も一緒にユニフォームを脱いでいる。
「最後は手の内も知る相手に逆転されて、完全な力負けでした。優勝は逃しましたけど目標の最終日まで、あの子たちと野球ができたことに感謝。悔いなく終われました」(松本監督)
タレントが複数いたその簗瀬を、最後に打ち倒して夏の栃木王者に輝いたのが、宇都宮ウエストキッズ(以降、宇都宮ウエスト)だった。
ポップ杯の関東最終予選は初戦で先制打の四番・角田(写真)が、続く代表決定戦は最終回を無失点救援で締めた
「マック(全日本学童)が自分たちの目標だったんですけど、県大会の準決勝で簗瀬に負けてしまって。そこでみんなで目標を切り替えて、夏県(夏季県大会)で優勝して監督を胴上げしようと。実際にそれもできたのでうれしかったです」(石川維人主将)
自分たちの全国の夢を奪われた相手にリベンジも果たしての、夏季大会初優勝。新たな目標を達成した6年生9人が、新たに目指したのがポップアスリートカップの全国ファイナルトーナメント出場だったという。
ただし、例にもれず主役は始動した新チームへシフト。「ボクたちは半分、引退みたいなもの」と石川主将が語るように、水曜と金曜の平日練習を含む週4日の活動は5年生以下優先で、指導陣の目と手の多くも6年生から離れていった。
ピンチに強い左腕エースの勝俣は、打席では勝負強さが際立つ
それでも、自主対戦形式のポップアスリートカップの県予選を勝ち続けて関東最終予選(クライマックスシリーズ)へ。そしてたった2つの全国ファイナル出場枠に食い込んでみせた。
そこまでやれた理由は何なのだろうか。毎年のこととはいえ「(夏以降は)6年生を完全に切り離して、あまり構ってやれなくて…」と懺悔の念も口にした青柳俊一監督がこう語る。
「夏の県大会で彼らがガーン!と成長したんですよね。決勝の簗瀬さんもそうですけど、そこに行くまでにも厳しい相手とばかりのブロック(トーナメント)で。それを一つひとつ勝つたびに成長しながら優勝しちゃった。またそれで満足して切れることなく、集中が続いている。ホントにすごい6年生たちだと思います」
合併5年目で初の全国へ
宇都宮ウエストは、部員減少による近隣2チームが合併して5年前に船出したばかり。父親コーチ時代も含めて20余年の指導歴がある青柳監督が指揮官を務めてきている。
試合前は入念にステップ動作反復など気合い十分の正捕手・高柳。ほぼ自分の配球で5枚の投手陣をリードする
現6年生は5期生で、1学年上の代の選手が少なかったことから経験豊富。昨年の段階で関東大会も経験していた。
「毎年の新チームが始まるときに、保護者を含めた総会をやって、どういうチームにするのか、どこを目指すのか、ということを決めています」(同監督)
5年生の段階で関東大会でもプレーした面々とあって案の定、6年生9人の目標は「夏の全国出場」に。先述のように予選の終盤で夢を断たれるも、チームは崩壊することもなく、新たな目標に向かって進化し、勝ち続けてきた。
「夏までの練習はめちゃ厳しかったです」と石川主将が振り返れば、指揮官もそれを否定しない。「やれると思っていた子たちが出足で躓いてしまったので、そこからは厳しくやってきました」
その厳しさも、やたらに数や量を求めるものではなく、相手より1点を多く奪って終える術をチームと個々で磨いてきたのだろう。
ベンチ前の円陣からも、指導陣とナインの信頼や絆をうかがい知ることができる
ポップの関東最終予選では終始、誰もが落ち着いていた。ビハインドや劣勢、ミスが出ても指揮官はジタバタしない。フィールドのナインにも迷いの色がなく、石川主将を中心とする声掛けや笑顔も印象的だった。
「平日練習は打撃メイン。自分たちはバッティングのチームなので、相手に何点離されても諦めないで、ひっくり返す自信があります」と、五番を打つ高柳心翔。超大型チームの夏見台アタックス(千葉)との初戦は、5回表に2対3と逆転されるも、直後に三番・根本一絆から六番・勝俣陽翔までの4連打で6対4と再逆転して勝利した。
三塁手の飯田は強烈な打球やファウルボールにも果敢に飛び込んでいく
四番・角田駿斗は試合をまたいで5打席連続安打に二塁打2本と大暴れ。一番・君島壮祐、二番・石川主将、六番・勝俣の左打者3人はコースに逆らわないシュアな打撃が光った。
山野ガッツ(埼玉)との関東代表決定戦は、小技と足技も絡めながら中盤に小刻みに得点して3対0で制した。この接戦で際立ったのは、堅守と1点を奪う戦術の浸透ぶりだった。
0対0の3回裏には二塁打の角田をバントで送り、一死三塁に。そして勝俣が一塁にゴロを転がすも、相手の好守で角田が本塁憤死。先制機を逃せば流れも失うものだが、先発の右腕・根本が打たせて取る投球で5回を被安打2の無失点。5回の先頭に唯一となる四球を与えたが、直後に5―4-3の併殺を奪ってみせた。
二塁手兼務の右腕・根本は制球もリズムもよく、打たせて取っていく
「どこからでもチャンスをつくって1点を取れる、つなぎの野球がウチのカラー。一人ひとりがつなぐ意識をもって、1点にこだわった結果が全国出場だと思います」(青柳監督)
競った展開なら、戦術も駆使して1点を確実に奪う。先制するか、差が開けば、自慢の強打でビッグイニングをつくる。そして遊撃手の石川主将を中心とした堅守、勝俣と根本を軸とする5枚の投手陣で逃げ切る。
宇都宮ウエストの面々はおそらく、そういう同じ絵を描けている。だから、どこまでも勝負強いのだろう。
「毎年、1日でも長く子どもたちと野球をやりたいと思っています。指導者の私にとっても、全国は今回が初めて。最後に泣いて終わるのか、笑って終わるのか、それはわかりませんが『全国まで連れて来てくれて、ありがとう!』と6年生たちに伝えたいです」(青柳監督)
神宮デビューともなる全国1回戦は、四国代表の見能林スポーツ少年団(徳島)との対戦が決まっている。