「アスリート・センタード」。昨今のスポーツ界では「選手が主役」と盛んに言われるようになりました。でも、私は思います。お父さんもお母さんも指導者も、選手といっしょに幸せになってもいいのではないか。それが最高の理想ではないだろうか、と。つまりは「オール・センタード」。では、保護者と指導者のみなさんもハッピーとなれるように、メンタルコーチングの分野からナビゲートをさせていただきます。高価な道具も難しい技術も不要。大切なのは学びの心と実践です。
(監修=諸星邦生)
vol.1
こどもの意欲を後押しする
選手の保護者、お父さんお母さんに、お聞きします。普段、我が子をどれだけ、どのように見守っていますか? 親が子を見守る、とはどういうことでしょうか? 日常やシチュエーションからイメージをしてみてください。子育てやこどものスポーツの現場には、さまざまな「見守る」が存在することと思います。
これが正解! という唯一のものがあるわけではありません。正解をたくさんつくっていくことがとても大切です。そして見守りのカギとなるのは、『こどもの意欲を後押しできているかどうか』――。この成否だけでも、未来が変わってくるケースもあるでしょう。
こどもの習性から
保護者がこどもを見守る局面には「家庭生活」「学校生活」「野球(習い事)」が挙げられますね。ここでは「野球を見守る」について言及していきます。
こどもというのは、新しいことや愉しいことに好奇心をもって行動するという習性があります。そこで、その行動から「愉しさを感じていることは何か」を読み取ることができます。
たとえば家庭生活の中では、野球についてどのような話をしているのか。ボールを投げるのが好きなのか、打球を飛ばすのが好きなのか、テレビでプロの試合や選手を見るのが好きなのか。また、週末を中心とするチーム活動の際には、どのような練習メニューで意欲的に取り組んでいるのか。
漠然と眺めているのではなく、そういう関心(観察眼)をもって見ることが、我が子をより理解する手掛かりにもなります。発見とはいかないまでも、意外な側面を知ることもあるかもしれません。まずはそういう見守り方が、子育てをする際のメンタルコーチングの第一歩です。
著者(右)は現役の学童球児の父でもある
ちなみに私の子育ては『我が子の好きを伸ばす』をモットーにしています。ですから、こどもから「やりたい!」「やってみたい!」と提案してきたことには、可能な限り応えるようにしています。
「監視」「干渉」は逆効果
見守り方で気をつけたいのは「行き過ぎない」ことです。見守りは「監視」や「干渉」ではありません。また、こどもにもそれぞれ人格というものがあって、身体と同じく成育していきます。
その過程において、「保護者が期待する行動」をこどもがやっているかどうかを保護者が確認するというのは、典型的な「行き過ぎ」です。この見守り方では、こどもの好奇心や意欲を削いでしまう可能性があります。
「監視」をしがちな保護者は、こどもが自分の期待通りの行動をしていなければ、褒めることや前向きな言葉をかけることがないものです。つまり、こどもの行動を認めてあげていない、ということになります。愛情を注いでいるつもりでいたのに、そういう結果になっているというお父さん、お母さん、少なくないのかもしれません。でも、あらためるのは簡単です。今日この今からでもきることのはずです。
「承認」までで十分
保護者が適切に見守ることができているどうか。これは、こどもとのコミュニケーションで推し量ることもできます。
練習から帰宅してきた息子や娘のほうから「今日はこんなことがあったよ!」「今日のあのバッティング見てくれた?」など、承認を求める言葉が出てくるのが理想です。もちろん、無口や口下手なこどももいますし、時には誰とも何も話したくないということもあるでしょう。ですから一概には言えませんが、こどもからの発信があまりにもない場合は、日々の見守り方を再考してみてもいいのかもしれません。
こどもには「私のことを見てくれている」「私のことを知っていてほしい」という承認欲求というものがあります。これはイコール、こどもから保護者に対する期待でもあります。ですから、期待に応えてあげる。こどもの言葉をきちんと聞いてあげることが、好奇心や意欲をより促すことにつながっていくはずです。
ジャッジは無用。親の適度な承認が、子の自主性や好奇心をより促すことに
難しく考える必要はありません。「そんなことがあったんだね」「すごいね」「ちゃんと見たよ」「見られなくて残念だったんだよね。でもパパもうれしいよ」など、自然な会話の中で承認をしてあげてください。ただし、評価はできるだけしないことが望ましいと言われています。
コーチングスキルには「傾聴」「質問」「承認」があります。こどもの行動力を引き出すことを目的とする場合には、「こどもの自主性を承認する」ことが求められます。大人からやたらにジャッジをされるほど、こどもは自主性を失っていくとも考えられます。少なくとも、マイナスの評価というのは絶対に避けるべきです。
スキルとして心がけを
こどもを見守りながら、こどもの承認欲を満たしてあげるために「評価をしない」。これが保護者の重要なスキルになります。そうしたコミュミケーションの積み重ねが、親子の信頼関係を築いていきます。「見てくれている」や「認めてくれている」とこどもが感じることが、安心感につながり、メンタルの安定となります。
ぜひ、こどもの可能性を引き出してあげられるような見守り方を心がけてください。可能性を引き出すとは、こどもの「野球が好き」を伸ばしてあげられる見守り方です。良好な親子関係を築くことが子育てメンタルコーチングの基礎となります。
「パパママ聞いて、今日の試合で初めてヒット打ったよ!」
帰宅後の第一声がこれだったら、言ったほうも聞いたほうも、ハッピーに違いありませんね。
[野球まなびラボ 理事]
諸星邦生
もろほし・くにお●1978年生まれ、東京都出身。大田区の美原アテネスで野球を始め、6年時から硬式の大田リトル・シニアへ。東海大菅生高で3年夏に九番・左翼で甲子園2回戦まで進出、国際武道大で4年春にメンバー入り。卒業後は保健体育科の教諭となり、東海大菅生高コーチを経て千葉・我孫子二階堂高へ。硬式野球部の監督を20年務めて、2022年夏に(一社)野球まなびラボの理事に就任。ボールパーク柏の葉にて「体軸×野球教室」や「中3塾」を主宰するほか、出張指導やメンタル講座も。1男1女の父
https://yakyumanabi.net/