日々の親子のコミュニケーションを活発にして、お父さんもお母さんも、我が子といっしょに幸せになりましょう! そのための子育てコーチングの基礎スキルには「承認」「傾聴」「質問」があります。連載第3回は保護者の基本編の総仕上げ。「承認」の4原則と「質問」を掘り下げます。高価なアイテムも高度な野球知識も不要。大切なのは学びの心と実践です。
[監修/諸星邦生]
vol.3
こどもが自ら走り出せるように
いきなりですが、お父さんお母さんにお願いです。普段の自分であれば、どのような対応をするのか――想像したり、考えたりしながら、読み進んでみてください。
日曜日のチーム練習から帰宅した我が子の第一声が、このようなものだったとします。
「ただいま~! きょうの練習は、ちょーつまんなかった」
さて、保護者の皆さんはどのようなリアクションをされますか?
この手のぼやきが日常的に多い子なら、軽いうなずきや相づち程度で、そのまま受け流す親もいることでしょう。いつものがまた始まったな、程度に。
むしろ気掛かりなのは、我が子にしては珍しく、ネガティブな感想を漏らしたという場合だと思います。なぜ、つまらなかったのか。その理由は何なのか…詳しく知りたくなるのが、親というものかもしれません。
「何かあったの?」「ミスして監督に怒られた?」…こういう質問に始まり、最終的に「それはアンタが悪いよ!」とか、「それは監督もひどいね。今度、お母さんから話を聞いてみるから」など、一方的な結論づけで話を終わりにしたり、深く介入していくケースもあるかもしれません。
どれが正解で、どれが不正解ということはありません。いつもの自分ならどうするか――保護者の皆さんが、改めて自分の言動を振り返ることで気づきがあったり、適切なリアクションに興味がわいたりしたら、素晴らしいことです。
まずは共感・同意から
子育てコーチングの3つの基礎スキル「承認」「傾聴」「質問」のうち、「傾聴」には「うなずき・相づち・繰り返し・言い換え」という4原則があります。
「うなずき」とは、首を縦に振ることで、「相づち」は「うん」「へぇ~」「そうなんだ」など声に出る間投詞のことです。
「繰り返し」は、「オウム返し」のことで、相手の言ったことをそのまま返すという会話の手法のひとつ。これによって、相手が話の続きをしやすくなります。
冒頭の例題、帰宅後の我が子の第一声に対する「繰り返し」の一例は、次のようなものになります。
「そうかぁ、そんなにつまらなかったんだ、きょうは」(※繰り返し)
「言い換え」も目的は「繰り返し」と同じですが、相手の発言をそのままなぞるのではなく、別の言葉で言い直して返すという、やや高度で奥が深いテクニックです。コミュニケーション力を高める「言い換え」のハウツー本やビジネス書が、世に複数出ていますが、それほど幅も用途も広い手法と言えるでしょう。
例題の第一声に対する「言い換え」の一例は、次のようなものになります。
「へぇ~、きょうはそんなに面白くなかったんだね」(※言い換え)
各家庭のお父さんお母さんは、我が子の日常や前後の状況・流れもわかっているはずですので、もっと踏み込んだ「言い換え」もできると思います。例えば、「先週は、楽しかったのにね」とか、「たまに、そういう練習もあるみたいだね」など。あくまでも、相手の本意に沿った言い直しが求められますが、多少のズレはかえって、相手の発言意欲を高めるケースもあるかもしれません。
以上4つの「傾聴」の原則には重要な共通点がありますが、わかりますでしょうか? すべてにおいて「共感」をしているということです。逆に、否定や批判はおろか、ジャッジすらしていませんね。
このように、こどもからのアウトプットに対して、まずは共感や同意を示してあげるのがポイントです。お父さんお母さんの側にこういう習慣が根付くと、こどもは話しやすくなるはずです。すると、聞いてあげるお父さんお母さんのほうにも、親として余裕が生まれることにもつながっていきます。
本心を引き出すテク
それでは、子育てコーチングの3つの基礎スキルのうち、最後の「質問」に入りましょう。
こどもに質問をする上でカギになるのは「聞き出す」のではなく、「引き出す」という意識です。聞き出そうとすると、保護者が期待している答えを誘導するような質問になってしまう可能性があります。こどもの本心を引き出すには、どのような答えが返ってきても、それをしっかりと受け止める大人側の裁量が必要不可欠となります。
では、冒頭の例、我が子の第一声から本心を引き出すための一例として、私のリアクション法を紹介したいと思います。
息子「きょうの練習は、ちょーつまんなかった」
父「そっか~、そんなに面白くなかったんだね」
まずは共感をする。それから、一日全体を見渡せるような質問をします。
父「で、きょうはどんなことしたの?」
あえて間口を広げて聞くのは、つまらなかったことにだけクローズアップさせないため。会話の冒頭から「つまらない」に焦点を絞ると、一日のすべてが「つまらなかった日」で終わってしまう可能性があるからです。
野球の練習を含む、一日全体の中から、面白かったことや楽しかったこと、好きなことを引き出す質問をする。それから、「つまらなかったこと」を聞いてみる。話す息子にも聞く私にも余裕があれば、こういう段階を踏んでから核心に触れると思います。というのも、会話をしていく中で「つまらなかったこと」の印象が変わっていくこともあるからです。
父「きょうの、そのつまらなかったことって何かな?」
端的に聞いて、スッと答えられるようにしてあげるケースもあります。この場合の質問は「簡潔」がポイントで、あまり考え込ませてしまうような質問は「つまらない」が深みにはまってしまう可能性があります。思うままに即答できるような聞き方が親には求められます。
本人に考える余裕を
各ご家庭でも、ケースバイケースになるのだと思います。第一声を発したときの我が子のテンションや表情などによっても、深刻度は異なったりします。
ともあれ、つまらないことを無理矢理、「面白い」「楽しい」に変換するような論破や誘導は避けるべきです。親としては、つまらないことや面白くないことでも頑張って取り組んでほしい、と願うものです。だからといって、こどもの「つまらない」を「好き」へと転化するのは、とても困難です。理屈や表面上はそれが叶ったとしても、実際のこどもの心の内は何ら変わっていないかもしれません。
「次は頑張ってみる!」「次もやってみよう!」など、こどもに継続を促せるような質問や会話が理想。「次も同じ練習のときは、どんなふうにやってみようか?」と、考えさせてあげるだけでも十分です。
質問に対して、必ず答えを出させることがゴールではありません。質問して考える余地を与える。そして、次の同じ場面やシチュエーションを待ってみる。親のほうにそれくらいの余裕があると、こどもが自分で伸びていこうとする力を後押しすることができるはずです。
以上のように、適切な質問も子育てのコーチングには必須のスキルです。保護者がスキルを身につけると、こどもが自ら走り出そうとする瞬間に出会えることでしょう。逆に強制的な子育ての中では、そういう瞬間もついに訪れないまま、こどもは主体性や自主性を欠いた大人に育ってくのかもしれません。
メンタルコーチングの保護者の基本編のレクチャーは、これで終わりです。「見守る」「聞く」「質問する」の各スキルを身につけて、こどもの成長を後押ししながら、ご自身もハッピーになれるお父さんお母さんが一人でも増えることを願っています。