学童野球の指導の難しさは、技術に加えてルールやゲーム性も教えていくところにあると思います。体も心も未熟で、習熟度や理解力も個人差が激しい低学年生なら、なおさらです。何からどう手をつければいいのか、悩まれる指導者も多いことでしょう。では、対象を初心者・低学年生チームに絞って、活動の柱となる練習と試合について提言していきたいと思います。
[監修/諸星邦生]
vol.10
結果よりチャレンジにフォーカスする
指導者の「分かっているだろう」「これくらいできるだろう」という思い込みに反して、試合でプレーしている選手たちは知らないことや不安だらけ。低学年チームでは、そういう状況も珍しくないことでしょう。頭数が減っている昨今は、ルールもまともに知らないうちから対外試合や大会に駆り出されるケースもあると聞きます。
ボールを捕る・投げるという基本がある程度備わり、選手同士でキャッチボールが続くようになるまでは、対外試合は避けるべきでしょう。最近はイニング5得点で自動的に攻守交替などのローカルルールも広まっているようですね。一方で、1回表が終わらないまま、野球とは思えないスコアでタイムアップというケースが地区大会の序盤戦で見られます。こういう気の毒な試合は、敗者にはマイナスでしかなく、勝者にもプラスや好影響はあまりないことでしょう。
最低限のボールを捕る・投げるができるようになってきたら、同程度のチームと試合をしていくのは悪くないと思います。野球の醍醐味や真の楽しさは、実戦でプレーをすればこそ分かることが多いのも事実。計画的に実戦を積んでいくほうが、ルールやゲーム性を理解しやすいという側面もあるでしょう。
ただし、試合になると、選手はまだ分からないことばかりのはずです。未体験のことも次々に起こると思います。そういう中で、みなさんのチームではどういう指導をされているでしょうか?
たとえば、ライトを守る選手が、自分はどこに位置すればいいのかよくわからない、と困っている――。
試合中に選手が分からないことがあれば、私はその場で具体的に指示します。立ち位置がよくわからないというライトの選手には「そこを守っていればいいよ!」と明確に場所を伝えます。その立ち位置の理由も含めて、試合中にそれ以上を教えることは控えます。
ヘタに考えさせるより、安心してプレーしてほしいからです。そして試合後に、本人に分かるように説明します。状況が許せば、そのままライトのポジションまで行って確認をしながら練習します。
経験が浅いほど、人は不安になります。未知のゾーンが広いほど、足がすくむものです。ですから低学年の試合では、安心してプレーできる環境をつくってあげることが最優先だと私は考えています。
大前提として、指導者には子ども目線での理解と想定が必須。当たり前ですが、敗者になりたくて試合に臨む選手はいません。打ちたいと思っても、バットが振れないことがあります。アウトにしようと思ってプレーしても、エラーをしてしまうのが子どもです。
試合では、最初から気持ちが一杯いっぱいという選手が大半でしょう。そこで無理に何かを教えようとすると、パニックを招くことがあります。思考が停まり、その後のプレーにも悪影響ばかりに。指導者がノータッチでも、分からないことが続くなどして涙を流し、フリーズしてしまうケースもあります。
試合中は、そういう涙の原因をいちいち追求しなくてもいいと思います。選手1人だけにかかりきりになると、進行に支障もあるでしょう。まずは安心させてあげることが肝要。そのために、次に何をするのかを具体的に伝えてあげます。
「バットを3回振っておいで」
「一球一球、自分で守っている位置を確認してみて」
試合中はそうした指示だけで十分ではないでしょうか。
「できるだろう」「分かっているだろう」「知っているだろう」…指導者が端からこういう頭でいると、試合中は腹が立つばかりだと思います。
試合をしてみると、教えきれていなかったことが見えてきます。まったく教えていなかった部分にも、たくさん気付くはずです。指導者は常にそういう視点に立って、確認と振り返りをするべき。そこでの「気付き」が、次の練習を有効なものとしてくれるはずです。あるいは、練習内容や指導方法の見直しの必要性を自ずと感じることもあるかもしれません。
技術練習と、実戦的な練習に区分
練習は技術練習と実戦的な練習に分けることをオススメします。この区分けによって、選手たちの思考を整理・コントロールすることも容易になります。
技術練習は、ボールを捕る・投げる・打つなどの各項目を、いくつかのパートに分けて反復する。一般的に「ドリル練習」と言われるもので、基礎技術の習得にも非常に有効です。
部分的に取り組むことで、体得したい内容が明確になり、難易度が下がって数もこなせるので集中も続きやすくなります。ただし、「ドリル練習」はやりっ放しで終わらないことが大切です。各ドリルの成果や習熟度は、一連の動作を通してやってみて初めてわかるからです。時には本人も驚くほど、送球や打球が激変することもあるでしょう。
個々のスキルアップと、チームとしての戦い方の浸透と精度アップ。それぞれ区分して練習をすると、子どもも混乱しにくい
実戦的な練習は、野球のルールやゲーム性など知識の習得と、戦い方の共通理解が主な目的となります。
先述した例のように、試合をしてみたら、自分の守備位置が分からないというライトの選手がいたように、選手たちの試合中の「分からない」をまずは解消してあげる。指導陣の試合中の「気付き」もまた、練習項目に反映されるべきものです。
ルールやゲーム性の理解には、守備から入ると走塁を同時に学べる面もあります。各ポジションに選手を配して、各状況(アウトカウントと走者)での考え方やプレーの優先順位、そのためのフォーメーションなどを全員で確認しながら、ボール(打球)を入れて練習していく。
この練習を適切に重ねるほど、試合中に涙でフリーズするような選手は減るはずです。全員で確認・練習してきたことが、実戦(試合)で1つでもできると、選手たちはより意欲的になることでしょう。
理解度を高めるポイントは、状況設定です。無死満塁や一死二、三塁など、いきなり複雑な場面を設定しても選手はついてこられないはずです。まずはアウトカウントに関係なく、打者走者を一塁でアウトにするか、次の塁までは進ませないことからスタート。これだけでも9つのポジションでそれぞれに役割があり、打球方向で役割が変わることもありますね。
実戦でよくある状況から優先的に取り組み、対応するパターンを増やしていくのが賢明でしょう。
対外試合で確認する
実戦的な練習の成果や新たな必要性は、試合をすることで確認できます。
対外試合では当然、練習通りにいかないことも多々。そういうときには、練習したことを思い出させてあげるような声掛けをしてあげてほしいと思います。
「この前はどんな練習をしたっけ?」「ああいう場面の練習では、どこを守っていたか覚えてる?」など、シンプルな問いで答えを引き出してあげてください。もし忘れているようなら、もう一度教えてあげてください。途中で「あっ、そうだった!」と思い出すこともあるはずです。
とにかく、プレーしているのは10歳未満の小学生(低学年)です。何度か練習したくらいでは覚えられなかったり、すっぽりと頭から抜けてしまっても不思議はないのです。指導者がこれらを念頭に置いておけば、少なくともこのような声掛けにはならないはずです。
「おいっ、この前練習しただろ!」「なんで覚えてないんだよ!」「やる気がないなら、もう教えてやらねーぞ!」…。
指導者や仲間とのコミュニケーションの繰り返しで、選手は成長していくものです。覚えたことが実戦でできたときの達成感や充実感が成功体験となり、成長を後押ししてくれます。技能の問題で結果はミスとなったものの、練習通りに動けていたというケースもよくあります。指導者が、そういう取り組みの部分も見逃さずに認めてあげるだけでも、選手のやる気は違ってくることでしょう。
やることを明確にする効果
練習でも試合でも、小さな目標やテーマを設定するのが効果的です。
「打撃の目標」「守備の目標」「走塁の目標」「ベンチでの目標」など、勝敗以外の項目で具体的なテーマを掲げる。「最初のストライクを思い切り振る」「どんな打球にも向かっていく」「ピッチャー(ボール)を見ながらリードする」「それができていたら、ベンチもみんなで褒める」など。
やることが明確になるほど、選手の集中は高まります。その結果、勝敗にも良い影響が出ることもよくあります。要するに、「今、何をするのか」にフォーカスすることが非常に有効です。成功か失敗か、上手くできたかできなかったか、という結果は二の次。チャレンジできたかどうか、まず問うべきはそこなのです。
そのために、選手たちがハッキリと理解できる目標やテーマを設定する。すると、選手たちはやる気や前向きな気持ちが引き出される。バットを振ることや次の塁へ進むことに、チャレンジする勇気も湧いてくることでしょう。
繰り返しますが、「ミスをしない」など結果を目標にするのではありません。「声を出す」「練習通りにやる」など、抽象的なテーマもNGです。「ボールがグラブに入るまで見る」「ストライクと思ったら全部打ちにいく」など、シンプルで達成可能な目標を設定してあげてください。
大目標のあり方は2通り
では、そうした「小さな目標」の対極に位置するとも考えられる「大目標」と、そのあり方についての私見を最後に。野球チームの場合、方法は2通りあると私は考えています。
大きな目標を先に掲げ、それに伴う小さな目標をいくつか設定し、大目標に近づいていくという方法がひとつ。もうひとつの方法は、大きな目標はあえて決めずに、小さな目標を積み重ねていく中で大きな目標が芽生えてくるというケース。
前者はある程度、チームの指導が確立しているならば有効です。学童野球でも高学年のチームは、これに当てはまる場合も多いでしょうか。
後者は、低学年チームや、初心者・入門者が多いチームにオススメです。指導者も選手とともに試行錯誤をしつつ、成長を実感していきながら最終的なゴール(大目標)を模索していく。こちらの場合は、「今日の目標」の積み重ねになり、1日1個の目標設定で十分かと思います。
目標設定はとても大切なものです。ただし、同じ小学生でも夢や目標があるから野球をしている子もいれば、みんなと過ごす時間が好きで野球をしている子など、ニーズも目的もさまざまです。
特に低学年生は、その日1日が楽しいと思えることで十分ではないでしょうか。その積み重ねが、未来につながっていくことになるのだと私は思います。
[野球まなびラボ 理事]
もろほし・くにお●1978年生まれ、東京都出身。大田区の美原アテネスで野球を始め、6年時から硬式の大田リトル・シニアへ。東海大菅生高で3年夏に九番・左翼で甲子園2回戦まで進出、国際武道大で4年春にメンバー入り。卒業後は保健体育科の教諭となり、東海大菅生高コーチを経て千葉・我孫子二階堂高へ。硬式野球部の監督を20年務めて、2022年夏に(一社)野球まなびラボの理事に就任。ボールパーク柏の葉にて「体軸×野球教室」や「中3塾」を主宰するほか、出張指導やメンタル講座も。1男1女の父
https://yakyumanabi.net/