2023年7月にスタートした連載『メンタルコーチング』は、この第15回で最終回を迎えることになりました。時代が様変わりする中で、日本の野球界も大きな岐路に立っています。その中で走り出した『学童野球メディア』と、高校野球の監督から転身した私とのコラボによって、従来にないテーマと内容で野球界の大人のみなさんへ発信をしてきました。最後に総まとめをしながら、私自身の願いも綴って締めたいと思います。
(監修/諸星邦生)
The Finalevol.15
問われるのは大人たちの知識とスキル
1年と2カ月に及んだ当連載で対象としてきたのは、保護者と指導者のみなさんでした。私自身が高校野球の監督として、長らく数々の失敗をしてきました。ですので、そういう大人を増やしたくない、関わる子どもたちも幸せにしてあげたい、との思いが根底にありました。
「コーチング」と「メンタルトレーニング」という専門分野から、学童野球の現場にお役立ちできるであろうというものを抽出。そして私の経験と知識と考えも踏まえつつ、できるだけ分かりやすく、順を追いながら丁寧にお伝えしてきたつもりです。全15回の連載というのも当初の計画通りで、先を急ぐことなく予定通りに進行してきました。
学童野球は「子育て」である、というのが私の持論です。野球を通して子どもが育つ環境を整えることがイコール、野球を好きにさせてあげる方法なのだと考えています。
「子どもが育つ環境」とは、ズバリと言えば「コミュニケーションが取れる環境」のことです。言葉を通じて、意見や気持ちなどを伝え合うのがコミュニケーション。学童野球で特にポイントとなるのは、大人と子どもの関わり方です。
より広く、より良いコミュニケーションを日常的に取るには、大人の側に相応の知識とスキルが求められます。もちろん、知識を得たから偉いのではなく、学びに終わりはありません。そして実は、大人が学び得た知識やスキルは、子どもたちをコントロールするものではなく、大人自身が自分をコントロールするものなのです。
どんなに崇高で博識な権者でも、人を意のままにコントロールするのは不可能です。しかし、セルフコントロール(自分自身の制御)は、万人に可能。そのためのアイテムがコーチングであり、メンタルトレーニングである。当連載を読んできてくださった方々には、きっとそれも理解されていることでしょう。
大人自身が冷静に、穏やかに、的確に状況を把握して、その場にあったコミュニケーションを展開する。これができると、身近にいる子どもたちは安心します。そしてその「安心感」こそ、子どもの成長に不可欠な要素である。そのためのスキルも、連載でお伝えしてきましたね。
基礎となる保護者編の「見守る」「聞く」「質問する」からスタートして、指導者編の「知る」「引き出す」「話す」へと、連載は続きました。それらのすべては、大人の立ち居振る舞いである、と言い換えることもできるでしょう。また、連載のどの回においても、子どもに何かを求めるという内容は一切ありませんでした。大人自身が、どのように対応していけるか、という知識を具体的に説明してきました。
さらに、「共感」「傾聴」というスキルにも触れましたね。やはり、スキルについても持ち合わせているのとそうでないのとでは、現場での対応の仕方が大きく違ってくるようです。かつて、高校野球部の監督をしていた私自身もそうでした。
スキルを得てからは、何があっても落ち着いて、俯瞰して対応できるようになりました。しかし、それ以前はすぐに感情的になってしまい、指導が行き詰まることも多々あったと記憶しています。
連載ではまた、お父さんコーチたちへも指南しました。その役割や、子どもの野球好きを助長・加速する手段にも言及。例えば、子どもが主体的に取り組むために、子どもたちと話し合いながら練習や試合を進めていく。子どもは各々、野球のどんなところが好きなのかを知る。上手くいかないときにこそ寄り添う…。
以上のように振り返ってみても、大人側の力量がいかに重要であるかが分かります。大人たちが子どもに与える影響というのは、それほど大きい。絶大である、ということですね。
家庭での子育ても、同じではないでしょうか。我が子の一番近くにいる大人は親ですね。その親の影響は、良くも悪くも最大の力となる。子どもは毎日、親と一番近くで接して、親を一番近くで感じて、親を一番近くで見ています。
ですから、親としてまた指導者として、ぜひ、メンタルコーチングを理解・実践してほしいと願っています。身を助けてくれることも、大いにあるはずです。
高校野球の元監督であり、メンタルコーチであり、スポーツマンシップコーチでもある私の見地から、連載の終盤には野球界の課題にも触れました。新たな提言もさせていただきました。繰り返しになりますが、最もお伝えしたいのは下の6行です。
チームあっての野球。
選手あっての指導者。
指導者あっての選手。
保護者あっての選手。
保護者あっての活動。
野球あっての今。
互いが尊重する存在であること。スポーツの良さを引き出すために、互いが高め会う仲間であること。大人たちのそういう姿勢もまた、子どもたちに大きく影響するものです。
子どもは野球を通して、大人からさまざまなことを吸収していきます。大人に問われるのは、何を教えたかよりも、どう接したか、どのように関わったか。人は人から教わったことより、自分で感じたことのほうが学びが深まります。
野球という素晴らしいスポーツがこれからも広く愛され、関わるすべての人が幸せを感じられる場所・時間・存在でありますように! 切にそれを願いながら、結びとさせていただきます。
最後に、当連載の企画・編集をいただいた学童野球メディアの大久保編集長、そしてフィールドフォースの吉村社長に、心より感謝を申し上げます。読者の皆様にも、同じく感謝を申し上げます。
ありがとうございました!
それと、全国の野球小僧たちへ。
大好きな野球を愉しんでください!!
(完)
[野球まなびラボ 理事]
もろほし・くにお●1978年生まれ、東京都出身。大田区の美原アテネスで野球を始め、6年時から硬式の大田リトル・シニアへ。東海大菅生高で3年夏に九番・左翼で甲子園2回戦まで進出、国際武道大で4年春にメンバー入り。卒業後は保健体育科の教諭となり、東海大菅生高コーチを経て千葉・我孫子二階堂高へ。硬式野球部の監督を20年務めて、2022年夏に(一社)野球まなびラボの理事に就任。ボールパーク柏の葉にて「体軸×野球教室」や「中3塾」を主宰するほか、出張指導やメンタル講座も。1男1女の父
https://yakyumanabi.net/