高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント(以下、全日本学童)の開幕まで残り10日。特ダネの第4弾は、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会(以下、全国スポ少交流)を含む2大全国大会で優勝実績のある6チームと各指揮官のコメントから夢舞台を展望します。
(写真&文=大久保克哉)
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きた■北ナニワハヤテタイガース
[兵庫/1965年創立]
出場=6年ぶり3回目
優勝=1988年※初出場
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=1回/1988年
酷暑&強行軍ゆえに
負けたら終わりの真夏のサバイバル。毎年のことながら、51チームの組み合わせが入ったトーナメント表は壮観で、思わず時を忘れて見入ってしまう。
今大会の大きな特長のひとつは、過去に日本一に輝いている6チームが程よく散っている点だ。それぞれ順調に勝ち上がったと仮定して、最初の顔合わせは3回戦で1試合。翌日の準々決勝で1試合、残る2チームは準決勝で対峙することになる。
まだコロナ禍だった昨年は試合中もベンチの指導陣はマスクを着用、閉会式では全員が着用していた
もちろん、そんな容易に事が運ばないことは、40年超の大会史が証明している。とはいえ、夢舞台で最後まで勝ち切った経験が、大きなアドバンテージとなっているのは間違いないだろう。
複数会場で6日間のうちに50試合を消化する全日本学童はとりわけ、初出場組に戸惑いやストレスが生じやすい。1回戦からなら6連戦、2回戦からでも5連戦という強行軍。首都圏以外のチームは宿泊を伴う遠征となり、酷暑に加えての慣れない移動に衣食住で疲労がたまりやすい側面もある。
老舗の金字塔
過去の日本一6チームの中でも随一の老舗、1965年創立の北ナニワハヤテタイガース(兵庫)の「金字塔」をご存知だろうか。
昭和最後の1988年夏に初出場初優勝。さらに全国スポ少交流も優勝と、二冠に輝いているのだ。現在は2大会の同一年同時エントリーはできないシステムだが、10数年前までは禁じるルールもなかった。許された(黙認されていた)その約30年の間に両大会制覇を果たしたのは、北ナニワと前年87年の亀川野球スポーツ少年団(大分)のみ。しかも、全日本学童は47都道府県の王者が参加する現行のシステムとなったのが88年(前年までの出場枠は主に16~27)だから、北ナニワの偉業は「金字塔」と言っていいだろう。
創設者にして現在も現場で指揮を執る石橋孝志監督は、1950年生まれの73歳。2017年には29年ぶりの全日本学童で準優勝までチームを導いている。以来、6年ぶりの出場を決めた今年は「別にコレという特長のあるチームではないな。逆にバランスがとれていて何でもできる」と語る。激戦区の兵庫大会は全6試合の半分が完封勝ち。準決勝からは接戦をものにしてきた。
「6年生が10人おって、エースでキャプテンの森岡雄飛が右の本格派で大きな柱。全国に出る以上は優勝したいと思うてますし、選手も優勝したいと言ってます。でも、今は昔と違って情報もいろいろあるし、今年は新家さんが行くのと違いますかね」
しんげ■新家スターズ
[大阪/1979年創立]
出場=2年連続3回目
最高成績=3位/2022年
初出場=2017年/2回戦
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=2回/2015、19年
2016年の全国スポ少交流で初出場初優勝。開催地・徳島の空に千代松監督が舞った
石橋監督の口から出た「新家」とは、昨夏4強入りした大阪代表の新家スターズ。順当なら、両チームはトーナメント右ブロックの準決勝でぶつかることになるが、6チームの中でも前評判が圧倒的に高いのが、新家だ。
練習試合を含めて負けなし(7月23日時点)。北ナニワ以外にも、今大会に出る複数のチームを練習試合でことごとく下しており、対戦相手からは「今年の新家はいつも以上に打つ」「断トツに強い」との声が編集部にも寄せられている。
1年間、不敗で日本一に?
新家は直近10年内で、全国スポ少交流2度優勝。昨夏は全日本学童4強まで進出した。台風接近に伴う豪雨で、たびたび中断した準決勝で逆転負けも、当時からの登録メンバーが6人。中でも貴志奏斗主将ら6年生4人がチームを引っ張っているという。
「平均体重は去年より10㎏は重いんとちゃうかな。その分、打球も飛びますね」と、千代松剛史監督(下写真)。この1年はサイズアップもひとつのテーマとして、各家庭に協力を仰いできたという。そしてより重厚となった選手たちは、5月の大阪予選で初優勝。決勝では、全日本学童で最多7回優勝の長曽根ストロングスを2対0で下し、自信もより強固に。
「今年の初優勝(府大会)は、全国出場10回分くらいの価値があると思うてます。長曽根さんがいる大阪を獲るのは、それくらい難しいんです」(同監督)
投手陣は5枚、府大会は全6試合で失点はわずかに3。決勝を含む4試合が完封勝ちと、守りも安定している。「選手にも去年の負けた悔しさが残っとるし、やっぱり優勝しないとね」
トーナメントの右半分のブロックの大本命と言ってもいいだろう。
「憧れ、やめます」
昨夏の準決勝では新家をうっちゃり、決勝では長曽根に3対0の完勝で初優勝を遂げたのが、中条ブルーインパルス(石川)。こちらも正捕手の向慶士郎ら昨年のVメンバーが7人も残っており、公式戦は全勝で来ている。
ちゅうじょう■中条ブルーインパルス
[石川/前年度優勝/1984年創立】
出場=2年連続4回目
優勝=1回/2022年
初出場=2016年/2回戦
【全国スポ少交流】
出場=1回
準優勝=2007年
表彰式後は例年、保護者もフィールドに降りての胴上げや記念撮影で盛り上がるが、コロナ禍にあった昨夏はVメンバーだけで倉知監督を胴上げ
前年度優勝枠で出場するチームは例年、予選免除による本番までの長い過程に苦労しがち。だが、開幕まで2週間の時点で倉知幸生監督(下写真)の声は明るかった。
「おかげさまで、県外の強豪チームとも数多く試合をさせていただいて、県内の大会もスーパーシードで1試合だけ参加させていただいり。ケガ人もなく順調に来ています」
昨秋は県大会優勝まで7連勝。年が明けてからも、3大会(全国予選を除く)を制して公式戦連勝は17に。中でも「大きな経験でした」と倉知監督が語る一戦は7月22日、夏季郡市大会の決勝だった。相手の宇ノ気ブルーサンダーはヤクルト・奥川恭伸らを輩出している名門で、今夏の全国スポ少交流出場を決めていた。その強敵を29対3という圧倒的なスコアで退けたのだ。
「お互いに負けられない、という緊張感での試合を久しぶりに体験できたのが大きかったですね。ウチの打線もよく打ちましたけど、暑さで相手チームの選手がバテてしまったみたいです」
昨夏同様、7月最後の週末は和歌山県で開催の高野山旗大会での「最終調整」(同監督)から全国舞台へ乗り込む。
選手主体のノーサイン野球は今年も踏襲。斬新なそのスタイルの元祖・多賀少年野球クラブ(滋賀)とは、準決勝で対戦する可能性がある。多賀の辻正人監督を「野球の師」と仰ぐ倉知監督だが、端から負けるようなつもりはないという。
「子どもたちが立てたテーマも一戦必勝ですから、先のことはあまり言いたくないのですが、多賀さんとウチがそこまで勝ち上がって戦わせていただくことになれば、そのときだけは憧れるのをやめようと思います」
3月に世界王者に返り咲いた侍ジャパンでも、アメリカとの決勝当日にそういう名言があったような…。
横綱のプライド
多賀対中条の「師弟対決」――。たしかに興味深いが、中条よりも先に多賀の前に大きく立ちはだかることになるだろう“横綱”がいる。
福島代表の常磐軟式野球スポーツ少年団だ。当メディアでは「チームファイル05」(→こちら)で紹介したばかりだが、今年のチームは打力も飛び抜けているのが特長。伝統の「守備」と「走塁」はむろん、穴も抜け目もなく、数枚の投手はいずれもハイレベル。その上で、歴代のOBたちが投じる生の豪速球を、一様に苦もなく打ち返していく様は呆気にとられる。
じょうばん■常磐軟式野球スポーツ少年団
[福島/1984年創立]
出場=2年連続23回目※大会記録
優勝=1回/2010年
初出場=1988年/1回戦
【全国スポ少交流】
出場=12回
優勝=3回/1991年、93年、2007年
復帰2年目の天井監督の下、2016年の全国スポ少交流で3位に(上)。今夏は全日本学童で2010年以来の覇権奪回を期す
率いる天井正之監督(上写真)は「良い成績を残せるように頑張ります」と、大言壮語を好まないタイプだが、常勝チームを率いるプライドと責任感は人一倍。6年生10人が粒ぞろいの今夏は虎視眈々と頂点をうかがっているはず。
カリスマの新たなトライ
怒声罵声のないグラウンドで、選手が主体的な野球に夢中になる。このスタイルで2018年から大会連覇を遂げているのが多賀少年野球クラブだ。
辻監督(下写真)はかつて、真逆のことをしていた「ブラック時代」も自省を込めてカミングアウトしている。そういう度量に加え、現状維持をよしとしないイノベーターであり続ければこその“カリスマ指揮官”なのだろう。変化を恐れぬ勇気と柔軟な発想による、斬新な取り組みは今や全国各地に飛び火している。
たが■多賀少年野球クラブ
[滋賀/1988年創立]
出場=6大会連続16回目
優勝=2回/2018年、19年
初出場=2000年/3回戦
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=1回/2016年
2大大会を通じて初の優勝は2016年。地元・滋賀開催の全国スポ少交流を制して辻監督が万感の胴上げ
「週末の活動は昼からの半日。2年前から時短をしている分、ちょっと不安はありますね。1年前のチームは過去の2連覇したときよりも個々の能力が高かったのに、出し切る体力がなくて負け(2回戦・対長曽根ストロングス)。でも、その時短を変えずに新チームは体力もつくってきました」(辻監督)
大テーマは「すべてに全力」。プレーはもちろん、サク越え弾のダイヤモンド一周やボール拾いも、すべてをMAXでやり切る。その積み重ねの結果、真夏の長期連戦でも能力を発揮し続けることができるのではないか、という考えだ。
「実際、丸1日活動しているチームには体力は及んでいないのかもしれないですけど、新しいことに取り組んできたという自信が今年の子どもたちにはあります」
昨年と異なり、絶対的な柱になる怪物クラスの選手はいないという。「今年は体が大きい選手もいないけど、スタメンの9人全員が放り込めますよ(70mのサク越え能力あり)」(同監督)。4年生から全国のマウンドを経験している筒井遙大ら、経験豊富な6年生がチームを引っ張っていくのだろう。
「まず1勝を」
長崎代表の波佐見鴻ノ巣少年野球クラブは、4回目の今大会で初勝利をまず目指すという。全国スポ少交流は2回目の出場となった2011年に優勝。その前年からチームを率いている村川和法監督はこう語る。
「全国出場を決めて、梅雨入りあたりから月曜以外は平日練習もしてきました。最近(7月)になって子どもたちは『優勝するぞ!』と言っていますし、目標を高く掲げるのは良いことだと思います。私も『てっぺんを獲る!』とか言いたいですけど、全日本学童は過去3回で1つもまだ勝っていないので…」
久しぶりに6年生が9人そろった今年は、打力が売りのチーム。上位にはパンチ力があって、下位にはつなぐスキルがある。攻守ともに9人全員が状況に応じて動けるあたりは、日本一当時から変わらない伝統だ。
トーナメントの左半分のブロックは、上記の4チームのいずれかが残ることになりそう。あるいは、35年前の北ナニワのように新星が台頭してくるのか。次回の展望は、そのあたりに踏み込んでみたい。
はさみこうのす■波佐見鴻ノ巣少年野球クラブ
[長崎/1985年創立]
出場=6年ぶり4回目
初出場=2013年/1回戦
【全国スポ少交流】
出場=3回
優勝=1回/2011年