単独チームには難関の埼玉大会を制して、2021年夏に全国出場。コロナ禍の自粛期間に組織をNPO法人とし、今や交流の輪は競技や年齢の枠も超えている。先駆的な取り組みもリードする賢将は、同じく全国区のチームを法人化させた山梨の名将へとバトンを托しました。
(取材・構成=大久保克哉)
おかざき・しんじ●1974年、広島県生まれ。中通少年野球団で野球を始める。2014年に埼玉県吉川市に転居し、3人の息子(当時・小5、小2、園児)が入団した吉川ウイングスで2015年から指導者に。低学年のコーチや監督などを経て、高学年の監督に就任した2021年に埼玉予選を制し、17年ぶりに全日本学童大会に出場(1回戦で大阪・長曽根ストロングスに5対8で敗北)。一方、組織の長として2020年5月にはチームをNPO法人に。年間3つのローカル大会を主催しつつ、行政と手を組んでの野球教室や地元の少年サッカーチームなどとの交流、SDGsの取り組みなど、野球だけに限らない経験の場を子どもたちに提供している
[埼玉・吉川ウイングス]岡崎真二
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相馬一平
[山梨・SNS ベースボールクラブ]そうま・いっぺい●1967年、山梨県生まれ。大月市の学童チーム・花咲で野球を始める。市立東中の軟式野球部、都留高まで投手兼外野手で、高3夏は山梨大会ベスト8。腰を痛めて東海大でのプレーは断念も、3年時から社会人硬式・桂クラブに入って都市対抗予選などを戦った。引退後は高校時代の輿石重弘監督(現・明桜高/秋田)に師事して指導畑へ。地元の学童チーム・下和田で2年間のコーチを経て2013年、近隣の3チーム統合で誕生したSNSベースボールクラブで監督となり、2017年全日本学童初出場でベスト16、21年は2回戦進出。2021年4月にチームを一般社団法人として代表に。選手・保護者に向けたブログを2014年9月から毎日更新中
唯一、泥んこの入場行進
昨年夏の全日本学童マクドナルド・トーナメントの開会式(東京・神宮球場)。入場行進した51チームの中で唯一、ユニフォームがドロで汚れているチームがあったことをご存知でしょうか。
東京第1代表のレッドサンズです(写真下=全国大会では銅メダル)。彼らのあの泥んこの姿が私には誇らしくて、うれしくて、胸が熱くなりました。というのも、その日のレッドサンズは1試合を消化して、その足で夕方からの全国大会開会式へ。その「1試合」というのが、私たち吉川ウイングスが主催するローカル大会「NPO WINGS CUP(ウイングス・カップ)」の決勝だったのです。レッドサンズは、これをきっちりと勝たれました。
昨夏の全日本学童大会開会式。東京・レッドサンズの入場行進(2023年8月5日、明治神宮野球場)
真夏の一番暑い時期。翌日からは最多6連戦となる全国大会でしたので、ウイングス・カップの決勝戦を辞退されたとしても、仕方のないことでした。しかし、彼らは当然のように決勝の会場に現れて、また当然のように、抜かりのない戦いぶりで優勝。大エースの藤森クン(一生※学童野球メディア「2023MVP」➡こちら)も登板しました。
大会に出る・出ないは、指揮官の一存で決まるようなものではありません。それでも、監督の門田(憲治)さんの意向も大いに作用して、レッドサンズのみなさんが義理を果たしてくれたのだと思っています。ウイングス・カップにも、参加チームのみなさんに対しても。
門田さんとの出会いも実は、ウイングス・カップ(低学年の部)でした。われわれがNPO法人となった2020年に、新たに起ち上げた第1回大会。これにレッドサンズの4年生以下を引き連れて参加してくれたのが門田さん。初対面でしたので、多くを話した記憶はありませんが、当時3年生でセンターを守っていた藤森クンのことはよく覚えています。
落ち着いたベンチワークと粘り強さも吉川ウイングスの特長
低学年の部の主役は4年生です。1学年下の藤森クンは当時、それほど身長も高くなかったのに、走攻守にわたって際立っていました。門田さんが率いるレッドサンズはそれ以降も毎年、われわれのローカル大会(年間で2つあり)に参加してくださり、藤森クンの成長過程も見て取ることができました。6年生になると(昨年)、120㎞を超えるスピードボールをバンバン投げて、全国から注目されるすごい選手に。自分の教え子ではありませんけど、身近な存在として、とてもうれしく思っていました。
門田さんは非常にクレバーな監督。率いるチームが年々、強くなっているのもよくわかりました。向上心が旺盛で、会話をしていても学び続けようという意志や熱さが感じられる。そして大激戦区の東京の全国予選で2連覇されて、昨年はさらに全国3位という、素晴らしい成績を残されました。
新年度からは末っ子のいる4年生チームの監督ということで、少なくともあと3年は学童野球で指揮をされる。さらにパワーアップした「門田野球」を見られるでしょうから、今から楽しみにしています。どのチームにもそれぞれに事情があるものですが、門田さんは学童野球を東京から引っ張っていかれるべき名将だと私は思っています。
2021年夏に17年ぶり2度目の全日本学童出場(提供/吉川ウイングス)
ただ、その門田さんがまさか、東大のご出身とは…。この『監督リレートーク』の記事を見て初めて知った、というのは私だけではないと思います。それでも、点と点が結びついたというのか、あらためて納得したところのほうが大です。
本気の相談から法人格に
さて、私からは山梨のSNSベースボールクラブの相馬(一平)監督をご紹介したいと思います。
出会いは5年ほど前のローカル大会でした。われわれ吉川ウイングスでもローカル大会を主催していることなどをお話したところ、それからは毎年のようにご参加をいただいています。
年間2つのローカル大会を主催する吉川ウイングスは、3月の吉川市近隣大会(写真)の運営面も全面サポートしている
野球に対する情熱がすごくある人で、試合中は反対側のベンチにいても熱さが伝わってくることも。また、相馬さんがすごいのは、自身のブログを毎日更新されていることですね。もう10年くらい続いていると思います。おそらくはチームの親子に向けたメッセージを毎日、自分の言葉で発信している。それをたぶん、1日も欠かされていない。誰にでもできることではないですよね。
私たちが出会って間もなくして、世界はコロナ禍に。この期間はウチと相馬さんのSNSに限らず、自粛ばかりで思うように交流ができなかったと思います。2021年には新潟で開催された全日本学童大会に、SNSとウイングスがそろって出場を決めたのですが、まだいろいろな制約もあったりして、事前に壮行試合をすることも叶いませんでした。
それでもコロナ禍以降、われわれウイングスは春の合宿を山梨県の山中湖畔で行うようになり、2日目には大月市でSNSと練習試合をさせてもらうのが恒例になってきました。いつも快く受け入れてくださる相馬さんには感謝しています。
年に一度は地元のシニア層やサッカーチームも巻き込んでの大運動会(提供/吉川ウイングス)
相馬さんとのこれまでの関わりで何よりうれしかったのは、チームの法人化について、真剣に相談をしてきてくれたことです。われわれウイングスがNPO法人となってから(2020年4月)、いろいろ質問をされる機会が増えましたけど、「自分たちも法人化します!」と真っ向から切り出されたのは相馬さんが初めて。
もちろん、十分に信頼に足る人であることもわかっていましたので、親身にご対応をさせていただきました。電話だけではなく、法人化に際して私が収集した資料や作成した書類などをメールでお送りしたり。
そして気付いてみたら、SNSは同じ法人でもNPO法人ではなく、一般社団法人に(2021年4月)。私はNPO法人のことしかわかりませんので、一般社団法人と何がどう違うのか、よくわかっていません。でも、SNSの一般社団法人を知った瞬間は正直、相馬さんに一歩上を行かれたな、と(笑)。
法人格になると、社会的な信用が得られるので地元の行政と連携したり、企業などからの支援も得られやすくなります。責任や報告義務も伴うのでいい加減にはできませんが、学童チームの法人化が進むのは良いことだと思いますし、われわれも励みになります。
相馬さんのSNSとは、近いようで遠い。実際の距離もそうですし、地域でのあり方もまたそれぞれだと思います。それでも、ライバルとして仲間として切磋琢磨し、お互いに刺激をし合いながら相乗効果で強くなって、学童野球を盛り上げていけたら。私はそう願っていますし、私にとって相馬さんはそういう存在です。