【2024注目の逸材⓲⓳】
[茨城/6年生バッテリー]
茎崎ファイターズ
さとう・えいと
佐藤映斗
※プレー動画➡こちら
【ポジション】投手、左翼手
【主な打順】五番
【投打】左投左打
【身長体重】156㎝46㎏
【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)
※2024年6月2日現在
ふじき・たくと
藤城匠翔
※プレー動画➡こちら
【ポジション】捕手
【主な打順】三番
【投打】右投左打
【身長体重】148㎝47㎏
【好きなプロ野球選手】大谷翔平(ドジャース)
※2024年6月2日現在
「0か100か」の子が移籍
夢のステージは、下級生にも容赦がなかった。
2023年夏の全日本学童マクドナルド・トーナメントの2回戦。大会を制することになる大阪・新家スターズと対戦した茎崎ファイターズは、2対19で大敗した。先発のマウンドにいたのが当時5年生の佐藤映斗、そしてマスクを被っていたのが同じく当時5年生の藤城匠翔だった。
「もうちょっと自分にできたことがあるなと思います。相手の圧とかに、ちょっと圧されてしまって…」
2回で被安打9、与四球1の10失点(自責点8)。苦くて短い夏をそう振り返った佐藤は、最上級生となって世代屈指のサウスポーに成長してきている。しなやかで強くて躍動感のあるフォームに、緩急とコーナーワークの投球で冷静にアウトを重ねていく。
「最近はバンバン打たれたりしても、メンタルをやられなくなりました。すごいバッターも今は怖くない。逆に、うれしいかな」
1年前に全国予選突破にも貢献したバッテリー。6月24日の県優勝では六番・佐藤が2点タイムリー(中央)、三番・藤城は1回に左越え二塁打(下)で先制の口火となった
球速は未計測の佐藤だが、身長とともにスピードが増していることで、投球の幅も確実に広がっている。また、安定感の拠り所にもなっているのが、巧みなクイックモーションとけん制だ。特に一塁けん制は、いくつものバリエーションがあって、経験者の大人が走者だとしても判別が難しいはず。走者を塁にクギ付けとしつつ、打者ともしっかりと勝負ができる。
けん制をイロハから伝授したのは、小林拓真コーチだ。
「全部のパターンとか組み合わせをタクマ(小林)コーチに最初に見せてもらって、1個1個教えてもらいながら数が増えてきた感じです」
投球フォームの確認と改善にも余念がない。こちらは元高校球児の父と、動画を見ながら定期的に。そのきっかけと背景は、昨年の夏に続く秋にも経験した悪夢があるという。
「左肘の内側も外側も痛めて3カ月、投げられませんでした」
エースを欠いた新チームは、底力で新人戦を勝ち抜いてきたが、県決勝で大敗。ベースコーチを務めてきた佐藤は、大会が終わると茫然としたまま、記念の集合写真に収まっている。
昨秋の新人戦は県決勝で敗れ、関東大会に進めず。後列左から2人目が佐藤、前列の同4人目が藤城
「ああいうケガはもう絶対にしたくないので、今はお風呂でストレッチをしています」
腕がしなるほど、ボールはいくが肘への負担が大きくなる。ドクターや理学療法士から、投手の腕は”諸刃の剣”であることと、その対処法を学んだという。父・圭吾さんが語る。
「改善した今だから言えるんですけど、去年の夏まではケガもしちしゃうよね、という投げ方をしてました。特にトップの手のポジションを変えて、肘の負担を減らすようにしたことで、球のスピードも上がったように思います」
故障が癒えた2024年から実戦復帰。新年初タイトル、2月のフィールドフォースカップ優勝にチームを導いた
佐藤は2歳上の兄との2人兄弟。両親は愛あればこその放任主義で、躾を除けば息子たちに何かを強要することはないという。地元・龍ケ崎市の野球チームに兄が2年生で入り、佐藤もくっつくようにして1年生からそこに加わった。
長男は6年生までプレーして卒団。一方の次男は3年生の秋のある日、両親に「楽しくないので、野球をやめる!」と言って家を頑として出なくなった。母・加奈さんが当時の心中をこう明かす。
「次男のエイトは『ゼロか100か』という子なので、そのまま続けるのは難しいとわかっていました。でも、自分で始めたことを途中で投げ出すみたいな経験は、親としてはさせたくないなと…」
新天地を求めて両親の情報収集が始まった。そして父の視察を経て、“関東の雄”こと茎崎ファイターズの3・4年生チームに体験入部する。佐藤はいきなり、練習試合のマウンドに上げてもらって好投。バックの守備が当時の佐藤親子には信じられないほどのハイレベルで、試合後は口々にこう声を掛けてくれたという。
「一緒にやろうよ!」「オレもこのチームに移籍してきたから」
明らかに生気が蘇った目で、次男は両親に言ったという。
「オレやる! ここで野球やりたい!」
それから2年半。学童野球最後の夏を間もなく迎える佐藤は、自身の夢や目標を簡潔に話した。
「今は全国制覇だけ! その後のことはそのときにまた考えたい」
打線では昨年は六番、今年は五番で勝負強さを発揮。長打は右方向が多い
グラウンドで仲間に会うと、自ずとスイッチが入る。明るい性格でお喋り。学校でも笑いの中心にいるような次男が、野球になると別の顔を見せることに、母は驚きと感謝を口にする。
「環境でホントにこんなにも変わるんだなと、いつもビックリです。仲間もみんな野球が好きで、指導者もそういう背中を見せてくださるから、自分も頑張ろうと自然に思えるのかな。去年できなかった、全国1回戦突破はしてほしい。でも、エイトにも長男(中学硬式でプレー中)にも甲子園とかプロに、というのはあまりなくて、本人が行きたいのだったら応援するし、違うものに興味があるならそっちでもいいし、という感じなんです」(加奈さん)
名門で叩き上げの主将
マウンドのエース左腕に漲る自信や気迫は当然、正捕手にも伝わっていた。
「エイトは普段は変顔したり、面白いキャラなのに、試合になるとぜんぜん違って『ラスボス』みたいな雰囲気。去年のユウキ君(中根裕貴=昨年度エース※➡こちら)並のオーラを出してます」
こう語ったのは藤城匠翔。昨年度から不動の三番・捕手で、キャプテンとしてもチームを引っ張る看板選手だ。
ちなみに「ラスボス」とは、電子ゲームなどで物語の最後に待ち受ける最強の敵やボスキャラのこと。そのエースにも気を配りながら先導しつつ、背負う名門の背番号10は決して軽くないはず。だが、最上級生となって自然な笑みも見られるようになっている。
「(笑顔は)意識してないです。キャプテンは大変と言えば大変だけど、楽しいかもしれない」
移籍組のエースに対して、こちらの正捕手は生粋の茎崎っ子だ。1年生の夏(2018年)には、全国大会で準優勝した先輩たちの勇姿をスタジアムですべて目の当たりにした。土浦湖北高まで投手として活躍した父・敬弘さんは、当時から息子に言い続けてきたという。
「オマエはどこを目指したいんだ?」
偉大な先輩たちが全国で逃した黄金のメダル。それだけを渇望してきたこの5年間だった。4年秋から5・6年生主体のトップチームに加わり、5年秋から正三塁手に。そして昨夏はあの先輩たちと同じ舞台に立つには立てたが、先述のように初戦で大敗。そのバットからも快音は聞かれなかった。
1年前は大きく上げていた右足(中央)を、今はすり足の低重心でタイミングを取る(下)。短く持ったバットは変わらないが、フェンスオーバーも放つ
「全国制覇して、自分は全国No.1のキャッチャーになるのが目標です」
1年前は身長140㎝あるかないかの小柄ながら、どのプレーも板についた捕手だった。とりわけ目を引いたのが、二塁送球の適切かつスムーズな動作(プレー動画内の終盤参照)。鉄砲肩ではないものの、投手との共同作業で二盗阻止もしばしば。上級生の走者でも、無条件に走らせるようなことは決してなかった。
「一番自信があるのはキャッチャーのスローイング。盗塁を刺すと気持ちいい」
2学年単位で活動、育成システムもそれぞれ確立されているチームの中で、藤城は低学年時から捕手を務めてきた。4年秋から約1年は三塁を守り、上級生のケガが発端で代役として捕手を務めてから、扇の要を守り続けている。
強肩に丸投げではない。確実でスムーズな基本動作に指導と努力の跡がうかがえる
エースにけん制を伝授したのが小林コーチなら、藤城のスローイングを指導したのは佐々木亘コーチ。捕球からのスムーズな握り替えや、強く正確に投げるためのステップなど、細部までコツコツと学んで自分のものとしていった。平日練習では個人特訓もよくあるという。
藤城は姉と弟にはさまれた長男。幼児のころから父とボール遊びに興じて、1年生から茎崎ファイターズへ。父が草野球を通じて茎崎の吉田祐司監督と知り合っていた縁もあり、藤城は茎崎の一員となることに何の戸惑いもなかったという。
「お父さんとの野球も、チームに入ってからの野球も、ずっと楽しかった。高学年になると厳しいことも増えたけど、楽しいままです」
「将来はメジャーリーガーになりたたいです」と藤城。「夢は大きく持てと言ってきましたので、全力で応援するだけです」と父・敬弘さん
平日は身体づくりとケアのほか、素振りなど自主練習に励む。父が休みの日は2学年下の弟と3人でボールを投げたり、実打をしたり。打球の飛距離はこの1年で飛躍的に伸びており、勝負どころで70mのサク越えアーチも生まれている。
「ホームランを打った瞬間は、テンション爆上げみたいな感じでうれしい」
父は打撃練習のサポートはするが、技術面に介入しないという。そこには指導陣からの骨太の教えがあるからだ。
「打撃が良くなったのは、ホントに指導者のみなさんのおかげ。息子には『今、受けている指導を自分でかみ砕いて、ちゃんとやりなさい』という感じのことは言います。あとは打撃に限らず、結果が出ないとかミスをしたからといって叱るようなことはないですね」(敬弘さん)
そんな父が唯一、求めているのが抜かりのない準備。打席へ入るにも、守りに就くにも、事前にやれることや、やるべきことがある。息子がそれらを怠ったと見れば、結果に関係なく、帰りの車中で厳しく指摘するという。試合ではイニングを終えるごとに、バッテリーでよく話をしているのも、そうした事前準備のひとつなのだろう。
「エイトから『もう少し低く構えてほしい』とか、言われることもあるし、できるだけピッチャーが投げやすいようにしてあげることをいつも考えています」(藤城)
身長はまだ150㎝に満たないが、本塁打は通算15本程度。2月のフィールドフォースカップでは決勝戦の最終回に同点2ラン(下)など、ここ一番での長打が魅力だ
好きなプロ野球選手は、佐藤も藤城も大谷翔平(ドジャース)。また2人とも2番目の子で、同じマイペース派だが趣は異なる。佐藤ほど弁が立たない藤城には、どこかゆったりとしたムードが漂い、試合ではそれが落ち着きや適切な判断につながり、仲間からも信頼を集める。佐藤はこのように語る。
「タクトは場数を踏んでいるので、野球を知っている範囲が大きくて頼れる。やるときはやってくれるし、キャプテンとして声掛けも挨拶も基本からしっかりしている。あとは試合中に、もう少し引っ張ってもらえるといいかなと思います」
いよいよ始まる最終予選
さて、そんな秀逸のバッテリーが、今週末の6月8日から全国最終予選に臨む。県内32の支部代表による一発トーナメントだ。1回戦の相手は1998年に全国3位など、本大会出場5回の実績がある波崎ジュニアーズ。
蒸し暑さに独特の重苦しもある、初夏の戦い。これを最後まで勝ち抜いた1年前の経験は、大きなアドバンテージになるだろう。
「1試合の最後までちゃんと投げ切りたい。自分の気を上げながら相手の圧も受け止めて、自分の実力以上の成果を出したいです」
エースの佐藤が自分の言葉で抱負を口にすれば、正捕手の主将は短い言葉に思いの丈を詰め込む。
「活躍したい! 悔い残らないよう」
巡り巡って出会った2人。足して2で割ると、無敵のバッテリーと絶妙のハーモニーが生じるのだろう。
(動画&取材&文=大久保克哉)