義理と人情だけでは、いずれ息切れしてしまう。ビジネスライクに走り過ぎては、人も心も動かない。フィフティフィフティで、商売はうまくいくのかもしれません。
安売り競争は結局、大手企業一社が勝ち残って甘い汁を独占することに。あとは負け組はむろん、勝者の下請けや関連業者もアンハッピーになるだけ。われわれフィールドフォース社(FF社)が、そういう世界から踏み出ることができたのは、新たな市場を自分たちで開拓したからでした。
「平日練習の市場」を切り拓いたことで、数多くの大会に協賛や出展もできている
自社ブランド品を強化し、自主練習用の道具やギアの開発と適正価格での販売を本格スタート。これが徐々に、広く支持されて「平日練習の市場」ができてきました。
そこではFF社がパイオニアで、今のところライバルも存在しません。ですから、価格を引き下げていく必要もないし、するつもりもありません。今後、新規参入があったとしても、われわれはその二歩、三歩、先の商品を適正価格で売るのみ。市場の拡大はむしろ、歓迎するべきことだと考えています。
このあたりまでは、前編(連載第7回→こちら)で書かせてもらいました。では、販売価格をいかにして守るのか。後編はそこに言及したいと思います。
『プレーヤーの真の力になる!』――。
当コラムでも何回か触れていますが、FF社の企業理念がそれです。新しい市場の開拓も、そこが出発点です。
したがって、ライバル不在だからと商品の価格を無条件に吊り上げるような蛮行はありえない。商売ですから、一定率の利益はいただきます。その上で、できるだけ全国各地のプレーヤーのみなさんに寄り添える、価格の設定(=適正価格)と維持に努めています。
そしてその「適正価格の維持」は、FF社と社員だけではなく、小売店や海外の生産工場、通関・配送の業者など、関わるみなさんを守ることにつながっています。そのみなさんを私は「FF社ファミリー」と呼んでいますが、安売りをしないことによって、一定の利益をそれぞれのファミリーにも確保してもらうことができるのです。
独自商品の適正価格を維持することが、小売店の利益を守ることにもつながる
逆に言うと、ファミリーの利益を削り取ってまで自社を繁栄させたり、大きくのし上ろうという野望はありません。一時的にはそれで富を築くことも可能かもしれませんが、長くは続かないでしょう。結果として、ファミリーが全体として少しずつ肥えていくのが理想でしょうか。もちろん、きれいごとばかりでも商売は立ち行きません。
店頭での販売価格というのは本来、小売店の自由です。商品を開発・製造したメーカーであっても、店頭での売値を指示したり、値引きを禁じたりすることはできない法律があります。
FF社も各小売店と、販売価格についての契約を交わすことはありません。けれども、どの小売店からもありがたい報告をいただきます。
「FF社の商品は、値引きをしなくても売れるので助かっています」と。
先述のように、店頭価格の設定はメーカー(FF社)にはできません。ですが、もし、値引き販売をしている小売店があれば、取引をやめればいいだけのこと。おかげさまで、そういう事態に陥ったケースは一度もありません。FF社ファミリーは、目に見えない信頼で結ばれています。だからこそ、よりお役立ちできるだろう商品を、次々とプレーヤーに届けることもできるのです。
世になかった商品を生み出しているため、販売業者への取り扱い説明も重要となる
社内事情をどこまで公にしていいものか。逡巡しますがFF社は実は、1年間の売上の約4割消滅を承知の上で、「適正価格」を守る方向へと舵を切ったのが今年のことです。
発端はコロナ禍でした。政府の緊急事態宣言による、不要不急の外出禁止や活動自粛などにより、余暇のスポーツや娯楽に携わる業界は大きな痛手を被りました。
野球界でも高校野球の甲子園をはじめ、あらゆるカテゴリーの主要な大会が軒並み中止に。屋外でのチーム練習すら許されない期間も相当に続きました。FF社が主力とする自主練習用具は、それでも売れたほうだと思います。
しかし、全体の半分近くの販売を委ねていた、某大手通販サイトからの発注がピタリと止まりました。推測でしかありませんが、おそらくはアパレルやスパイクなど、売れない在庫を大量に抱えてしまったのだろうと思います。
このまま販売を他社に頼っていたら、恐ろしいことになる。いずれは「適正価格」も脅かされるかもしれない――。終わりの見えなかったコロナ禍で、私は危機感を大いに抱きました。そして重い決断をしたのです。
販売も自社メインに切り替えていく、と。それはイコール、某大手通販サイトとの手切れを意味していました。同サイトの売り上げだけで年間の4割を占めていましたから当然、社内には反対意見もありました。そこで私は自分のビジネス哲学、前編で記したような「価格競争をしない理由」や「優れるな異なれ!」などを説いて、最終的には全社員が同じ方向を向いて一歩を踏み出しました。
コロナ禍に着工した新社屋兼ボールパーク柏の葉。物資輸送の滞りなどから工期が大幅に伸びて、2022年12月にようやくオープン
市場開拓の当初からお世話になってきた通販会社とは、1年掛かりの交渉を続けてきました。受注と生産のタイムラグや不良在庫の一掃に向けて、新たな仕組みをご提案し、最終的には「発注0」という形で取引が停止しました。
大人の事情も多少ははらんでいるかもしれませんが、感情的なケンカ別れではない。司法の手を借りて争うような事態にも発展していません。あくまでも、ビジネス上のやりとりがなくなった、というだけの話です。
さて、残った問題は年間売上の4割減――。現時点で、穴埋めは70%強といったところですが、利益は100%取り戻せる見込みが立っています。
主な手法は、FF社のポータルサイトからの直接販売です。卸や小売りなど中間に業者を介さない分、前年と同程度かそれ以上の利益を確保できそうです。また、プレーヤーのみなさんと直に触れる機会が増えたことで、新たな商品のアイデアや改善改良のきっかけをいただけるケースも増えています。
直販によって、現場のプレーヤーから生の悩みや要望を聞く機会も増えている。写真は東都大学リーグの名門・東洋大にて
年間売上の残る6割。こちらは従来通り、小売り店のみなさんとも協力しながら追求しています。すべては、プレーヤーの真の力になれると信じて。
(吉村尚記)