黄色いカラーの穴あきボール。これで打撃練習をしてから試合に臨む、というルーティンが学童野球で定着してきました。
穴あきボールは、軽くて柔らかいのに投げても風の影響を受けにくい。穴が開いているので、金属バットで思い切り打っても回転(スピン)が急激に弱まり、さほど飛ばないという優れものです。
全日本小学生野球交流協会滋賀県代表決定大会より(2024年2月、滋賀・長山公園野球場)
その安全・安心な打撃用ボールが世に登場するまでは、危険回避のために試合前の実打を禁止する大会がほとんどでした。実は10年ほど前にそれを開発したのが、われわれフィールドフォースです。
モデルとしたのは、河川敷ゴルフ(現在は大半の地域で禁止)で大流行していた、穴の開いたゴルフ練習用のボール。創業当初の弊社は、これをOEM(他社ブランド品の受注生産)で大量に扱っていました。その製造ノウハウを応用し、より柔らかい仕様で直径70mmの野球の打撃練習用ボールへと造り替えたのです。
今では同様の商品が他社からも一斉に発売されていますが、これも大歓迎。穴あきボールがより広く浸透し、直前の実打(打撃練習)から自信を持って実戦に臨めるプレーヤーが増えていく。だとしたら、非常に素晴らしいことではないでしょうか。
やせ我慢で、きれいごとを吐いているわけではありません。開発者や元祖というだけで、幅を利かせるつもりもありません。われわれフィールドフォースは、常に二歩先、三歩先をいって二番煎じを引き離していると自負しています。
「軟らかさ=安全」も追求したFF社の穴あきボール。昨秋からホワイトカラー(下)も登場
穴あきボールで言うなら、フィールドフォース製のそれは圧倒的に軟らかい。それだけ安全でありつつ、ボールの復元性も耐久性も伴うという点で、確実に差別化ができている。柔らかさの秘密は素材にあり、主成分のポリウレタンにEVAという素材を加えています。
主成分にマッチする別素材を探し出し、最適の含有率を導くまでには、およそ2年を要しました。でも、これだけでは知的財産権も特許もありえません。一方で昨秋からは、試合球と同じホワイトカラーのモデルを市場に投入しました。試合球と同じ色のボールを打って実戦に入れば、目慣れの効果もあるだろうという考えからです。
有形のモノづくりにとって、混じり気のない「白色」というのは、実はハードルが上がります。素材や工程のほんのちょっとしたことでも「白」が変色してしまうことが多いからです。しかし、不利な状況も克服してこそブランドの優位性は高まり、プレーヤーをモチベートする原動力にもなる、というのが私の一貫した考えであり、経験則。
「白なんて難しいし、カネも掛かるから無理!」と、サジを投げるような体質の組織であったら、弊社はもう存在していなかったかもしれません。モノづくりでも会社経営においても、言い訳をしない――この哲学が組織と人を育み、ひいては野球界と未来の一助になると私は信じています。
第38回吉川市近隣大会より(2024年3月、埼玉・旭公園野球場)
直近の15年で約5000もの学童野球チームが消滅。野球界の底辺と未来を支える少年少女たちが、少子化の波を超えるペースで減ってしまっている――。
最近はこの手のニュースを見聞きするようになりました。野球を愛する一人として、非常に残念です。一方、この業界でモノづくりを生業とする社のトップとしては、それを言い訳にして手をこまねいたり、嘆いてばかりでは何も始まりません。
競技人口の減少傾向と危機感は、業界内では10年以上前から囁かれていました。厳しさを増す要因はいくつもあって、複雑に絡んでいたりします。その中でわれわれフィールドフォースが最初に目をつけたのは、背景となる野球環境の劣悪化でした。
野球を取り巻く環境は全国的に厳しさを増すばかり…
「ボール投げ禁止」「バットの使用禁止」という看板が、都市部や住宅地の公園から全国的に広がっていました。主な理由は、野球以外の公園利用者にとって危険だから。
昭和の時代には日常的な風景であった、空き地や公園で野球をして遊んでいる子どもたち。島国の限られた国土の日本で、これを蘇らせるのは不可能でしょう。しかし、野球をやりたいという子どもや、その親のニーズは確実にあります。
ボールの跡がつく(下)ことなどから、住宅地での「壁当て練習」も現在ではほぼ見られない
ならば、手狭なスペースでも練習できる道具、パートナーがいなくても使える道具があれば、いいのではないか。それを世に生めば、野球をしたいという親子のニーズに応え、もっと上達したいという選手たちの役に立つこともできるはず――。
こういう論理から、モノづくりのコンセプトを6つ打ち出しました。❶簡単組み立て❷楽々移動❸省スペース➍パートナー不要❺実戦感覚❻繰り返し練習。これらをすべて満たしたときに、プレーヤーにとっても“言い訳のできない商品”となるのです。
FF社のモノづくり6つのコンセプト。すべてを満たす商品があれば、練習できない環境にはならない=言い訳できない
その代表格が、一人でもエンドレスでティー打撃ができる商品「オートリターン・フロントトス」。発売から10年を過ぎた今も、トップ3のセールスを記録するヒット作です。インターネットの普及による口コミから、人気に火がついたのでした。
グラウンドでの一般的なティー打撃を思い浮かべてみてください。そこには必ずパートナーがいます。選手が務めることもありますが、トス係で野球が上達することはほぼありません。パートナーは何球ずつかを手に取ってから、1球ずつ腕を振り子のようにしてトスをする。ボールの数は相当にあり、すべてを打ち終えたら拾い集めます。
その練習効率を倍以上に引き上げてくれるのが「オートリターン・フロントトス」です。ネットに打ち込んだボールが自動的に回収されて、また自動的にトスを上げてくれる。電力(モバイルバッテリーでも可)は必要ですが、パートナーは不要。その気とネットに打ち返す技術があれば、一人で永遠にティー打撃ができるのです。冒頭の穴あきボールも付属(4個)しているので、より安全に実施できます。
写真上は2人一組の一般的なティー打撃。下はFF社商品を用いての単独&エンドレスのティー打撃
初期のモデルはネットのフレームが鉄製で重く、組み立てや持ち運びに難がありました。6つのコンセプトのうち❶と❷を完全には満たしていなかったのです。この骨組みを高強度で軽量のアルミ製に改良した第4号モデルから、人気に拍車がかかりました。まさしく“言い訳のできない商品”に昇華したのです。
こうして新規性に富む商品を、適正価格で世に売り出すことから生まれた利益。一般的な企業であれば、そのうち何%かを株式など資産運用に回すか、広告代理店と手を組んでの宣伝に投じるか、することでしょう。われわれフィールドフォースはそういうことを一切しない代わりに、全国各地の大会を協賛し、自社ブランド品を賞品として提供しています。
野球界で得た利益を野球界のために還元したい。これが第一義ですが、協賛大会への商品供出のメリットも計り知れないものがあります。
現場のチームや選手にフィールドフォースの商品を使っていただくことや、その口コミ評価やSNS発信が大きな宣伝効果なのです。われわれが生産しているのは“言い訳できない商品”ですから、使えばご満足をいただけるはず。時には厳しいご意見もいただきますが、それも改善改良や新商品開発へのヒントでしかないのです。
第10回フィールドフォースカップより(2024年2月、埼玉・半田公園野球場)
2015年にスタートした弊社唯一の主催大会フィールドフォースカップは今年、節目の第10回大会を無事に終えました。「全国予選の前哨戦」を合言葉に、第1回大会は東京近郊の有力チームに参加を呼びかけて開催。おかげさまで、今では40チーム規模の大会で、札止め(新規参加は人数不足などで辞退したチームの代替のみ)という盛況ぶり。
協賛大会も増えるばかりで、2023年は約40を数えました。大会協賛も無条件ではなく、社内でも精査をしますが、弊社から主催者側に協賛の打診をしたことはこれまでに一度もありません。
経営論の原則として、立ち行かなくなる企業には、ふたつの典型があります。マーケット(市場)が縮小していくなかで、非難や愚痴ばかりで具体的な対策をとらずに衰退していくパターンがひとつ。もうひとつは、潤うマーケットに単純に乗っかっているだけで勘違いや慢心をして、やがて淘汰されていくパターン。
では、われわれフィールドフォースはどうでしょう。下火の傾向とはいえ、野球界の巨大なマーケットの中に「平日練習の市場」を開拓(コラム第7回参照➡こちら)しました。それからこの10余年、右肩上がりの成長を続けています。
“言い訳できない商品”を世に生み続けることで、野球をしたい子どもたちの欲求を満たしながら向上心や技術を底上げする。そして結果として、協賛大会も増えていく。このサイクルを堅持することが私と社の使命。時代や背景が厳しいのはむしろ、存在意義を高めるチャンスでしかない。ですから、勇気を持って新たなチャレンジをしているのです。昨年3月に立ち上げた、この『学童野球メディア』もそのひとつ。
第46回都知事杯フィールドフォース・トーナメントより(2023年6月、東京・上柚木公園野球場)
新年度を迎えて、弊社のファミリーにも新たな顔ぶれがあります。このタイミングで実施している新人のオリエンテーリングでは、上記のようなことも私から丁寧に説明をしています。途中で言い訳することなく、一刻も早く全国のプレーヤーを支える一員となってもらうために。
(吉村尚記)