第46回都知事杯フィールドフォース・トーナメントは7月17日、レッドサンズの初優勝で幕を閉じた。同じく全日本学童大会出場を決めている、不動パイレーツとの"全国前哨戦”ともなった決勝は、最後まで目が離せない好勝負だった。
※記録は編集部
(写真&文=大久保克哉)
⇧【初優勝/レッドサンズ】全日本学童大会には3年連続4回目の出場となる
⇩【準優勝/不動パイレーツ】全日本学童大会には2年ぶり4回目の出場となる
■決勝
不 動 000400=4
レッド 10004 ×=5
【不】阿部、永井-小原
【レ】北川、増田、藤森一-増田、竹森、増田
本塁打/藤森一(レ)、小原(不)、難波(不)
出場63チームのファイナル
ちょうど1カ月前の6月17日。両チームは全日本学童東京予選(上位3チームが全国出場)の決勝で相対し、6対4で勝利したレッドサンズが大会2連覇を達成している(※レポートは→こちら)。
都知事杯の、またも決勝で対峙した両チームは、前回を大きく上回る熱戦を展開した。戦力も手の内も知る者同士の、さながら“全国前哨戦”。序盤は双方に併殺プレーが1つずつ。後半に逆転、また逆転と、最後までともに譲らなかった戦いは、勝者にも敗者にも多くの収穫をもたらしたことだろう。
1回表にレッドがスクイズを阻んで併殺を奪えば(上)、2回裏は不動が無死一塁からの内野安打に5-3-5-4の転送で併殺を奪い返す(下)
1回表、守るレッドサンズが一死満塁からのスクイズを阻んで併殺(投直から三塁転送)を奪えば、不動も2回裏の守りでやり返す。無死一塁からの三塁内野安打で、三進を狙った一走を5-3-5の転送で刺し、その間に二進を狙った打者走者も5-4の転送でアウトに。
どちらの併殺プレーも、両監督は攻めを振り返って「ミス」と口にしたが、守る野手陣が次の次の展開までを描けていたからこその重殺でもあった。投直とさせたスクイズバントも、ウエストに近い高めのボールを投じたレッドの先発・北川瑞季のファインプレーではなかったか。不動の先発・阿部成真も、ダイナミックなフォームから緩急を使った投球で決定打を許さなかった。
1回裏にレッドの二番・藤森一が、2試合連発となる先制ソロを逆方向へ(上)。5回表には不動の三番・小原がやはり2試合連発となる中越えの同点ソロ(下)
攻めてはともに、まずは打つべき人が打った。レッドは二番の藤森一生が1回に、不動は三番の小原快斗が4回に、それぞれ2試合連続となるランニング本塁打で1点ずつ。そして試合が大きく動いたのは、その小原の同点弾からだった。「みんなで心を一つにして、良い雰囲気で得点できたと思います」と、永井大貴主将が振り返った4回表。1対1とした不動はなお、五番・阿部から西槙越、難波壱(5年)の3連続長短打で一気に4対1と、勝ち越してみせた。
「藤森(一生)クンを想定して速いストレートに強い子を並べました」と、不動の永井丈史監督。相手の絶対的エースの登板は5回からで、得点こそ奪えなかったが村上陽音が最初にクリーンヒットし、6回には難波が三塁打を放った。
4回表、1対1に追いついた不動はなお、阿部の三塁打(上)に西槙の中前打(下)で勝ち越しに成功(下)
「以前はミスして沈んだまま、ゲームを壊しちゃうようなこともありましたけど、今は落ち着いて次のチャンスを狙って、しっかりと待てるようになりました」
レッドは門田憲治監督がこう評したように、一気に逆転されてもドタバタしなかった。5回表のピンチをエースが力でねじ伏せるとその裏、一番・藤森輝の右前打から反攻に転じる。そして四番の大熊一煕(5年)から宮野歩大、竹森康喜の3連打に敵失も誘って5対4とひっくり返し、そのまま逃げ切ってみせた。
レッドは5回裏二死一、二塁から宮野の中前打(上)で1点、続く竹森は痛烈な左前打(下)で敵失も誘って生還し、5対4と大逆転
「次のカズキ(藤森一)に回すことを考えました」(藤森輝)、「次にコウキ(竹森)がいるので、何でもいいから塁に出てつなごうと」(宮野)、「ここで打たないと負けると思いましたし、気持ちで打ちましたね。オレが決めたかった!」(竹森)
Vメンバーの6年生は5回の一打をそれぞれに振り返ったが、自分の役割に徹した点では共通していた。また、今大会も投打で決定的な仕事をしてきた藤森一生は、繰り返される質問にも爽やかな笑みを絶やすことなくリピートした。
「自分自身は3年連続の全国。去年は悔いを残したので、最後の1球まであきらめないで、笑顔で終わりたいです」
今大会は全6試合に登板、決勝でも先発して2回無失点のレッド・北川瑞季が大会MVPに。「うれしいです。この大会は自分のアピールの場だと思ってきました。三振はバンバン取れないけど、周りの守備が堅いので信じて粘り強く投げるのが持ち味です」
〇レッドサンズ・門田監督「全国に向けて、絶対的なエースの藤森(一生)をいかにサポートするかをコンセプトに、この大会でいろいろ試すこともできて自信になりました。切磋琢磨してきた不動さんと、8月11日(全国決勝)にまたやれたら最高ですね」
●不動パイレーツ・永井監督「敗戦は悔しいですけど、この大会でオーダーも何パターンかつくれました。3週間後の全国でも戦える自信が持ててきたし、あとは気負わずに。自分も楽しみです」
―Pickup Hero―
当落線上で激走、価値ある三塁打
[レッド6年/一塁手]
藤原煌大
6年生は12人。5年生も入ってきての競争激化のなかで、レギュラーの当落線上にあることを自覚している。
「ギリギリの感じです」
前日の準決勝は七番・一塁でスタメン出場も、第1打席で空振り三振後にベンチへ。同じくスタメンに名を連ねた決勝も、1打席で交代。だが、その少ないチャンスで地味に猛アピールした。
2回裏、相手の好守で二死無走者と、好機が消えた直後だった。「ダブルプレーを取られたけど、絶対にそのまま3人で攻撃を終わらせないように、と」
左打席から逆方向へ弾き返した飛球は左翼手の頭上へ。激走(写真)から三塁に滑り込んで塁上で右拳を振り上げるや、代走に同じ6年生の小笠原快が告げられる。ほんの一瞬だけ俯いてから、胸を張ってベンチへ走って戻っていった。
「気持ちで打ちました。全国大会ではレギュラーを取ってヒットをたくさん打ちたいです」
懸命で愛嬌もあって、ネガティブな発言と態度は一切なし。こういう最上級生もふつうにいるチームであるからこその、東京二冠王なのかもしれない。
―Pickup Hero―
見上げたハートとパンチ力
[不動5年/左翼手]
難波 壱
端的に言うなら「追いパワー」か。大地の反力を利して、打球をもうひと押しするような粘りが足腰にうかがえる。
前日の準決勝では中越えのタイムリー二塁打。また捕球されたが、逆方向への特大ファウルが衝撃的でもあった。永井丈史監督によると、5年生ながら実はチームのホームラン王なのだという。
「バットの芯でとらえることをいつも意識してます。それで打球が上がればホームラン、低くても二塁打とか三塁打に」
こう語る難波壱は、決勝でまた中越えの2ラン(写真)。さらなる圧巻は最終6回の打席だった。直前の外野の守りで痛恨の打球後逸で、5対6と逆転されていた。「打球が直前で跳ねたのと、ホームで刺そうとして焦ってしまいました」
6回一死走者なしで、マウンドには6年生屈指の左腕。高校生でも1球見るようなところで初球から豪速球に食らいつく。そして空振りの後の2球目を、右中間に打ち返して三塁打。後続が断たれて敗れたが、全国舞台に進むチームにはその向こう気も頼もしい限りだろう。
「飛ばす秘訣? ご飯を食べたり、寝るまでに練習したり。あとは気持ちです」