本日8月5日、16時30分――。明治神宮野球場での開会式を前にした『細かすぎる特ダネ』は最終の第8弾です。全日本学童は、47都道府県の王者によるチャンピオンシップ大会。どのチームも相応の実力があるのは当然で、初顔や久方ぶりの出場から初優勝も過去にないわけではありません。では、一気に天下獲り! もありそうな5チームを紹介して開幕を待つとしましょう。
(写真&文=大久保克哉)
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※背景黄色=第1集団(特ダネ➍参照)、背景紫=第2集団(特ダネ❻参照)
過去の初出場初V
直近の初出場初優勝は、9年前の2014年。愛媛県の和気(わけ)軟式野球クラブが達成している。『強いヤツを倒せ!』のキャッチフレーズの下、底抜けに明るい指揮官に導かれたメンバーは、わずか12人。結果、6年生9人で戦い抜いた6試合は、お決まりのようにガマン比べからの逆転劇…。残念ながら、同チームは翌年8月をもって活動に終止符を打ってしまった。
2013年は初出場の兵庫・曽根青龍野球部が優勝。当時は全国に13291チームあった
ちょうど10年前の2013年も、兵庫県の曽根青龍野球部が初出場初優勝。スタメンの5人が5年生というチビッコ軍団が展開した、緻密な『攻める守り』が印象的だった。
前哨戦での偉業と良薬
さて、今夏だ。まずは最新の動向から。
地域やチームによっては「前哨戦」と位置付けている和歌山・高野山旗大会が8月1日、新家スターズ(大阪)の優勝で閉幕。これによって、新家は練習試合を含めて「1年間負けなし」という、とんでもない偉業を引っ提げて6日の1回戦から登場する。代は1つ上になるが、最後に負けたのは昨夏の全日本学童準決勝ということになる。
昨夏は4強まで進出した大阪・新家スターズ(写真は当時)。大会以降、負けなしでまた神宮に戻ってくる
この猛烈な不敗軍団と3回戦で対戦する可能性がある、富山代表の比美乃江稲積JBOYS(富山)も、高野山旗とは深い縁がある。合併6年目の昨年は、県予選準優勝で全国初出場はならず、高野山旗へ。そこでベスト4まで進出したものの、準決勝で大阪・長曽根ストロングス(昨年は全国準V)に0対19という屈辱的な大敗を喫した。
「上には上がいると、今の6年生8人も肌で感じたと思います。ああいうレベルになろう! と1年間がんばってきましたから」(東軒宏彰監督)
ひみのえいなづみ比美乃江稲積JBOYS
[富山]
初出場
7月23日、壮行試合を行った福井代表・越前ニューヒーローズと記念の一枚
今年の県予選決勝は24対2など、抜かりのない圧勝が多かったのは、昨夏の良薬のせいもあるだろう。6年生たちには、2年前にティーボール大会で全国優勝という実績もある。
「小さい子ばかりですが、ライナーを打ってつないでいく打線。ピッチャーは本格派に技巧派もいます。子どもたちは初めての全国ですけど、去年の高野山旗を思えば、どのチームが相手でも怖くない。一戦一戦、大事にいきたいと思います」(東軒監督)
雪国のハンディをともに負っているからだろうか、北陸方面は横のつながりも深い。高野山旗開幕の前週には、福井代表の越前ニューヒーローズと壮行試合をしたという。
「去年の中条(ブルーインパルス・石川)さんの優勝もうれしかったし、私のモチベーションにもなっています。去年も試合をさせてもらいましたので」
東軒監督は2012年に前身の稲積少年会野球部を率いて、全日本学童3回戦まで進出。このときの負けた相手が隣県・福井の鳥羽野球部(17年ぶり2回目の出場)で、そのまま大会を勝ち抜いて初優勝を遂げている。
和歌山から実りの帰京
今夏の高野山旗で大きな収穫があったのは、開催地・東京から初出場となる船橋フェニックスだ。6月の東京予選は準決勝でレッドサンズ(第1代表)に大敗。3位決定戦を制して出場3枠目に滑り込んだ形だが、昨秋の新人戦は堂々の関東大会優勝を果たしている。
「去年の秋は打って打っての野球。勢いだけでしたね」と齋藤洋美監督は謙遜するが、すさまじい打力はこの7月末の高野山旗でも発揮されたようだ。2回戦では全国出場3回の実績もある三股ブルースカイ(宮崎)を13対2で下し、ベスト8まで進出した。
「3試合、楽な展開はなかったです。ウチはすべてが初めてだったので、雰囲気とかレベルとか、全国はこういう感じなんだというのを見て戦って、経験できたのは大きいです」(同監督)
ふなばし船橋フェニックス
[開催地/東京]
初出場
東京第3代表ながら、打力は東京No.1だろう。両投両打の「未来モンスター」もいる
東京予選に続く都知事杯は上位に進めずも、関西遠征で質の高い体験値を得ていざ、地元での全国へ。
「強いチームはどこまでも強くて、1つのミスが命取りになる。もう今さら技術は上がりませんけど、1球の大切さとか試合の入り方とか、心理面でのもっていき方を考えたり、工夫する時間はまだあります」
当初から全国制覇を宣言している選手たちに続いて、指揮官にもスイッチが入ったようだ。「打って打って」で始まれば、頂点をつかむ可能性も十分にある。
お調子者と手綱さばき
同様に、一気に走りそうな予感もするのが栃木代表の簗瀬スポーツだ。地元の国学院栃木高から国学院大でもプレーした松本裕功監督は、相手守備のファインプレーにも自然に拍手するような理知的な野球人。そして選手たちは、一様にフレンドリーで明るい。
「お調子者が多くて、乗っているときはいかにもウチらしい」との指揮官の評を筆者も否定しない。打者一巡のつるべ打ちや、急に盛り上がってのサヨナラ勝ちも目の当たりにした。エース左腕の郡司啓と半田蒼真主将のバッテリーが出色だが、どの面々も日替わりヒーローとなれるだけの地力を十分に備えている。
やなせ簗瀬スポーツ
[栃木]
初出場
6年生は9月の大会をもって引退する。「残りもわずか、何とか良い思い出を」と語る松本監督も父親監督なのでともに…
昨秋の新チーム始動時から目標に掲げてきたのは「全国出場」。栃木予選は5試合のうち4試合が接戦で、シーソーゲームとなった決勝は5対4でものにしている。
「先行逃げ切り型だったチームが、しぶとくなりました。打線も2巡目でギアが入ったり。5点差以内なら逆転できるという雰囲気があって、先行されても慌てずに攻撃できる」(松本監督)
初めての全国舞台は、初めての宿泊も伴う。となれば、お調子者でなくても修学旅行気分になりやすいが、「野球をしにいくのが目的なので、携帯のゲーム類などは持たせませんし、初日(1回戦)はないので対外試合で調整させてもらうことになりました」
松本監督は全国大会でも、県大会の入りと同じ言葉を選手たちに投げるつもりだという。
「まずは1勝しましょう!」
強行軍も苦にせぬ小所帯
千葉県から初出場の八日市場中央スポーツ少年団と、埼玉県から20年ぶり2回目出場の泉ホワイトイーグルスにも、優勝の芽があるだろう。
八日市場は、スタメンに4年生と5年生が2人ずついるのが信じられないほど、守備が堅い。それも肝心なところで、ミスではなく美技が出るのだ。右腕の富永孝太郎主将と伊藤瑠生のバッテリーは、全国屈指のレベルにある。
ようかいちばちゅうおう八日市場中央スポーツ少年団
[千葉]
初出場
昨年の全国予選は最初の地区大会決勝でサヨナラ負け。フィールドでこれを経験した現6年生5人がチームの中心にいる
1回戦からの出場が決まり、決勝まで進むと6連戦となるが、パフォーマンスがガタ落ちすることはないだろう。詳しい理由は既報のチーム紹介(→こちら)をご一読いただきたいが、6連戦にも匹敵する強行軍にも音を上げず、短期間のうちに県2冠に輝いているのだ。納得のピーキングなど、宇野貴雄監督の手腕もまた特筆もの。
「まずは初戦突破、目標はそこから」と伊藤。富永主将は「県大会と同じように攻撃はみんなでつないでいって、守備と走塁のミスをなくしていけば優勝できると思います」と力強く語っている。
タレント軍を連破の自信
泉ホワイトは井上貴徳監督を含めて、20年前の夢舞台をフィールドレベルで体感している人はいないという。それでもこのチームには、県予選の段階から全国大会を戦ってきたに等しい経験がある。
こちらも詳しい理由は既報のチーム紹介(→こちら)をご一読いただきたいが、埼玉大会5試合のうちに実に4試合までが、地域選抜のタレント軍との戦いだったのだ。派手さはなくても大崩れしないのは、井上監督のシンプルかつ納得の提唱によるところが大。
「当たり前を当たり前にやれ!」
この手のフレーズを唱える指導者は学生球界に多いが、言葉の復唱ばかりで、ろくに浸透していないチームもまた多い。そこへいくと、井上監督は野球においても具体的なところまで踏み込んで、優先順位もはっきりと示している。だから小学生にも理解され、多くが具現されている。
いずみ泉ホワイトイーグルス
[埼玉]
20年ぶり2回目
最高成績=2回戦/2003年
昨秋の新人戦も県制覇。新年1月にはV候補の多賀少年野球クラブ(滋賀)とも対戦している(写真は当時)
「相手のことは関係ない」
「自分たちの野球をすれば勝てる」
この手のフレーズも学生からよく聞かれるが、泉ホワイトの選手たちはそれを実行できている。個々の能力では明らかに相手が上でも、自分たちのペースとスタイルを保ちながら好機を待ち、ここぞで畳み掛ける。舞台が本当の全国となっても、そうした強みが発揮されることだろう。
専門メディアも当たり前に
このところ、南の海では台風が不穏な動きをしている。来週には日本列島の本州に上陸、との予報もある。その後の進路から仮に外れたとしても、全国舞台の東京も風雨の影響を少なからず受けるだろう。こうした不可抗力も味方につけて、テッペンに立つのは果たして――。
開会式から決勝、そして閉会式に歓喜の胴上げまで。全50試合はカバーできないが、学童野球メディアは現場のリアルやドラマも順次、お届けする。
「当たり前を当たり前に」