リポート

【全日本学童都大会/3位決定戦&ヒーロー】しらさぎが雪辱&コールド勝ち、ついに全国切符

【全日本学童都大会/3位決定戦&ヒーロー】...

2024.07.09

 第44回全日本学童マクドナルド・トーナメント都大会の3位決定戦は、しらさぎが8対0の5回コールドで旗の台クラブを下し、1977年の創部以来初となる全国出場を決めた。昨秋の都新人戦で準Vの旗の台は、8月の阿波おどりカップに続いて9月のGasOneカップ出場も決まった。東京3枚目の全国切符を巡る戦いは、好対照なカラーがぶつかり合い、それぞれにヒーローも生まれた。 (写真&文=大久保克哉) ※全国展望チーム紹介「しらさぎ」➡こちら ※※記録は編集部、本塁打はランニング 3位=全日本学童初出場 しらさぎ(江戸川区)   4位=GasOneカップへ 旗の台クラブ(品川区) ■3位決定戦 ◇6月15日 ◇府中市民球場 旗の台クラブ  00000=0  11204x=8 しらさぎ ※5回コールド 【旗】井手、寺村-片山 【し】新井、田中-方波見大 本塁打/田中2(し)       全都道府県で唯一の4ケタ。1000チーム以上が加盟する東京都の全国出場枠は「2」。これに「開催地代表」が加わって計3枠となる。本大会の東京固定開催は今年度がラストになるため、「開催地代表」をかけた3位決定戦も、これで最後。あるいは当面はなし、ということになるのだろう。  ともあれ、今年はどちらが勝っても初の全日本学童大会出場となる。1967年創立の旗の台クラブは、東京予選での4強入りも初めて。1977年創立のしらさぎは、2016年と2022年の2度、3位決定戦で苦杯をなめている。  両軍とも東京界隈では知られた強豪だが、「小学生の甲子園」こと全日本学童にはまだ縁がない。またどちらが負けても、9月の上部大会の出場権は得るが、この決戦を勝ち切ることしか頭になかったはず。ちなみに現6年生たちは昨秋の新人戦の都準々決勝でも対戦し、11対1で旗の台が大勝している。 互いにミスから始まる  目には見えない独特の緊張感ゆえか、1回から双方の守りにミスが出た。そしてその得た走者を確実に生還させた、しらさぎのペースで試合は進んでいくことに。 しらさぎの先発・新井(上)は90㎞台半ばの速球を主体にゲームメイク。旗の台の先発・井手(下)は最速105㎞の速球で押していった...

【全日本学童埼玉予選/決勝】“猛打全開”山野が悲願の初V、ついに全国へ

【全日本学童埼玉予選/決勝】“猛打全開”山...

2024.07.05

 県下43支部代表による第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントの埼玉県大会は、山野ガッツの初優勝で閉幕した。1回戦からの2ケタ得点は最終日の準決勝で途切れるも、ダブルヘッダーの2試合目となる決勝では3本のランニング本塁打を含む12安打12得点と猛打全開。全国準Vの実績もある市選抜軍、東松山スポーツ少年団をまるで寄せ付けなかった。 (写真&文=大久保克哉) ※記録は編集部、文中の本塁打はすべてランニング ⇧初優勝※チーム紹介記事➡こちら 山野ガッツ(越谷市) ⇩準優勝 東松山スポーツ少年団(東松山市) ■決勝 ◇6月8日 ◇おふろcaféハレニワスタジアム熊谷 東松山スポーツ少年団  0021=3  5124=12 山野ガッツ ※5回時間切れ 【東】足立、斎藤、石川、大島-吹野、大島、吹野 【山】樋口、伊藤-三木 本塁打/三浦(山)、石川(松)、遠山2(山) 今年の東松山は5年生が9人、うち4人が最終日にスタメン出場  選抜軍の東松山スポーツ少年団が、最後に全国の地を踏んだのは2015年。4年生1人を除く、17人の6年生は軒並みハイレベルで、銀メダルに輝いている。  それから9年。チームの様相は変化していた。創設当初からの指導陣はそっくり代わっており、メンバーは16人に減って6年生は7人、あとは5年生。準決勝では九番・二塁で渋い働きが光った足立欄は、5年女子だ。 「市内の5・6年生が減ったというわけではないです。強いチームをつくりたいという中で、今年は5年生に良い子が多くいましたので、結果としてこういう編成になりました」と久保滋典監督。決勝の先発マウンドに送ったのは、5年女子の軟投派の右腕・足立だった。 「相手の山野さんは大量得点で勝ち上がってきてますし、強いバッターたちにあえて、弱いボールをあてがうという戦略を立てたんですけど、それも通用しませんでしたね」(同監督) 1回表、二死一、三塁のピンチを無失点で切り抜けた山野は「走者をホームに返さなきゃいいんだよ!」と瀬端監督  相手が下級生の女子であろうと、山野ガッツの打線は容赦がなかった。準決勝同様、中井悠翔と樋口芳輝の一・二番コンビの連打であっさり先制すると、三番・三浦歩斗が左打席から右翼線への2ランで3対0に。  続く四番・増田慎太朗主将が四球を選んだところで、東松山は背番号1の右腕・斎藤琉惺をマウンドへ送るも、山野打線は止まらない。七番・高松咲太朗の左越え2点二塁打で、リードはいきなり5点となった。...

【全日本学童埼玉予選/準決勝❷】見所も見応えも十分。再逆転で山野がファイナルへ

【全日本学童埼玉予選/準決勝❷】見所も見応...

2024.07.02

 悲願の全国初出場へ、2ケタ得点の圧勝を続ける強力打線に対するは、過去2回の全国経験がある試合巧者。第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントの埼玉県大会、準決勝の第2試合は見所も見応えもある好ゲームとなった。試合評とともに、特筆すべき勝者のリーダーと、敗軍の横顔もお届けしよう。 (写真&文=大久保克哉) ※記録は編集部、本塁打はすべてランニング ※※決勝のリポートは追って掲載します  第3位 吉川ウイングス(吉川市)   ■準決勝2 ◇6月8日 ◇おふろcaféハレニワスタジアム熊谷 吉川ウ 02210=5 山 野 20151x=9 ※5回時間切れ 【吉】湊、藤田、湊、大浦-大浦、鹿島 【山】高松、三木、伊藤、高松-樋口 本塁打/中井、増田、遠山(山) 吉川は先発の湊が、いつもの整ったフォームから丁寧に投げ続けた(上)。1回で2失点も、誰も慌てていなかった(下)  6年生15人で26点、15点、23点、14点。各支部代表による県大会ながら、1回戦から圧倒的な得点力で勝ち上がってきたのは山野ガッツだ。  対する吉川ウイングスは6年生8人。昨秋の茨城大会優勝も経験しているエース左腕・湊陽翔(保護者の転勤に伴い、移籍)を、先発のマウンドに送り出した。 「打たれてもいいので、バックを信じて投げました」。こう振り返った湊にもチームにとっても、いきなりの失点は十分に想定内だったようだ。 1回裏、山野はテキサス安打で一気に三進した一番・中井が、二番・樋口の右中間二塁打(上)で先制のホームイン(下)  1回裏、山野は一番・中井悠翔のテキサス安打と、二番・樋口芳輝の右中間二塁打であっという間に先制する。さらに五番・伊藤大晴が右へきれいに流し打って、2対0となった。  しかし、吉川は老獪な攻め口ですぐさま追いついてみせる。四番・黒田彪斗が敵失(悪送球)で出てそのまま三進、続く鹿島琉は四球と二盗で無死二、三塁に。そして六番・大浦大知(5年)のライトゴロで、まずは黒田が生還した。 「内野ゴロでもいいから、ここはとりあえず1点を返そう、という思いで打席に立ちました」(大浦) 2回表、吉川は5年生2人が各1打点。大浦の右ゴロ(上)に続き、大塚のスクイズバント(中)で、三走・鹿島がかえり2対2に(下)  山野の右翼手・三木大輔の好守により、大浦の技ありの一打はヒットにはならなかった。しかし、一死三塁となって大塚淳斗(5年)が同点スクイズを決めると、主導権は吉川に傾く。エース左腕が2回裏を0点に抑えると、3回表は四球と盗塁に敵失絡みで、無安打ながら4対2と勝ち越してみせた。...

【全日本学童埼玉予選/準決勝❶】白熱のシーソーゲーム、全国区の選抜軍に軍配

【全日本学童埼玉予選/準決勝❶】白熱のシー...

2024.06.28

 第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントの埼玉県大会は、他の上部大会の予選を兼ねていない。つまり優勝チームが全国出場権を得るのみ。ファイナル進出をかけた準決勝は、2試合とも逆転また逆転の好勝負となった。まずは全国でも実績のある選抜軍と、創部18年目で躍進してきた単独チームとの第1試合と、特筆すべき敗軍をレポートする。 (写真&文=大久保克哉) ※準決勝第2試合と決勝のリポートは追って掲載します  第3位 熊谷ウイングス(熊谷市)   ■準決勝1 ◇6月8日 ◇おふろcaféハレニワスタジアム熊谷 東松山 11003=5 熊谷ウ 10030=4 ※5回時間切れ 【東】朝倉、斎藤-吹野、大島、吹野 【熊】志村、恒木-恒木、石塚 本塁打/石川(東)、井上(熊) 1回表、東松山は三番・石川(5年)が中越え先制ランニング本塁打(上)。その裏、熊谷は三番・石塚が同点タイムリー(下)  全日本学童大会に出場10回、うち3回は準優勝している東松山スポーツ少年団は、東松山市の選抜チーム。2015年以来、9年ぶりの全国出場を期す。  対する熊谷ウイングスは、2007年創部の熊谷市の単独チームだ。2019年には県大会(全日本学童予選)初出場で3回戦まで進出。5年ぶり2回目の今大会はベスト8、さらにベスト4と、チーム最高成績を更新してきた。 東松山は右本格派の朝倉壮大が3回まで被安打1と力投(上)。2回表には一死一、三塁から九番・足立(5年女子)のライトゴロで2対1に(下)  友好関係にあり、練習試合もしているという両チームの戦いは序盤から動いた。  まずは1回表、東松山の三番・石川惺央(5年)が目の覚めるような鋭い弾道の中越えランニング本塁打で先制。その裏、熊谷は二番・恒木結稀主将が四球から盗塁と敵失で三進すると、三番・石塚快偉斗のテキサス安打で同点のホームを踏む。  東松山はまたすぐに突き放した。2回表は、一死から七番・室田颯汰(5年)が右中間へ二塁打。斎藤琉惺が左前打で一、三塁とすると、九番の5年女子・足立欄がバント失敗(ファウル)の直後にライトへきれいに弾き返す。これは熊谷の右翼手・花又宙の好守に阻まれてヒットにはならなかったが、三走が生還するには十分だった。 熊谷は先発の志村(上)、3回から登板の恒木主将(下)が粘り強く投げた  以降はしばらく、1点リードの東松山のペースで進んだ。2回裏には強肩捕手の吹野陽哉主将が二盗を阻み、3回裏には右翼手の斎藤が美技。だが、追加点は奪えそうで奪えない。  熊谷は先発の志村明も、3回から救援した恒木主将も、走者を負ってからの粘投が光っていた。そして4回裏、一気に試合をひっくり返す。 4回裏、熊谷は四番・矢崎の三塁打(上)に続いて、五番・井上が中越えランニング本塁打(下)で3対2と逆転に成功する...

【全日本学童山梨予選/決勝&ヒーロー】サヨナラで名勝負に幕。ラウンダースが6年ぶり全国へ

【全日本学童山梨予選/決勝&ヒーロー】サヨ...

2024.06.18

 第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントと第47回関東学童の予選、山梨県大会は6月2日、ラウンダースの6年ぶり2回目の優勝で幕を閉じた。明見ジュニアベースボールクラブとの決勝は、敗北まであと1球という窮地で2度までも同点に追いつき、ついには逆転サヨナラで勝利。全国切符が1枚しかないのが惜しまれる大熱戦に、選手とチームの横顔も含めてリポートする。 ※記録は編集部 ※※3位決定戦リポートは➡こちら (写真&文=大久保克哉) ⇧優勝=6年ぶり2回目 ラウンダース  ⇩準優勝=関東学童へ 明見ジュニアベースボールクラブ  ■決勝 ◇6月2日 ◇緑が丘スポーツ公園 ◇ふじでん球場 明見ジュニアBC  0000013=4  0000014x=5 ラウンダース ※特別延長7回 【明】宮下真、桒原-宮下蓮 【ラ】深沢、伊藤航-中村准 ともに全国出場1回。一塁側の明見JBC(上)も三塁側のラウンダーズ(下)も、スタンドの熱さとマナーのある応援も互角だった 2度目の全国出場をかけて  ラウンダースは2018年に全日本学童大会に初出場で3回戦進出。翌19年に同大会に初出場したのが、明見ジュニアベースボールクラブだった(初戦敗退)。  夏の夢舞台を知る同士だが、新チームが船出した昨秋は明暗がくっきりと分かれていた。ラウンダースは県大会を制して関東大会に出場。一方の明見JBCは最初の予選、富士吉田市大会のそれも1回戦で敗退していた。  そんな両軍が1枚の全国切符をかけた大一番で対峙し、見どころ十分の名勝負を展開した。それぞれに選手主体の野球が確立されているのだろう、真剣勝負の中でもピリついたムードはなく、子どもらしい生き生きとした表情や明るい声がフィールドを支配。それは試合が激しく動いた終盤戦に限らず、スコアレスで進んだ5回までの攻防も同じだった。 明見JBCは宮下善主将が先頭打者安打から二盗(下)。ラウンダースの先発・深沢主将(上)は以降の打者16人をシャットアウトで5回まで無失点  ラウンダースは深沢昴主将、明見JBCは5年生の宮下真之介。先発した両左腕はストライク先行で、打たせて取る投球が冴えまくった。...

【全日本学童山梨予選/3位決定戦評】昨夏全国8強、甲斐JBCがコールドで銅

【全日本学童山梨予選/3位決定戦評】昨夏全...

2024.06.13

 第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントと関東学童の予選、山梨県大会は6月2日に閉幕。3位決定戦は昨夏全国8強の甲斐ジュニアベースボールクラブ(JBC)が、連合チームの青桐・羽黒・千塚JBCを5回コールドで下した。前日の準決勝での敗北で上部大会の目が消えた両軍だが、緊張の糸を切らすことなく、それぞれに持ち味を発揮した。 ※記録は編集部、決勝戦評は後日公開します (写真&文=大久保克哉) 第3位 甲斐ジュニアベースボールクラブ   ■3位決定戦 ◇6月2日 ◇緑が丘スポーツ公園 ◇ふじでん球場 青 桐 11000=2 甲 斐 00252x=9 ※5回コールド 【青】石合、石濱-土橋 【甲】村井、中込旭-中込旭、村井 本塁打/中込旭(甲) 序盤ビハインドでも慌てる様子のなかった甲斐。「監督の焦りや緊張は子どもに移っちゃうので、どう落ち着いて構えられるかがボクの今からの勉強です」と中込監督  甲斐市内の5チームが合併して2021年に船出した甲斐JBCは、昨夏の全日本学童での快進撃が記憶に新しい。6年生(現中1)が18人、切れ目のない打線で3回戦では14安打15得点。2回戦では全国準Vの実績もある強豪・北名古屋ドリームス(愛知)を1点差で退けてみせた。  発足4年目の今年は6年生が11人で5年生が9人。昨夏の夢舞台を経験した選手はいないが、照準は当然、そこに合わせてきたという。父親監督の中込裕貴監督は、県下一の厳しさを自認する。 「世の中の逆風じゃないか、というくらいに厳しくやってきました。野球はメンタルスポーツ。10の力が本番で3になっちゃう子がいれば、3の力が本番で5になる子もいる。だから厳しい特訓で、厳しいプレッシャーを与えてきました」 青桐・羽黒・千塚JBCは合同で大会に参加して2年目になる  一方の青桐・羽黒・千塚JBC(以下、連合軍)は、合同チームとなって2年目。ユニフォームは青桐で統一、6年生12人に5年生3人、4年生5人。羽黒出身の佐藤竜雄監督は一枚岩となれたことが、ここまで勝ち上がれた要因だと語った。 「一つになるというのは難しい面もありましたけど、逆にこの出会いの縁を親御さん含めてとても大切にしてくれて、よくまとまってくれました。指導者冥利に尽きますね」 3回を境に形成逆転  戦いの先に上部大会はないものの、両軍ともベスト布陣で対峙した。スタメンのうち5年生は連合軍が2人、甲斐には3人。 連合軍は1回表、二番・佐藤天の二塁打(上)を皮切りに先制。2回には八番・花形(5年)が中前タイムリー(下)...

【全日本学童群馬予選/3位決定戦&チーム評】前日の悪夢払拭の上川が夏の徳島へ。さくらJBCは関東へ

【全日本学童群馬予選/3位決定戦&チーム評...

2024.06.10

 第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントほか、夏の上部3大会の代表を決める群馬県予選会。3位決定戦は上川ジャガーズ(前橋市)が、さくらJBC富岡(富岡市)を5回コールドで下し、徳島県開催の阿波おどりカップ2024出場を決めた。さくらJBCは第47回関東学童へ。上部大会にもふさわしい両軍の横顔を、試合評と併せてお届けしよう。 ※記録は編集部 ※※決勝評は➡こちら  (写真&文=大久保克哉) ⇧3位=阿波おどりカップ2024へ 上川ジャガーズ ⇩4位=第47回関東学童へ さくらJBC富岡 ■3位決定戦 ◇5月4日 ◇上毛新聞敷島球場 さくら 00401=5 上 川 24411x=12 ※5回コールド 【さ】風間、大澤翔、新井-新井、大澤翔 【上】大谷陽、武居敦-砂賀 本塁打/滝沢(上)、武居敦(上) 前日に力投したエース・矢端(下)と同じく、上川の先発・大谷陽(上)は抜き球なしで打者に向かっていった オール速球勝負  ブレない芯があった。  先発のマウンドに立った上川ジャガースの長身左腕・大谷陽汰は、90㎞台後半の速球で開始から押していった。一死後、さくらJBC富岡の長岡慶之輔(4年)に中前打を許したものの、後続2人をフライアウトに。初回に投じた11球のうち、意図して球速を落としたスローボールは1球もなかった。つまり、オールストレート勝負だ。  これは前日の準決勝で先発し、4回無失点と好投したエース右腕・矢端伶有も同じだった。自己最速104㎞の更新はならなかったが、90㎞台後半から時に100㎞超のストレート一本で、相手打線をねじ伏せていった。 「以前に緩いボールを投げて打たれたときに、『緩急でやられたら後悔するぞ!』とコーチからも言われて。伸びのあるきれいなボールを投げるのが自分の持ち味で、そのために毎日キャッチボールをして冬場は下半身を鍛えてきました」(矢端)  上川で投手陣を指導するのは背番号29の堤啓コーチ(=写真上左)。「小学生のうちは回転のいいボールを!」との理念を、野手出身の石原武士監督も尊重しているという。同監督が語る。 「抜いたボールも使えば、もっと楽に投げられると思うんですよ。でも、小学生はゴールではなくてスタート。中高で変化球を覚えれば、かわせるし…」  要するに、目先のアウトや勝利にだけ固執しているベンチではない、ということだ。...

【全日本学童群馬大会/決勝評】磨いた戦術で決勝点&ノーノー継投!桃木が22年ぶり夢舞台へ

【全日本学童群馬大会/決勝評】磨いた戦術で...

2024.05.22

 第44回全日本学童マクドナルド・トーナメントほか、夏の上部3大会の予選を兼ねた群馬県予選会は5月4日、上毛新聞敷島球場で決勝と3位決定戦を行い閉幕。決勝は桃木フェニックス(前橋市)が富岡ホークス・小野スカイヤーズ合同(富岡市)を1対0で破り、2002年以来22年ぶり2度目の全国出場を決めた。敗れた富岡・小野は高野山旗へ。夏の大舞台へそれぞれ進む、4強の横顔を含めてリポートしていこう。 ※記録は編集部、3位決定戦評は後日公開予定 (写真&文=大久保克哉) ⇧優勝=22年ぶり2回目 桃木フェニックス ⇩準優勝=高野山旗へ 富岡ホークス・小野スカイヤーズ合同 ■決勝 ◇5月4日 ◇上毛新聞敷島球場 富岡・小野合同  000000=0  00001X=1 桃木フェニックス 【富】篠崎、久保-小林 【桃】篠原、二ノ宮-二ノ宮、篠原 1回裏、桃木の一番・二ノ宮が中越え打(上)。一気に本塁を狙うも、富岡・小野は中継プレーから三・本塁間で挟殺する(下)  両軍は前日の準決勝(※イニングスコアは下部)で、それぞれ強敵を下してきた。富岡ホークス・小野スカイヤーズ合同は手勢10人ながら、県大会2連覇中の上川ジャガーズ(前橋市)に逆転勝ち。一方の桃木フェニックスは、6年生7人と2年生の岡山凰牙を含めた総勢22人で、4月閉幕の県選抜4強のさくらJBC富岡(富岡市)を、5回コールドで退けた。  8月の全日本学童出場をかけた大一番も、70mの特設フェンスはなし。攻める桃木に耐える富岡・小野という構図で、スコアレスのまま進行していった。  双方がまず、持ち味を発揮したのは1回裏だ。後攻の桃木の一番・二ノ宮悠輝が中堅手の頭上へ痛烈なライナーを放つ。122mのフェンスへと点々とする白球を見て三塁ベースも蹴った二ノ宮だが、富岡・小野が8-6-2のパーフェクトな中継プレーから三・本間で挟殺してみせた。 先発の両エースが1点を争う緊迫の勝負を演出した。上は富岡・小野の篠崎、下は桃木の篠原  それでも今大会、打線が好調な桃木は三番・山口龍之介が中前打から二盗。後続が倒れて無得点ながら、3回にも中前打の楳原清太(5年)が二盗成功と、足も絡めて相手バッテリーを揺さぶり続けた。投げては先発のエース右腕・篠原澄旭主将が、90㎞台終盤の速球で相手打線を押し込んでいく。  富岡・小野は2回に敵失から一死二塁、4回には2四球で一死一、二塁とチャンスを得たが、バットから快音が聞かれない。3回にはスタメンで唯一の3年生・浦野敢太がジャストミートしたが、強い打球は遊撃手の正面へ。 桃木は1回裏に山口が中前打(上)から二盗、3回裏には5年生の楳原が中前打から二盗(下)  結局、桃木のエースは5回を無安打得点。許した走者は失策と四球による3人だけという快投だった。 「いつも通り、ストライク先行でいけたのが良かったと思います。0対0の展開も前に経験したことがあるし、打線がいつか点を取ってくれると思って投げました」(篠原)...

【東日本交流大会/決勝評】あっぱれ頂上決戦!延長8回の大熱戦を茎崎が制す

【東日本交流大会/決勝評】あっぱれ頂上決戦...

2024.05.02

 第20回東日本少年野球交流大会は4月6日、茎崎ファイターズ(茨城)の2年連続5回目の優勝で閉幕した。不動パイレーツ(東京)との決勝は、夏の全国大会にも匹敵するハイレベルな攻防で互いに譲らず、特別延長戦へ突入。あと1本をともに許さない中で、8回表のスクイズが決勝点となった。大熱戦の内容とともに、両軍のインサイドリポートをお届けしよう。 ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生 (写真&文=大久保克哉) 優勝/茎崎ファイターズ[茨城・つくば市]   準優勝/不動パイレーツ[東京・目黒区] ■決勝 ◇4月6日 ◇茨城・希望ヶ丘公園野球場 茎 崎 03000001=4 不 動 20100000=3 ※特別延長8回 【茎】折原、藤田-藤城 【不】難波、佐伯、鎌瀬-鎌瀬、細谷 本塁打/石田(不)  前半は一進一退で打ち合い、中盤からは息をのむような1点を巡るせめぎ合いが続いた。いったいどこをハイライトにすればいいのか――実力派同士によるファイナルはポイントがあり過ぎて、逆に取材者泣かせ。第20回大会の王者を決めるにもふさわしい好ゲームは、夏の全国大会にも匹敵するハイレベルな戦いでもあった。 1回裏、不動は石田が先頭打者アーチ(上)。続く難波は中前打(下)から三進し、五番・川本の中前タムリーで2点を先取する  まずリードしたのは、準決勝で千葉の強豪・豊上ジュニアーズにコールド勝ちしたばかりの不動パイレーツだった。1回裏、石田理汰郎がレフトへ鮮やかに先頭打者アーチを描く。続く難波壱も中前打から内野ゴロ2つで三進すると、五番・川本貫太の中前打で本塁に生還した。  一方、準決勝で新人戦の関東王者・船橋フェニックス(東京)を逆転で下してきた茎崎ファイターズは、またすぐにやり返してみせた。 2回表、茎崎は九番・大類が2点タイムリー(上)。なお、一死二、三塁から折原の一ゴロ(下)で3対2と逆転する  2回表、一死から5年生の七番・八番コンビ、佐々木瑠星と佐藤大翔がともに粘って四球で歩くと、九番の大類拓隼が左翼線へ同点タイムリー。 「2-2と追い込まれていたけど、何とかランナーをかえそうと。ドカーンと狙わずに、つないでつないでやっていくのがボクの今の仕事です」  こう振り返った大類は、チームの新年初タイトルとなったフィールドフォースカップの決勝(2月)は発熱で欠場。今大会は挽回とばかりに攻守で渋い働きが光り、センターでは準決勝から再三の守備機会をすべて難なくさばいていった。この殊勲打の後はバッテリーミスを逃さずに三進し、二番・折原颯太の一ゴロの間に勝ち越しのホームを踏んでいる。 一転、堅守で張り合う  どういうわけか、試合は3回から双方が勝負強い守りで張り合うことになる。  まずは3回表、二死満塁のピンチで不動の三塁手・川本が難しいゴロをさばいて3アウトに。するとその裏、三番・細谷直生の中越え二塁打から一死三塁として、川本がセンターへ同点犠飛を放つ。なおも米永結人のテキサス安打から二死一、二塁とチャンスを広げたが、今度は茎崎の三塁手・藤田陽翔がゴロを確実にさばいてピンチを脱する。...

【東日本交流大会/準決勝評❷】昨夏全国準V、不動がキター!!細谷が連続HR、豊上に打ち勝つ

【東日本交流大会/準決勝評❷】昨夏全国準V...

2024.04.29

 昨夏の全日本学童大会で準優勝。新人戦は都大会3回戦で敗退していた不動パイレーツが、春を待っていたかのように頭角を現してきた。東日本少年野球交流大会の準決勝、全国区の強豪・豊上ジュニアーズ(千葉)に5回コールド勝ち。三番の細谷直生内野手(6年)が2打席連続本塁打など、2ケタ安打の2ケタ得点で決勝進出を決めた。なお、両チームはすでに全日本学童の最終予選出場をそれぞれ決めている。 ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生  (写真&文=大久保克哉) 3位/豊上ジュニアーズ[千葉・柏市] ■準決勝2 ◇4月6日 ◇茨城・希望ヶ丘公園野球場 豊 上 00210=3 不 動 26011x=10 ※5回コールド 【豊】桐原、加藤-岡田 【不】川本、佐伯-鎌瀬 本塁打/細谷2(不)、中尾(豊) 豊上の先発・桐原は、やや変則的な投法がアクセント。バランスがしっかりとれて最後に腕も振れていたが…  戦うごとに成長する。とりわけ、打線がパワーと勝負強さを増していく。昨夏に全国2番目の高みにまで登った不動パイレーツには、そういうカラーがあった。指揮官を含めて代替わりした新チームにも、そこは継承されているのかもしれない。  1回表の守りで、ライトゴロを決めた難波壱だけは前年からのレギュラーで、しかも昨年度のチーム年間本塁打王だった。この大黒柱が二番に入る打線が、豊上ジュニアーズを急襲した。  一番・石田理汰郎から三番・細谷まで、3連続二塁打で瞬く間に2点を先取。豊上の先発・桐原慶は、やや変則的に左横から投げてくる。緩急もあって捉えにくいタイプだが、右中間、左越え、右越えと、ものの見事に外野へ打ち返した。 不動の二番・難波は2打席連続の左越え二塁打(上)。2回には九番・唐木も中越え適時二塁打(中)、そして三番・細谷が左へ豪快に2ラン(下)  桐原はそれでも後続を断ち、波に乗りかけたが、2回には与四球とけん制悪送球からペースを乱してしまう。不動は九番・唐木俊和が、一死二、三塁から中越えタイムリーでまず1点。さらにまた一番・石田から三番・細谷の左越え2ランまで、計4連打の6得点という猛打で8対0と大きく相手を突き放した。 「桐原は緩い球がいつものようにコントロールできなかった感じ。結果、速い球を入れにいって、それを狙い打たれてしまいましたね」と、豊上の剱持正美コーチ。  昨秋の新人戦は同コーチが率いて千葉大会で準優勝している。その後、組織内の体制刷新に伴い、髙野範克監督が6年生チームの采配にも復帰。3月20日には、地元の柏市予選を制して全日本学童県大会(6月)出場も決めていた。 不動の先発・川本貫太(上)はご覧の整ったフォームで序盤2回を0封。豊上は3回表、四番・加藤が左中間へ2点タイムリーを放つ(下)  髙野監督といえば、2019年、20年と全日本学童3位など、チームを全国屈指の強豪に押し上げた名将。今大会も30番をつけて水戸レイズ(茨城)、吉川ウイングス(埼玉)と名のある強敵を撃破してきたが、この最終日は仕事で姿がなかった。それでも千葉の盟主が、消沈したまま終わるはずがない!  3回表、豊上は二死無走者から二番・桐原が中前へクリーンヒット。さらに敵失で一、二塁となり、四番・加藤朝陽が左中間へ2点タイムリーを放った。続く4回には六番の5年生・中尾栄道が、左打席から目の覚めるような弾丸ホームランを右へ放って5点差まで詰めた。 「最高で~す!」と一発を振り返った中尾。夏の花火大会のようにサク越えアーチが次々と打ち上がった今大会の中でも、打球速度は中野の1本がトップだったかもしれない。4年時の昨年は年間17本塁打も放っているという、末恐ろしいスラッガーだ。 序盤から失点が続いた豊上は剱持コーチが「間」を入れる(上)。4回表には5年生の中尾が弾丸のような球足のソロアーチ(下)...

【東日本交流大会/準決勝評❶】雨に笑った茎崎、関東王者の全勝をストップ

【東日本交流大会/準決勝評❶】雨に笑った茎...

2024.04.27

 昨秋の新人戦から公式戦で勝ち続けてきた関東王者、船橋フェニックス(東京)の快進撃がついにストップした。打破したのは、全日本学童出場10回(2019年準優勝)を誇る“関東の雄”こと、茎崎ファイターズ(茨城)だ。『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』とは故・野村克也氏の名言だが、東日本少年野球交流大会の最終3日目、準決勝の第1試合は勝者にも敗者にも不思議はなかった。 ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生 (写真&文=大久保克哉) 3位/船橋フェニックス[東京・世田谷] ■準決勝1 ◇4月6日 ◇茨城・希望ヶ丘公園野球場 船 橋 21000=3 茎 崎 0404 X=8 ※5回時間切れ 【船】松本、木村、長谷川-竹原 【茎】佐藤映、折原-藤城 早朝から予報以上の降雨も、大会役員や保護者らの懸命のグラウンド整備により、準決勝以降の3試合が無事に行われた 小雨混じりの遅延スタート  4月最初の土曜日の朝7時半、希望ヶ丘公園野球場。大会運営をサポートする茎崎ファイターズの保護者たちが、一塁ベンチからじっと空を見上げていた。  予報に反しての強めの雨脚が、なかなか止む気配をみせない。準決勝のもう1試合を予定している隣接のグラウンドは、すでに湖のよう。朝一番から整備してきたというメイン球場は、全体にまだ土が見えているが、点在する水たまりに侵食されつつあった。父親の一人が、遠い目をしてポツリ。 「全部パー。またやり直しっすね」  上位4強はいずれも全国区の強豪で、明くる日もそれぞれに別の試合がある。つまり、日曜日へのスライドは現実的ではない。やるならば、きょうのうちに。ナイター照明もあるメイン球場なら、準決勝2試合と決勝の3試合は辛うじて消化できるのではないか。  大会本部でそのような話し合いが行われた末、開始時間を遅らせての決行が各チームに伝えられた。それが8時半前で、長靴履きの父親たちがグラウンドに散っていった。そして小ぶりの雨がパラつくなかで、10時には準決勝の第1試合が始まった。 雪辱に燃える一番打者  茎崎ファイターズと船橋フェニックス。実は1週間前の1回戦終了後に、練習試合をしたばかり。結果は12対4で茎崎のコールド勝ち。これにより、昨秋の関東大会を含めて船橋の新チームが貫いてきた全勝が止まった(関連記事➡こちら)。  1回表、船橋は木村の右前打(上)から一死満塁とし、吉村の三塁ゴロと続く半田の右前打(下)で2点を先取する 「茎崎は上位打線がすごく打ってくる。長打もあるし、強いなと。フルボッコでしたから。でも、練習試合だったし、こっちもエースじゃなかったので。次は公式戦でリベンジということで」  7日前の対決をそう振り返っていた船橋のトップバッター、木村心大が有言実行へ向けて、のっけから結果を出した。ライト前へ鮮やかなクリーンヒットを放つと、天に一本指を突き刺した。  準々決勝で2本塁打の二番・松本一も、いつもの猛烈なフルスイングだ。追い込まれてから3球連続ファウルの後、死球を回避した体勢のバットにボールが当たり、送りバントのような結果に。...

【東日本交流大会/pick-up】秋の関東決勝カード再び。王者にあった“負けられない理由”

【東日本交流大会/pick-up】秋の関東...

2024.04.26

 秋の新人戦で最上位となる関東大会の、決勝と同一カードが東日本少年野球交流大会で実現した。大会2日目、船橋フェニックス(東京)と、西埼玉少年野球(埼玉)による準々決勝だ。昨秋は8対3の勝利で関東王者に輝いた船橋が、このリマッチは5回コールド勝ち。予想外のワンサイドゲームとなったが、王者には負けられない理由があった。返り討ちにされた西埼玉も、2回戦では関東大会の神奈川代表に完封勝ちなど、実力を示した大会だった。 ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生  (写真&文=大久保克哉) ■準々決勝 ◇3月31日 ◇茨城・希望ヶ丘公園野球場 西埼玉 00000=0 船 橋 14101x=7 ※5回コールド 【西】金子、杉山-村井 【船】松本-竹原 本塁打/松本2(船)、濱谷(船) 関東出場組が激突  茨城県を舞台とする東日本交流大会は毎年、全国大会の最初の予選が各地で始まる直前にある。どのチームも、最終のテストや調整を兼ねて参戦してくる。  昨年は雨で中止となったが、節目の第20回を迎えた今年は、福島県の常磐軟式野球スポーツ少年団と、長野県のTeamNを加えた1都8県から32チームがトーナメント戦にエントリー。しかも、昨秋の関東大会に出場した各都県の王者8チームのうち5チームが参加とあって、例年にも増してハイレベルで拮抗した戦いが多く見受けられた。  早くも2回戦では、関東出場組の4チームが激突。船橋フェニックスは栃木の真岡クラブに、西埼玉は神奈川の平戸イーグルスに、それぞれ快勝した。 西埼玉の四番・白垣大耀(下)は2回戦で長打を連発。平戸は「自分たちのできることをしっかりやろう!」(中村監督=上)と臨んだが、0対5で敗北  平戸は対外試合解禁の2月(県独自のルール)から、負けなしで来ていたという。互いに無四死球のハイペースで進んだ2回戦は、守と走の綻びから序盤で流れを失うと、相手打線の中軸につかまり5失点でそのまま敗れた。1996年アトランタ五輪で主将も務めた中村大伸監督は、西埼玉の個の能力の高さと安定した試合運びに脱帽の様子だった。 「能力的にも、ちょっと相手との差を感じましたね。こっちのミスを逃してくれないし。こういう相手に対しても、ガマン強くやれるチームをつくっていかないといけませんね。選手たちには良い経験になりました」(中村監督) 「当たって砕けろ!」  迎えるダブルヘッダーの2試合目。準々決勝で関東王者・船橋と戦う西埼玉には、好材料もあった。平戸戦で右腕・歩浜鈴乃助が完封したことで、エース左腕の金子塁主将と右腕の杉山拓海を温存できたのだ。 西埼玉の18番・杉山は今大会、伸びのある速球で注目を集めていた  成長痛が癒えて、2月から実戦のマウンドに復帰したという杉山は今大会、伸びのあるストレートが際立っていた。 「金子と杉山がフルでいけるのは確かに大きい。ただ、相手のほうがポテンシャルがぜんぜん上なのはわかっているので、当たって砕けろ! ですよ」(綿貫康監督)  船橋の選手たちは、ハイポテンシャルを開始から見せつけた。1回表の守りを3人で終わらせた右腕・松本一がその裏、今度はバットで右へクリーンヒット。...

【吉川市近隣大会/特別ルポ】吉川ウイングス、劇的Vに潜むドラマと勝負の綾

【吉川市近隣大会/特別ルポ】吉川ウイングス...

2024.04.04

 埼玉と千葉の7市1町から37チームが参加した第38回吉川市近隣少年野球大会は3月20日、吉川ウイングス(吉川市)の3年ぶり5回目の優勝で閉幕。草加ボーイズ(草加市)との決勝は1点を争う緊迫の戦いに。これをサヨナラで制した王者には、いくつものドラマと勝負の綾が潜んでいた。 ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生 ※関連記事(準決勝評)➡こちら  (写真&文=大久保克哉) ⇧優勝/吉川ウイングス[埼玉・吉川市] ⇩準優勝/草加ボーイズ[埼玉・草加市] ■決勝 ◇3月20日 ◇旭公園野球場 草加ボ 010000=1 吉川ウ 000002x=2 【草】北村、髙橋、北村-髙橋、鈴木、髙橋 【吉】大浦、湊-鹿島、大浦 1回表、ウイングスは一死満塁のピンチに1-2-3併殺(上)。その裏はボーイズの先発・北村が無死三塁の大ピンチを、連続三振と一飛(下)で切り抜ける  ふたつ前の元号・昭和の62年(1987年)に始まった、由緒のある大会。第38回大会の決勝は、王者を決めるにふさわしい両軍が、それぞれに持ち味を発揮してロースコアの好勝負を展開した。  先手を取ったのは草加ボーイズ(以降、ボーイズ)だった。90分ほど前に、逆転サヨナラ満塁弾(鈴木健太主将)で準決勝を制した余韻が打球に乗り移ったか、一番・髙橋一生と続く北村寛太が連続のテキサス安打。三番・藤川悠義(新4年)がきっちりと送って一死二、三塁として、大殊勲の四番・鈴木の登場だ。  すると、吉川ウイングス(以降、ウイングス)の岡崎真二監督が颯爽とベンチを出てきて「申告敬遠」。この満塁策が奏功し、先発した新5年生の右腕・大浦大知が1-2-3の併殺でピンチを切り抜けた。 ウイングスは先発の新5年生・大浦が毎回走者を負いながらも5回1失点と粘投  対するボーイズの先発右腕・北村も負けていなかった。ウイングスの一番・藤田陽斗の二塁打と、二番・大塚淳斗(ともに新5年)の犠打エラーで無死三塁の大ピンチを招くも、スローボールも駆使してクリーンアップを3人斬り。この気迫の投球が準決勝同様に流れを呼んだ。 2回表、ボーイズの石川が四球から二盗、さらにバント処理の間に本塁を陥れた(上)。ウイングスは左翼守備専門の新5年生・古井(下)が好守を連発  2回表、ボーイズは石川颯人が四球から二盗に成功。そして七番・成田陽太(新5年)の投前バント処理の間に、本塁を陥れる好走塁で先制した。この流れにベンチの本村洋平監督も続いた。2回裏、二死一塁で髙橋をマウンドへ。 「鈴木は準決勝で70球(規定リミット)を投げていましたし、終盤のことも考えて、あえて北村の球数(規定70球)を残して髙橋につなぎました。3人とも頼れるピッチャーです」(本村監督)  背番号0の右腕・髙橋は、力投で期待に応えた。6回一死から三塁打を許して降板するまでに、ウイングス打線をバントヒット1本の無得点に抑えて、2つの併殺も奪ってみせた。 ボーイズの二番手・髙橋(上)は力投。3回には1-6-3併殺を奪う(下)  一方のウイングスも、毎回走者を負いながら追加点は与えずにスコアは1対0のまま進行した。大浦のクイックモーションと捕手・鹿島琉の強肩で2回、4回とボーイズの二盗を阻止。  6回にはエース左腕・湊陽翔が登板して、初めて3者凡退に。広い守備範囲でバッテリーを救ってきた左翼手の古井稜久(新5年)が、この6回にも前方の飛球を飛び込んで好捕するファインプレーで流れを引き寄せた。...

【吉川市近隣大会/特別ルポ】準決勝で白熱の「草加」ダービー、逆転サヨナラ満塁弾で幕

【吉川市近隣大会/特別ルポ】準決勝で白熱の...

2024.04.02

 第38回吉川市近隣少年野球大会は3月20日、吉川ウイングス(吉川市)の優勝で閉幕した。同日の準決勝第1試合は、草加市同士が一進一退の好ゲームを展開。劇的な幕切れまで目が離せなかった戦いと、そこで生まれた2人のヒーローを特別にレポートしよう。なお、準決勝第2試合は、吉川ウイングスが南川崎ゴールデンアロー(八潮市)に10対0の3回コールドで勝利している。 ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生 (動画&写真&文=大久保克哉) ⇧3位/長栄タイガース[埼玉・草加市] ⇩3位/南川崎ゴールデンアロー[埼玉・八潮市] ■準決勝1 ◇3月20日 ◇旭公園野球場 長 栄 0201002=5 草加ボ 1000204x=7 ※特別延長7回 【長】伊藤、五十嵐-石田 【草】鈴木、北村-高橋 本塁打/鈴木(草)  長栄タイガース(以下、長栄)は昨秋の新人戦で県大会に出場。同大会準優勝の山野ガッツ(越谷市)に2回戦で敗れている。その長栄に草加市予選の決勝で敗れていたのが草加ボーイズ(以下、ボーイズ)で、スコアは8対2だった。  新6年生たちの両チームの激突はそれ以来となる。この戦いの次には決勝のダブルヘッダーだったが、ともに背番号10のエースが先発のマウンドへ。 3年連続の全日本学童埼玉大会出場を期す草加ボーイズ。中学硬式の「全草加(草加ボーイズ)」とはまったくの別組織だ 「何も隠すつもりないですね。そういうので勝てる相手でもないですし、今がゴールでもない。真っ向からいくだけです」  試合前にこう話したのは、コーチから指揮官に転じて1年目のボーイズ・本村洋平監督だ。相手もそれは同じであっただろう。夏の全国大会につながる全日本学童の草加市大会は、ここ2年連続でボーイズが制覇。実父から指揮官を引き継いで20年になるという長栄の村上武史監督は、こう語っている。 「草加でNo.1を獲って上部大会に出る、というのは常々言ってきていることで、埼玉(県大会)を勝って全国へというのが長年の目標です」 1975年創部の長栄タイガース。村上監督が実父から指揮官を引き継いで20年になる  試合は双方の好守で幕を開けた。まずは表の守りで、ボーイズのバッテリーと二遊間が一発けん制でピンチを脱する。その裏は長栄の捕手・石田駈が、一死二塁のピンチで小飛球を好捕してみせた。  二死となったボーイズだが、四番・鈴木健太主将の中越えエンタイトル二塁打で1点を先制。すると、長栄もすぐさまやり返す。四番・伊藤稜晏主将の左前打から一死一、二塁として、七番・木幡翔馬が右中間を破る二塁打で2対1と逆転した。 ボーイズは1回裏、髙橋(上)と鈴木主将のエンタイトル二塁打で先制。鈴木主将は投げても5回まで3失点とゲームをつくった(下)  これ以降は先発の両エースが踏ん張り、試合が引き締まる。ボーイズの右腕・鈴木主将はミス絡みで4回に1点を失うも、まるで動じずに既定リミットの70球まで投げ抜いた。結果、3回から5回まで相手を無安打に。「去年の12月からフィールドフォースカップを経験して(3位)、チームが一体になって粘り強く戦えるようになったと思います」(鈴木主将)  ボーイズは新6年生が5人だが経験値が高く、指揮官の信頼も厚い。いきなり先頭打者二塁打を放った髙橋一生ら体格に恵まれた選手が複数おり、下位打線もバットが振れていた。...

【京葉首都圏江戸川/決勝】関東王者の船橋、一発攻勢でV。臆せず食い下がった清新

【京葉首都圏江戸川/決勝】関東王者の船橋、...

2024.03.19

 1試合3発の4回コールド締め! 第21回京葉首都圏江戸川大会の決勝が3月2日にあり、初出場の船橋フェニックスが参加59チームの頂点に輝いて閉幕した。昨秋に関東V2を遂げた船橋は、奢ることなく不敗ロードを驀進中。その一発攻勢を前に、清新ハンターズは銀メダルに終わるも、持ち味と成長の跡がうかがえる戦いぶりだった。  ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生 ※3位決定戦評➡こちら (写真&文=大久保克哉) 優勝/船橋フェニックス [東京・世田谷区] 【戦いの軌跡】 1回戦〇10対1大雲寺(江戸川) 2回戦〇6対5深川(江東) 3回戦〇10対0中央バ(中央) 準々決〇2対1山野(世田谷) 準決勝〇3対0鶴巻(新宿) 決 勝〇9対2清新(江戸川)   準優勝/清新ハンターズ [東京・江戸川区] ■決勝 ◇水辺のスポーツガーデン 清 新 0020=2 船 橋 0612x=9 ※4回コールド 【清】宮成、青木-渡邉 【船】木村、松本-竹原 本塁打/髙橋(船)、瀧川(清)、濱谷(船)、吉村(船) 船橋は準決勝まで主にリリーフしてきた木村が先発(上)。キレのある球が定まらず、2回途中で実父の木村監督が交代を告げる(下)  昨夏に全国出場した6年生(卒団)チームが相手でも、好勝負を演じたという船橋フェニックスの新チーム。昨秋の新人戦は、東京都大会に続いて関東大会も制している。「同学年にはまだ負けたことがない」と背番号11の松本一が胸を張ったように、練習試合を含めての全勝ロードで新年最初の大会も駆け抜けた。...

【京葉首都圏江戸川/3位決定戦】3回ノーノー&先制弾!大ヒーロー誕生の中で…

【京葉首都圏江戸川/3位決定戦】3回ノーノ...

2024.03.14

 第21回京葉首都圏江戸川大会の3位決定戦が2月25日、東京・水辺のスポーツガーデンであり、鶴巻ジャガーズがブルースカイズを下して銅メダルに輝いた。3回コールドの参考記録ながら、鶴巻はエースの園部駿がノーヒットノーランに、先制2ランなど大車輪の活躍。ワンサイドで決着する中でも、双方の有意なチームカラーが浮き彫りとなった。 ※記録は編集部、学年の無表記は新6年生  (写真&文=大久保克哉) ⇧3位/鶴巻ジャガーズ[東京・新宿区] ⇩4位/ブルースカイズ[東京・北区] ■3位決定戦 鶴 巻 028=10 ブルー 000=0 ※3回コールド 【鶴】園部-斎藤 【ブ】鈴木、忠村-三木 本塁打/園部(鶴) ★園部が3回参考ノーヒットノーラン 3イニングで打者9人を無安打無得点に封じた鶴巻・園部。6つの空振り三振を奪った  開催地の江戸川区を中心に、東京23区から59チームが参戦したトーナメントの最終日。午前9時からの3位決定戦を前に、冷たい雨が土の色を濃くし始めていた。本降りの予報が出ていた午後からの決勝戦は順延が決まったが、銅メダルをかけた戦いは滞りなく進んで決着した。  初回は無得点の静かな立ち上がり。ここで際立ったのは、マウンドの双方の右腕だった。ともにフォームも制球も安定しており、腕がよく振れている。 柔軟な投球フォームのブルーの新5年生・鈴木。今大会ではサク越え弾も放った  ブルーの新5年生、鈴木深空は二死二塁のピンチで四番打者を空振り三振に。対する鶴巻のエース、園部駿は3者連続の空振り三振で最上級生の貫録を示した。 「調子が悪いときは真ん中に速い球を投げるしかない。今日はしっかりと指に乘ったので、球速差を意識して使ったり、高めで狙って空振りも取れました」  こう振り返った園部は、完璧な立ち上がりで気を良くしたか、直後に打棒が火を噴いた。2回表一死二塁、右打席から放った白球は左翼48m地点の高いフェンスを越え、旧江戸川に飛び込んだ(下写真)。 「ホームランはぜんぜん狙ってなくて、監督から『当てな!』と言われた通り、それだけ意識して振っただけ」(園部)  ワンマンショーはなお続く。開始からの連続奪三振は2回裏、5人目(投飛)で途切れるも、6人目をまた空振り三振に。 斎藤隼汰のリードも冴え、ベンチに戻る鶴巻ナインを指導陣はハイタッチで迎えた  ブルーの鈴木も負けてはいなかった。被弾後は冷静に打たせて取っていく。3回表も簡単に二死を奪って、3者凡退――と思われた矢先、バックの1つのミスから悪夢が始まった。  敵失と四球で二死一、二塁の好機を得た鶴巻は、五番・阿部大河(新5年)から八番・鈴木湊翔(同)までの4連打などで5得点。さらに九番・岩垂我音(新5年)と、続く浅野夢叶が四球を選び、二番・井村勇登の中前タムリーでスコアは10対0となった。 3回表、鶴巻は五番の阿部(上)から川上慶(中央)、園部、八番の鈴木(下)まで4連打。園部以外はすべて新5年生だ...

『学童野球メディア』初代年間MVPは!?

『学童野球メディア』初代年間MVPは!?

2023.12.31

 シガラミも忖度もなく、前例にもない――。『学童野球メディア』は本年3月の開設に先駆けて、2022年末のポップアスリートカップから取材をスタート。新春からはローカル大会や低学年の大会、夏の全国大会とその予選、秋の新人戦など、できる限り現場に足を運んできました。そこで取材をした相当数の選手の中から、年間最優秀選手『2023年MVP』を選出しました。表彰も副賞もありませんが、記事と動画は残ります。学童野球と、その専門メディアがここにある限り――。 (選出=編集部/写真&文=大久保克哉) ※巨人ジュニアの写真は藤森家提供 【2023年最優秀選手】 ふじもり・かずき 藤森一生 [東京・レッドサンズ/読売ジャイアンツジュニア] 6年/投手/左投左打/165㎝51㎏ 【主な成績と掲載記事】 「2023注目戦士①」➡こちら 全日本学童都大会★優勝➡こちら  東京都知事杯★優勝➡こちら 全日本学童大会★3位➡こちら  ※チームルポ➡こちら  東京23区スワローズカップ★優勝 NPB12球団ジュニアトーナメント★準優勝  夏の「小学生の甲子園」で最速124㎞の衝撃。年末の「夢の祭典」では125㎞を計時した。どちらの舞台でもサク越えアーチも放つなど“主役”と呼べるほどの活躍と進化を示してきた投打二刀流。2023年のMVPは「藤森一生の一択」で、異論はないだろう。  全国3冠に輝いた新家スターズ(大阪)を率いて13年の千代松剛史監督も、事あるごとに藤森の名前やハイパフォーマンスを口にした。 「ホンマにあんなにすごい子、めったにおらんて。過去にも見たことない!」 木製バットで右へ一発  ではまず、直近のNPB12球団ジュニアトーナメントのリポートから。藤森が背番号18をつけた巨人ジュニアは、2年連続の準優勝。9年ぶり4回目の優勝を期した決勝は、DeNAジュニアに2対3で惜敗した。藤森はMVPに次ぐ「優秀選手賞」に選ばれている。 「8月20日に結団式があって9月18日の初練習から3カ月間、みんなで優勝を目指してきました。最後は敗れはしましたけど、最高の監督、コーチ、スタッフ、仲間たちと出会うことができました」 ジュニアトーナメントは全4試合フル出場。不動の一番打者で、登板時以外は左翼、右翼、一塁を守った  各球団、地元を中心に選りすぐりの16戦士による夢の祭典は、3日間で全15試合。予選敗退なら2試合しかない中で、藤森は全4試合にフル出場し、3試合で先発登板している(成績詳細は別表参照)。  二刀流で圧倒的な存在感を示したのは予選2回戦(対日本ハム)だ。投げては5回一死まで、被安打2の無失点。許したクリーンヒットは、三遊間をゴロで破られた1本のみだった。また自らのバットで3回裏に先制ソロ。追い込まれてからの低め109㎞を、ライトの特設フェンスの向こうへ。  大会では昨年から「レガシー」などの複合型バット(打球部に弾性体)が禁じられた中、藤森は大会を通じて730g程度の木製バットを使用した。...

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【心に沁むストーリー・王者の番外編】一生の誇り、手に入れた――。

【心に沁むストーリー・王者の番外編】一生の...

2023.12.27

 夏の全日本学童大会マクドナルド・トーナメントと高野山旗に、冬のポップアスリートカップ。これでもか! と勝ちまくって2023年の学童球界を席捲した大阪・新家スターズ。主将の1年掛かりの劇的なストーリー以外にも、じんわりと心に沁むサイドストーリーがあった。結果として絶対王者の本質にも迫る、珠玉のストーリー『番外編』を、現場からの本年最終リポートとしてお届けしよう。 ※珠玉のストーリー『12歳の熱い365日』➡こちら※8月26日公開 (写真&文=大久保克哉) 不可解な打席中の交代  12月のポップアスリートカップ(ポップ杯)全国ファイナルの1回戦。新家は5回裏に3点を加えて、9対2でコールド勝ちを決めた。この最後の攻撃中に、ちょっと不可解な選手交代があった。  1点を入れてなお無死満塁で打席には5年生の山田拓澄(下写真)。夏の全国(全日本学童)でも一発を打ち込むなど、新チームの大黒柱となりそうな左のスラッガーだ。  その山田の3球目に、バッテリーミスから三走が生還して無死二、三塁に。カウントは2ボール1ストライク。ここで急に、打席の期待の星がベンチに下げられてしまう。  捕手も止められなかったワンバウンドのボール球。これを打席で見逃しただけで故障するわけがない。山田は第1打席でタイムリーを放ち、二盗も決めていた。だがもしかすると、その打席では3球目までに何らかのサインを見落とし、ペナルティで代えられたのかもしれない。試合後、千代松剛史監督に真相を尋ねると、まったく違う答えだった。 「いや、山田は何もミスしてないです。6年生のタイセイ(中野泰聖)という子に、出番をあげたかったんです。レギュラーやないけど頑張り屋で、お父さんお母さんもホンマに熱心で…」  新家の6年生は12人で、レギュラーは7人。夏の全国は準々決勝以降、5年生2人を含むスタメンの9人でやりくりをしながら勝ち抜いた。それほど、9人の力が抜けていたし、大目標の「日本一」へ勝負に徹した結果、控え組に出番はなかったということだろう。  だが指揮官の心の内には常に、最終学年の控え組5人のこともあったという。 「やっぱりね、この神宮という素晴らしい球場でプレーさせてあげたい。ここでやれたというのはホンマ、一生の思い出になると思うんですよ。だから正直、全員を出してあげたい。夏は全国2回戦(昭島球場)で6年生をほぼ使いましたけど、神宮やなかったし、6試合やって神宮は1試合(3回戦)だけでしたからね」(同監督)  カウント1-2からの代打。ベンチを出てきた背番号11、中野は右打席へ入る前にくるりとベンチを振り返り、白い歯を見せた(上写真)。 「初めての神宮でのプレーで、もう緊張して緊張して…。この大会も悔いのないように一生懸命に自分のやれることを頑張ろうと思っていたので、代打でもチームのためにと思いながら打席に立っていました」  一打出ればサヨナラ勝ち(コールド決定)という、絶好の場面。結果は死球でヒーローにはなれなかったが、チームのためにつなぎ役は果たした。振り返る中野は興奮気味にまくし立てた。 「ベンチとか、ランナーコーチで見るのと実際に打席に入るのでは、ぜんぜん違いました。やっぱり、ものすごい緊張でした!」  中野は続く2回戦でも、4回に代打で登場。結果は二飛も、忘れられない2打席になったという。 「これまでの人生で一番、心に残る日になりました。マクド(夏の全国)は1回だけ代打でダメ(一塁野選)やったし、今日のほうがちょっと多く出られたし、それも神宮やったので」 一時は移籍を申し出て  兄と姉がいる3きょうだいの末っ子。中野は4年生の半ばに、新家に入って野球を始めた。今夏の全国もこのポップ杯も、主な役目は一塁のランナーコーチ。よく似たメガネの選手がチームに2人いるが、中野のトレードマークはスボンの尻ポケットから顔を出している冷却スプレーだった。 今夏の全日本学童準決勝。124㎞左腕・藤森一生(東京・レッドサンズ)からチーム初ヒットを放った梅本陽翔とともに、一塁コーチの中野もガッツポーズ 「レギュラーになれず、悔しい気持ちも? それも思ったことあるけど、他の子がどんどんうまくなってきてるので、レギュラーになりたくても難しい環境でした」  夢は多くの学童球児と同じく、高校で甲子園に出場すること。だが、野球の腕前は下級生から始めていた主力組に大きく遅れをとったままで、体力面の差もなかなか埋まらない。そして実は、両親とともにチーム移籍を指揮官に申し出たこともある。だが、千代松監督のこんな言葉で踏みとどまったという。 「素晴らしい夢(甲子園出場)や。でも、よそに行ってただ試合に出るだけで叶う夢なんかな。このまま新家スターズにおってみんなと練習に励むほうが、キミの夢に近づけるのと違うか?」  いつも優しいだけの監督では決してない。最後の最後まで、自分たち控え選手のことまで気にかけてくれていた「親心」には気付かなかったという。ポップ杯優勝の表彰式の後、その指揮官の想いを伝え聞いた中野は泣きだした。「タイセイ、なんで泣いとるん?」「何に感動した?」と、仲間から口々にはやし立てられても堂々と、最後まで取材者の質問に答えた。 「監督のそういう想いは知りませんでした…日本一のメンバーになれたことに僕は誇りを持っています。これまでいつも支えてきてくれた、お父さんとお母さんにも感謝したいです」...

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【ポップ杯全国ファイナル/総括】やはり無敵だった新家。初Vで全国3冠締め

【ポップ杯全国ファイナル/総括】やはり無敵...

2023.12.26

 参加1440チームによる自主対戦方式の予選と、全国8ブロックの最終予選を経た14チームによる最終ステージ。第17回ポップアスリートカップは12月9日、10日に明治神宮野球場でファイナルトーナメントを行い、新家スターズ(大阪)が初優勝を飾った。夏の高野山旗と全日本学童大会を制していた新家は、これで全国3冠。今大会も危なげのない戦いで4試合を制し、夏王者の貫録を示す形となった。 (写真&文=大久保克哉) 優勝=初/新家スターズ(大阪)   準優勝/大崎ジュニアドラゴン(宮城)   3位/野沢浅間キングス(長野)   3位/岡山庭瀬シャークス(岡山) 新チームも見据えつつ 「全国」と名のつく大会でのV決定の幕切れも3度目とあってか、概ね安泰の勝ち上がりと内容がそうさせたのか。最後の打者を遊ゴロに打ち取ってから、マウンド付近に新家スターズの輪ができるまでに少々の間が生まれた。  貴志奏斗主将と山本琥太郎の胴上げバッテリーは抱き合うでもなく、近くで目を見合わせてニヤニヤ。そこへ内外野とベンチから仲間がなだれ込んできて「歓喜の輪」となるも、夏の大田スタジアム(全日本学童V決定時)にように涙や魂の雄叫びはない。塁審に促されてすぐに整列、挨拶となった。 新家の四番・山本は2回戦で2ラン、準決勝では先制犠飛(写真) 「最高です!」と異口同音に語った主力のV戦士たち。不動のリードオフマン・宮本一希は、最大タイトルの夏の全日本学童制覇以降の日々をこう振り返った。 「高野山旗とマクド(全日本学童)と近畿大会とポップアスリート(ポップ杯)の4冠をみんなで目指していたので、気が抜けるとかいうのはなかったです」 新家は新チームのエース候補・庄司七翔も1回戦から登板。貴重な経験を積んだ  終わってみれば、冬の全国舞台でも新家が頭ひとつ抜けていた。与四死球や落球、けん制死など、夏にはほぼ見られなかったミスも散見された。しかし、さらにミスを重ねて傷口を広げるようなことがなく、大勢に影響することはなかった。  6年生の卒団式は新年の3月だが、活動の主体は9月から5年生以下へシフトしている。準決勝以降は新チームの藤田凰介主将が従来の左翼ではなく、捕手でスタメン出場するなど、新年に向けた足場も固めつつの初Vだった。 昨夏日本一の石川・中条ブルーインパルスは2回戦敗退。倉知幸生監督(写真上=左)は、新家との対戦を期して開会式前に千代松監督と握手も…。新チームは5年生の北翔輝(下)らがリードしていく  夏以上に安定した投球が光った城村颯斗は、優勝の一番の要因を問われてこう答えている。 「守備が堅かったことだと思います」 牙城は崩せなかったが  新家と準決勝で戦った野沢浅間キングス(長野)と、決勝で戦った大崎ジュニアドラゴン(宮城)は、どちらも夏の全日本学童で初戦を突破していた。そんな実力者でも新家と相対すると、失点につながる手痛いミスが出てしまった。  野沢浅間は合併1年目、6年生はこれが最後の大会だった。 「チャンスはつくったんですけど、あと1本がなかなか。守りはちょっとバタバタしてしまったんですけど、同じ条件(朝露で濡れた人工芝など)でも新家さんはしっかりしてましたね」(戸塚大介監督)  それでも小山翔空主将が投打で奮闘(関連記事➡こちら)して劣勢ながらも好勝負に。そして学童野球最後の攻撃となるだろう、1対4で迎えた最終回には意地も見られた。五番・市川耀斗が左前打を放つと、続く高橋玲凰が四球を選び、重田志希も左前打(下写真)で一死満塁と、長打なら同点という場面までつくった。...

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【ポップ杯関東代表】 失意から這い上がってきたナイン。いよいよ全国初陣

【ポップ杯関東代表】 失意から這い上がって...

2023.12.08

 学童野球界の年内最後の全国舞台。第17回ポップアスリートカップ全国ファイナルトーナメントが12月9、10日に神宮球場である。わずか2枠の関東代表に入った宇都宮ウエストキッズ(栃木)は、合併5年目で初出場。この9月には、夏の全日本学童8強の簗瀬スポーツを決勝で破り、県下125チームの新王者に。初夏の失意もバネにした努力と成長が、今回の全国デビューにもつながっているようだ。 (写真&文=大久保克哉)  ※文中の試合記録は編集部 宇都宮ウエストキッズ 【栃木】 6年生メンバー ⑩石川維人 ①勝俣陽翔 ②高柳心翔 ③角田駿斗 ④君島壮祐 ⑤飯田陽春 ⑥根本一絆 ⑧渡邉哉汰 ⑨平本汰我 ※丸数字は背番号、⑩は主将。関東Vメンバーは他に5年生6人、4年生5人、3年生2人、2年生3人   ※『微笑みマイスター』主将の紹介➡こちら    年中無休の学童野球にも、ある程度の節目はある。秋が深まるにつれて、主役は6年生から5年生以下の新チームへと切り替わっていく。高校野球の夏ほどはっきりとした交代のタイミングがあるわけではない。年が明けても小規模な6年生大会を行う地域やチームも、あるにはある。  だが、多くは6年生の活動は12月まで。夏をもって卒団というチームも珍しくない。今夏の全日本学童大会に初出場でベスト8入りした栃木代表、簗瀬(やなせ)スポーツもそうだった。  全国大会後の8月終盤に開幕した栃木県下125チームによる巨大トーナメント、夏季大会の準優勝をもって6年生たちは卒団。彼らを率いてきた父親監督、松本裕功監督も一緒にユニフォームを脱いでいる。 「最後は手の内も知る相手に逆転されて、完全な力負けでした。優勝は逃しましたけど目標の最終日まで、あの子たちと野球ができたことに感謝。悔いなく終われました」(松本監督)  タレントが複数いたその簗瀬を、最後に打ち倒して夏の栃木王者に輝いたのが、宇都宮ウエストキッズ(以降、宇都宮ウエスト)だった。 ポップ杯の関東最終予選は初戦で先制打の四番・角田(写真)が、続く代表決定戦は最終回を無失点救援で締めた 「マック(全日本学童)が自分たちの目標だったんですけど、県大会の準決勝で簗瀬に負けてしまって。そこでみんなで目標を切り替えて、夏県(夏季県大会)で優勝して監督を胴上げしようと。実際にそれもできたのでうれしかったです」(石川維人主将)...