全日本学童大会

【1回戦《後編》】2ケタ得点も激減!!前年...
高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント。8月13日にあった1回戦のリポート後編は、長岡市の悠久山野球場での3試合の試合評のほか、見附市運動公園野球場での写真を交えて、全21試合の結果をお伝えしよう。本塁打の激減は前編で触れたが、2ケタ得点したチームも昨年の9チーム(全19試合)から、2チーム(全21試合)へと激減している。 (写真&文=鈴木秀樹) (写真=福地和男) ※全試合のリポートではありません ※※記録は現地編集部。後日、公式記録と照合して一部訂正する可能性があります ■1回戦/悠久山球場 ▽第1試合 戸尾、集中打で初戦を突破 [広島]3年ぶり2回目 原クラブ 001000=1 00303x=6 戸尾ファイターズ [長崎]2年連続10回目 【原】鹿田、百田-永瀬 【戸】佐保、柴田-藤永 三塁打/廣中(原) 二塁打/柴田、田川、藤永(戸) 【評】原が3回、廣中結都の三塁打を足掛かりに先制も、戸尾がその裏に佐保壱晟、柴田太郎、田川綾人、西啓之介の連打などで逆転。戸尾は5回にも田川、西啓、林大翔の連打などで3点を追加し、原を引き離して勝利。戸尾・松本大三郎監督は「得点機には打線がつながったけど、本来の力を考えると、まだまだ。なんとか長曽根(ストロングス・大阪)さんと戦うまで残りたい」、4年生からレギュラーで、一昨年は高野山旗、昨年は本大会でもプレー経験のある柴田主将は「緊張はありませんでした。3回と5回には打線がよくつながって、チームの良いところが出ました。この調子で勝ち進みたいです」と笑顔。(了) 試合は戸尾・佐保壱晟(上)、原・鹿田航志(下)、両先発の好投で幕を開けた 戸尾は0対1の3回裏、佐保、柴田太郎(上)、田川綾人、西啓之介(下)の連打などで逆転 ▽第2試合 西埼玉ガチガチも、初陣飾る [埼玉]初出場 西埼玉少年野球...
【1回戦《後編》】2ケタ得点も激減!!前年...

【1回戦《前編》】本塁打75%減!! 前年...
高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、雨天により、8月12日に7会場で予定された1回戦21試合が翌13日へスライドした。過去に優勝・準優勝している8チームは、すべて2回戦へ。1日遅れの無難な船出のなかで顕著となったのは、本塁打と大差決着の激減だ。本塁打は昨年の19試合で20本から、今年は21試合で5本に。是非はさておき、一般用の複合型バットの使用が禁止された影響は明白、といえそうな競技初日を前後半の2回に分けてリポートする。 (写真&文=大久保克哉) ※全試合のリポートではありません ※※記録は現地編集部。後日、公式記録と照合して一部訂正する可能性があります ■1回戦/阿賀野水原球場 ▽第1試合 多賀が甲斐の猛追かわす [山梨]2年ぶり2回目 甲斐JBC 000032=5 00521 X=8 多賀少年野球クラブ [滋賀]8大会連続18回目 【甲】豊泉、岩下-志澤泉 【多】高井、児玉、里見-大橋民、大橋煌 三塁打/中浦(多) 二塁打/中浦(多)、高橋(甲)、大橋民(多) 【評】スクイズ失敗(投飛)からの併殺やけん制死を奪うなど、序盤は甲斐の堅守が際立った。多賀には嫌な流れだったが、3回に打者一巡の猛攻で一掃する。大橋民紀太と中浦奏の連打に申告敬遠で一死満塁から、二番・奥野悠太が中前へ先制のタイムリー。さらに大塚堅史主将のバント安打、岡本律希の投ゴロ、小田悠陽の中前打とクリーンアップの連続打点で5対0とした。甲斐は5回から反撃スタート。5年生の代打・天野玄稀の右前打から好機を広げると、二番・岩下陽人の中犠飛と四番・高橋煌青の左越え二塁打で3点を返した。続く6回にも志澤泉悧主将の二塁打から打線がつながり、一番・白須大翔の中越え二塁打で1点差まで詰めたが、追撃もそこまで。甲斐の中込裕貴監督は「この時代でも、ウチは練習時間も長いし厳しい。よく耐えて頑張ってきた選手たちに勝たせてやりたかった…」と唇を噛んだ。(了) 序盤は甲斐の好守が光った。1回はスクイズを阻んで併殺(上)、2回には捕手の志澤泉悧主将(下)がけん制で一走をアウトに 3回裏、多賀は打者一巡の猛攻。まずは大橋民紀太の左前打(上)、中浦奏の右翼線二塁打(下)で一死二、三塁に 3回裏一死満塁から、奥野悠太(上)と小田悠陽(下)の2点タイムリーなどで多賀が5対0とする 5回表、甲斐は岩下陽人の犠飛と四番・高橋煌青の左越え二塁打(上)で3点。続く小林康介(5年)も逆方向へライナーを放つも、途中出場していた多賀の右翼手・近藤楓が好捕(下) 6回表、5点を追う甲斐は中込裕貴監督に送り出された代打・天野玄稀(5年=上)が右中間へ二塁打を放つ(下) 6回表、一死満塁と好機を広げた甲斐は白須大翔の中越え二塁打(上)で5対8に。最後まで諦めない姿勢が光った ...
【1回戦《前編》】本塁打75%減!! 前年...

【開会式】豪雨の間隙、新潟に集結53チーム...
高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは8月11日、HARD OFF ECOスタジアム新潟で開会式を行った。前線の影響で、連日の「警報級の大雨」予報が出ていたが、47都道府県のチャンプたちを歓迎するかのように、夕刻の式中は遠くに晴れ間も。前年度優勝と開催地代表を加えた53チーム1052人(登録選手)が、「小学生の甲子園」で入場行進した。なお、12日は予報通りの雨で、1回戦以降が1日ずつ順延し、決勝は18日の予定となっている。 (写真=福地和男、大久保克哉、鈴木秀樹) 「私たちは、野球が、大好きです!!」。庄野シリウス(三重)の横水英成主将が選手宣誓の最後に声を張ると、スタジアムが大きな拍手に包まれた 「私も小学生のときにこの大会を目標にしていましたが、かないませんでした…」。日米両球界で活躍した和田毅氏(元ソフトバンクほか)が、挨拶の後に始球式へ 始球式の打者は、前年度優勝の大阪・新家スターズの竹添來翔主将。捕手は開催地・新潟県代表の旭スポーツ少年団の塚田晄人主将が務めた ■出場53チーム ※大会プログラム順 しんげ 新家スターズ [前年度優勝/大阪]4年連続5回目 ゆうべつ 湧別マリナーズ [北海道北]15年ぶり2回目 ひがし 東16丁目フリッパーズ [北海道南]3年ぶり9回目 ひろさき 弘前レッドデビルズ [青森]初出場...
【開会式】豪雨の間隙、新潟に集結53チーム...

【直前最終展望《後編》左ブロック】常連組も...
高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会のプレビューも、いよいよラストの第10弾。3回戦までに強豪同士のつぶし合いも予想される、トーナメント表の左側の山を占っていきたい。こちらには過去の日本一が4、準優勝が2、3位が1チームずつ。またその中には、大会最多出場記録、最多連続出場記録を保持するツワモノも。全体の約半数を占める初出場組の絡みは見通せないが、真夏の最多6連戦は経験値がモノのをいいやすい。なお、直近5日内に紹介した、茎崎ファイターズ(茨城)と豊上ジュニアーズ(千葉)の詳しくは、そちらを参照いただきたい。 (取材&文=大久保克哉) ※各チームから提供の写真も使用しています。当メディアでは写真の二次利用を固くお断りしています 高校野球の“本家”甲子園では、今夏から日中の炎天下を避けての朝夕二部制が導入された。また2年前からは、正規の9イニングで決着しない場合には、即座にタイブレークへ入るルールに変更されている。 当メディアの読者であれば、二部制も特別延長戦も「小学生の甲子園」が先駆けであるのはご存知だろう。選手の健康や身体を優先するべく生まれたルールが、ノウハウを含めて上のカテゴリーへ。そういう流れがあるのかもしれないし、国民的な関心事でもある“本家の甲子園”には、軽々にルールをいじれないシガラミもありそうだ。 ともあれ、「小学生の甲子園」は、今年も運営面に新たな動きがある。従来は一部の会場であった1日4試合を取りやめ、どの会場も3試合または2試合に。昨年まで3年間続いた、ナイトゲーム(17時55分開始)が廃止された。 昨年は大接戦となった第4試合のナイター(=上写真)が、ゲリラ豪雨と時間帯からして続行不能となり、翌朝の「特別継続試合」となるイレギュラーがあった。当メディアは『歴史的な名勝負』として報じた(➡こちら)が、20時過ぎまで球場にいた小学生が、12時間後の朝にはガチンコの戦い中というのは、相当に過酷でもあったようだ。 当事者の一人、北名古屋ドリームス(愛知)の岡秀信監督は「抽選ではなく、決着するまで試合をやらせていただいたことに感謝しかないですし、相手も同じ条件でしたので負けの言い訳にもとられたくない」と前置きした上で、私見を述べてくれた。 「ナイターの翌朝は疲労だけではなく、諸々の準備など難しさもありましたので、ナイターがなくなれば、勝ち上がりチームも確実に楽になるでしょうね」 2回戦で黄金カード!? さて、その岡監督が率いる北名古屋もいる、トーナメント表の左側のブロック。こちらには馴染みの強豪チームがごそっといて、勝ち上がりの予想が極めて困難だ。何せ、過去のVチーム同士の激突が、2回戦、3回戦と立て続けに実現する可能性がある。 『学童甲子園』で目下11連勝中の新家スターズ。写真は大会連覇を遂げた昨夏のメンバー しんげ 新家スターズ [前年度優勝・大阪/1979年創立] 出場=4年連続5回目 最高成績=優勝/2023年、2024年 初出場=2017年/2回戦 【全国スポ少交流】 出場=3回 優勝=2回/2015、19年 左ブロックでも究極の“死の山”にいるせいか、大会2連覇中の新家スターズの指揮官は、抑え気味のトーンに終始している。 「今年は前年優勝枠の出場で、大阪大会では負けてますし(4強)、交流のある強豪のみなさんの胸を借りるつもり。当たって砕けろ! という感じです」(吉野谷幸太監督=上写真右) 新家は昨年も前年V枠の出場ながら、あえて府予選も制してきての全国2連覇達成だった。怪物クラスはいなくても、走攻守のいずれも磐石な“整い野球”は過去2年、他の追随を許さなかった。昨年は九番・右翼でプレーした竹添來翔が、今年は主将を務めている。6年生は女子を含めて5人と、若いチームがどこまで磐石に近づけるか。ひとつのカギはそこにありそうだ。 たが 多賀少年野球クラブ...
【直前最終展望《後編》左ブロック】常連組も...

【直前最終展望《前編》右ブロック】長曽根が...
「小学生の甲子園」こと高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは8月11日、新潟県のハードオフエコスタジアム新潟で開会式を行う。53チームによる巨大トーナメントは翌12日に始まり、17日には2025年のチャンピオンが誕生する見込み。開幕までの『特ダネ』プレビューは、トーナメント表を左右に分けての大展望(前・後編)で締めとしよう。なお、今年も全都道府県の予選を取材できていないので、あくまでも観戦や応援の参考に。 (取材=大久保克哉、鈴木秀樹) (文=大久保克哉) ※各チームから提供の写真も使用しています。当メディアでは写真の二次利用を固くお断りしています トーナメント表の左半分(ブロック)に、実績のある強豪チームが集まる――。全国大会の常連チームや名将たちの間では近年、都市伝説より信憑性のある現象として囁かれているが、今年もその傾向が顕著となった。 過去の優勝チームは6チームあるが、そのうち4チームが左側の山に。さらにベスト4以上(優勝を除く)は、4チームのうち3チームが左側だ。序盤戦から激しいつぶし合いが予想されるが、大展望の前編は右側のブロックに焦点をあてたい。 3回以上のVを唯一 トーナメント表の左右も関係なく、突き抜けているのは大阪の長曽根ストロングスだ。過去7回の優勝は、孤高の史上最多記録。44回の大会史の中で、複数回の優勝は他に3チームあるが、3回以上のVとなると長曽根しか達成していない。 ながそね 長曽根ストロングス [大阪/1988年創立] 出場=3年ぶり18回目 最高成績=優勝7回※最多記録/2002年、2003年、2005年、2011年、2015年、2016年、2021年 初出場=2001年/ベスト4 【全国スポ少交流】 出場=3回 優勝=1回/2024年 7月末の高野山旗(和歌山県開催)も制して乗り込む今大会で、V記録の更新はなるか。以下は、熊田耐樹監督(=上写真)のコメントだ。 「全国大会では、どの試合も気が抜けへんけど、組合せ表を見て最初に思ったのは、お互いに勝ち上がれば3回戦で当たる、不動パイレーツ(東京)戦やね。年明けの試合(長曽根主催の『目指せ!新潟・スポ少2025』2DAYS IN SUITA)では、いい試合をしたけど負けた。なんとかそこまで行って、今度は勝ちたい。新潟は2021年に優勝した、ゲンの良い場所。それにもあやかって、勝ち上がれたらいいなぁ思うてます」 打線をリードするのは、長打力もある岩﨑海斗。森川壱誠主将は制球力が高い投手で、遊撃手の月田拓斗と中堅手の畑中零生が守りの要になっている。 長丁場でポイントは… 右側のブロックには今大会の出場チームで唯一、「昭和時代」に日本一を遂げているチームもいる。牛島野球スポーツ少年団(秋田)だ。 初出場は1985年で、翌86年に優勝。さらに1994年、1997年と出場も、優勝年以外は白星なし。28年ぶりの出場となる現チームに、昭和の輝きを知る人物はいるのだろうか。今大会で取材したいチームのひとつだ。 ふどう...
【直前最終展望《前編》右ブロック】長曽根が...

【茨城県代表/3年連続12回目】茎崎ファイターズ
伝統の堅守とつなぐ攻撃が復活した今年は、過去2年とは異質の強さと安定感がある。3年連続12回目の全国出場を決めた際には、2人が泣いていた。1人は裏方や盛り上げ役に懸命だった生え抜きの6年生、そして背番号30番だ。指導キャリアは30年。2001年の全国デビュー以降はおそらく、大会や人前ではそうそう見せなかっただろう指揮官の涙の理由とは――。名将・吉田祐司監督の横顔と、全国に轟く強豪チームの真髄に迫ってみたい。 (写真&文=大久保克哉) ※茨城大会決勝リポート➡こちら 名将の涙の深いワケ。“関東の雄”は原点回帰で一戦必勝 くきざき 茎崎ファイターズ [茨城/1979年創立] 出場=3年連続12回目 初出場=2001年 最高成績=準優勝/2019年 【全国スポ少交流】 出場=2回 【県大会の軌跡】 1回戦〇5対1上辺見ファイターズ 2回戦〇7対0宗道ニューモンキーズ 3回戦〇10対1吾妻少年野球クラブ 準決勝〇5対0嘉田生野球スポーツ少年団 決 勝〇8対0楠クラブスポーツ少年団 「ユウジの『ユウ』の字は、のぎへんに右で間違いないですね?」 「はい、そうです」 3年連続12回目の全国出場を決めたばかりのベンチ内。失礼にもほどがある記者の不適切な愚問にも、吉田祐司監督は表情ひとつ変えず、どこまでも穏やかに丁寧に応じていた。 過去の栄光より目の前 これまでに手にした全国舞台でのメダルは4つ。2008年、11年、17年が銅で、2019年に銀メダル。これほどの実績を築きながら現存するチームは、関東では他にないことから、“関東の雄”と呼ばれて久しい。また、その大功労者でもある吉田監督は、指揮官となって四半世紀を超え、全国にも轟く名将だ。 ただし、同じ野球界の名将でも、高校野球と学童野球とでは、知名度も関心度も雲泥の差がある。国民に広く知られる人もチームも、学童球界には存在しないのは昔からだ。 それゆえ、大手のメディアは門外漢の記者も現場へ平気で送り込む。そして冒頭のような質問も、悪びれるでもなく堂々と。吉田監督は慣れもあるだろうが、冷静でいられるのはきっと、高校の名将にも劣らぬ器と人間性の持ち主だからだ。 吉田監督が大会会長を務める東日本交流大会は、茨城県を舞台に2003年に始まった。県内外のチームに交流が広がり、全国予選の試金石ともなっている。写真は今年4月6日、第21回大会の閉会式...
【茨城県代表/3年連続12回目】茎崎ファイターズ

【千葉県代表/2年連続6回目】豊上ジュニアーズ
チーム史上「最強」と胸を張れる戦力が整っている。1年前の全国8強の体験者が3人。100㎞超を常時投げる左腕が2枚いて、右腕もおそらく同数。サク越えできる打者は少なくとも4人いる。これだけ役者がいても依存し切らず、優勝旗のコレクションで悦に入らないのは、経験豊富な名将が率いているからだろう。下級生も交えて激しくポジションを争う過程では、悪夢のような大逆転負けもあったが、それもきっと名将の想定内。新チーム始動時から『天下獲り』を公言してきた豊上ジュニアーズが、満を持して大本命の舞台に立つ。 (写真&文=大久保克哉) ※県決勝リポート➡こちら 名将と天井知らずの“最強世代”。至上の頂へ1年計画が遂行中 とよがみ 豊上ジュニアーズ [千葉/1978年創立] 2年連続6回目 初出場=2016年 最高成績=3位/2019、21年 【県大会の軌跡】 1回戦〇25対0千葉市原マリーンズ 2回戦〇7対1ASAI KIDS☆UNITED 準決勝〇16対1エースライオンズ 決 勝〇15対0匝瑳東ベースボールクラブ 柏の名将もうひとり 「チームは生きもの。ちょっとしたことで良くも悪くもなるし、危機感は常に持っています」 これはサッカーの元日本代表監督、西野朗氏から直接に聞いた言葉だ。Jリーグの最多勝利監督であり、1994年のアトランタ五輪で王国ブラジルを撃破、2018年のロシアW杯では日本最高成績の8強へ導くなど、数々の偉業を遂げた名将。1990年代の終盤には千葉県の柏レイソルを率いて、初タイトル(1999年ナビスコ杯)をもたらしたが、2001年のシーズン中に成績不振で解任という憂き目も経験している。 豊上ジュニアーズは同じ柏市内で、プロサッカーチームよりずっと古くから活動している。ごく一般的な地域のチームに訪れた転機は、2006年だったのかもしれない。2019年から2大会連続で全国3位など、チームを全国区の強豪へと昇華させた髙野範哉監督が、初めて指導者(父親コーチ)となった年だ。 都合6回目の全国出場を決めた今年は、かつてないほどに名将の鼻息も荒い。昨秋の新人戦に続いて、6月の全国最終予選も「千葉に敵なし!」をぶっちぎりVで証明。その決勝の直後、応援にきていた保護者や関係者や低学年生らを前に、髙野監督はこのように挨拶した。 「今日は子どもたちのことは、みなさんで胴上げしてあげてください。ボクはいいです。この代は全国優勝を目指してスタートしているので、ボクは全国優勝したらお願いします。ホントに本気で全国優勝を目指していますので、応援をよろしくお願いします(※一部抜粋)」 少なくとも、そこに数十人はいだだろう。自ずと巻き起こった大きな拍手が、改装オープンから間もない国府台スタジアムの外壁にも反響。濁りも忖度もない、期待と確信の音色だった。 ストレートにものを言う指揮官は、心にもないことを口走って場を取り繕うような御仁ではない。おそらく、そこにいた大多数がそれも知っている。挨拶ではまた、5年生と4年生たちに向けて、名将はこうも言った。 「いいか、何度も言ってきてるけど、簡単には全国大会には行けないんだからな。去年だって、頑張って頑張ってやっとだった。今年は最初から『必ず行く』と言ってきたけど、これが普通じゃないからな」...
【千葉県代表/2年連続6回目】豊上ジュニアーズ

【東京都第1代表/3年連続6回目】不動パイレーツ
エネルギッシュで熱い指揮官だが、ビハインドの展開や窮地では特に、ベンチに鎮座していることが多い。それでも選手に伝えるべきは、しかるべき言葉とトーンで確実に。そういう“不動心”が顕著となってきた今春から、チームは伝統とも言える“ミラクル”を演じ始めた。2019年に東京勢の永年の壁だった「全国8強」を打ち破り、さらに2023年には銀色のメダルに輝いた。今夏、また新たな歴史を築くとすれば、ゴールは一つしかない。『破壊王』の異名もとった、故人の名言が浮かんでくる。時は来た、それだけだ!!――。 (写真&文=大久保克哉) ※都知事杯決勝のリポートも近日、掲載します 人心も試合も動かす30番。新潟の夏空でも舞わんと“ミラクル”発動 ふどう 不動パイレーツ [目黒区/1976年創立] 3年連続6回目 初出場=2016年 最高成績=準優勝/2023年 【全国スポ少交流】 出場=なし 【都大会の軌跡】 2回戦〇4対1東村山3RISEベースボールクラブ 3回戦〇9対0小作台少年野球クラブ 準々決〇6対2国立ヤングスワローズ※リポート➡こちら 準決勝〇7対3船橋フェニックス※リポート➡こちら 決 勝〇14対5越中島ブレーブス※リポート➡こちら ボールボーイも颯爽と 背番号30がファウルボールを拾いに走る――。 それも1度ならず、3球連続でも即座に平然と。しかもその試合は、東京都軟式野球連盟主催の伝統の大会、都知事杯の決勝という舞台であった。 驚いたり、感心した観戦者も少なからずいたことだろう。その激レアなシーンこそは、今年の不動パイレーツの成長の要因を物語ってもいた。ベンチの大人たちの変化によって、子どもたちが活躍しやすい土壌が生まれ、やがて“ミラクル”を巻き起こすまでのチームへと昇華してきたのだ。 実は都知事杯の決勝と同日の同時間帯に、彼らは別の大会もあり、登録メンバーの6年生14人のうち5人と、5年生1人がそちらの試合へ。全国予選に続く「東京二冠」がかかった一戦は、ギリギリの10人で臨んでいた(=上写真)。 スタメンは前月の全国予選決勝とほぼ同じながら、指名打者の上田廉は5年生チームの主将でもあることから、別会場の大会へ。右サイドハンドから100㎞超の速球も動じる木戸恵悟が、打線の九番に入った。 都知事杯決勝。唯一ベンチスタートの背番号11・岡田は、左翼手の北條とのキャッチボール相手を務め(上)、最終6回に登板した(下) ベンチに控える1人、岡田大耀は勝ちゲームを締めることが多い、右の本格派だ。真夏の炎天下でボールボーイなど裏方役を丸投げして、いたずらに消耗させるのは得策ではない。...
【東京都第1代表/3年連続6回目】不動パイレーツ

【東京都第2代表/9年ぶり2回目】越中島ブ...
東京湾へ拡張しながら、工場・倉庫・宅地の整備など、開発ラッシュに沸いた戦後の東京・江東区。1986年創立の越中島ブレーブスは、団地群の子ども会から派生したという。9年ぶり2回目の全国出場を決めた今日も、都市部ゆえに活動は週末のみ。父親監督が伝統で、顔ぶれは毎年違う。それでも変わることなく地域に愛され、人々に応援されている。またこの春からの急成長にも、しかるべき理由があった。6年生10人を主体とするチームの栄光のストーリー。その源流の最初の1滴は、指揮官が行きつけの飲食店でもらったという、小さな遊び用のグラブだったのかもしれない。 (写真&文=大久保克哉) ※都決勝リポート➡こちら ※※京葉首都圏江戸川大会準決勝リポート➡こちら 愛され、親しまれる伝統。ゼロから学んだ父親監督と6年生10人の“栄光ロード” えっちゅうじま 越中島ブレーブス [江東区/1986年創立] 9年ぶり2回目 初出場=2016年(1回戦) 【全国スポ少交流】 出場=なし 【都大会の軌跡】 1回戦〇4対3高輪クラブ 2回戦〇6対0日の出ジュニアファイターズ 3回戦〇7対6立川メッツ 準々決〇10対0小平小川ベースボールクラブ 準決勝〇9対5レッドサンズ 決 勝●5対14不動パイレーツ なぜ、貧打を返上できたのか 「『この大会で絶対に成長するよ!』と、子どもたちに言い続けてきたら、ホントにそうなって、目がどんどんギラギラと…。各バッターが、速い球にもぜんぜん負けなくなったのが大きかったですね。ホントに最高の夏になるかなと…」 全国最終予選の東京大会を総括する、長島拓洋監督の目は潤みがち。およそ3カ月ぶりに取材した筆者には、その成長ぶりが驚きだった。何しろ2月の時点で、指揮官はこう漏らしていたのだから。 「打てないでしょ、ダメでしょ!? みんな体がちっちゃいから、パワーで負けちゃう。良い当たりはあるけど、ひと山(内野)を越せないんですよ」 2月の京葉首都圏江戸川大会準決勝は、四番・石原の左中間安打(上)のみで、完封負け。見逃し三振も複数あった それがどうだ! 5月に開幕した東京大会では1回戦から、外野へもどんどん打球を飛ばしていたし、ホームランも生まれた。終わってみれば、全6試合のうち5試合で5得点以上を挙げていた。...
【東京都第2代表/9年ぶり2回目】越中島ブ...

【神奈川県代表/初出場】川和シャークス
激戦の神奈川県の中でも、横浜市はとりわけ、全国レベルの強豪が名を連ねる。その中で、長きにわたりその名を響かせてきた川和シャークスが、悲願の全国大会出場を決めた。それも、市予選で敗れた戸塚アイアンボンドスに雪辱を果たして──。とはいえ、「選手たちの将来につながる経験になれば」と、指導陣はあくまで自然体。120km左腕・阿部孝太朗主将を中心に戦うチームが、初の大舞台で、どんな輝きを放ってくれるだろうか。 (写真&文=鈴木秀樹) ※県決勝リポート➡こちら 安定の投手力と守備で難敵を倒し、初の全国切符 かわわ 川和シャークス [横浜市都筑区/1977年創立] 初出場 【全国スポ少交流】 出場=なし 【県大会の軌跡】1回戦〇13対0三田フレンズ2回戦〇7対1船越ファイターズ準々決〇11対1南町ブルーシャークス準決勝〇0対0野川レッドパワーズ※抽選勝ち決 勝〇6対4戸塚アイアンボンドス 創立48年、初の夢舞台へ 横浜市大会では敗れていた難敵・戸塚アイアンボンドスを下し、初の全国大会切符を手にした。「ことしのチームで5度目の対戦。これまで4戦はすべて、戸塚さんに負けていたんです」と成田辰徳監督は振り返り、「それにしても、よく戦ってくれた」とナインをねぎらった。 6年前、この大会(第39回大会)で決勝進出を果たしながら、三田フレンズに敗れ、準優勝に終わっている。当時も指揮を執っていた成田監督が振り返る。 「あの年は自信あったんですけどね。緊張もあってか、決勝では勝てなかった。それ以来、この大会への思いはあったんですよね」。とはいえ、「誤解してほしくないのは、もちろん、大会、試合となれば勝利を目指しますし、ベンチも選手も一丸となって戦いますが、僕自身は、結果にそれほどこだわっているわけではないんです。選手たちの成長につながってくれるような野球ができれば、それがベストだと思っています」 この数年は、同じ横浜市でも、この日決勝で対戦した戸塚アイアン、昨年の全国大会代表の平戸イーグルスなど、戸塚区のチームの躍進が目立っていた。5年生だった昨秋の新人戦で県大会を制した平戸を超える!を合言葉に、冬場の練習に取り組んできた川和ナイン。今大会では、横浜市予選決勝で敗れた戸塚アイアンへの雪辱を胸に県大会に臨み、この優勝で古豪健在を十分に示した。 3点あれば勝てるチーム 決勝こそ三番・吉本結楽の豪快な本塁打で試合を決めたが、「本来は、細かくつないで得点につなげるのがチームカラー。走塁に力を入れていますし、バントもしっかり練習しています」と成田監督。今大会もコツコツと積み上げた得点が、チームを頂点に導いた。 加えて、準決勝、決勝のダブルヘッダーとなった最終日も、投手力と守備力が光った。決勝の最終回には戸塚に4点を奪われ、「さすがに戸塚さんを完封することはできなかったですね」と振り返る指揮官だったが、この大会では、1回戦から、0対0の抽選で終わった準決勝までにおける、4試合での総失点はわずか2。「守り勝つのが、ウチの理想の展開ではありますね」 ダブルヘッダーでは、投手層の厚さも勝敗の大きな要因となるが、準決勝で先発した田村大翔、決勝で先発した吉本(=上写真㊨)、そして2試合ともにリリーフした阿部孝太朗主将(=同㊧)の全員が好投した。以下、成田監督の弁。 「決勝で先発した吉本は、本来はキャッチャー。迷った末に、戸塚打線には彼が良いのかなと思い、決断しました。阿部はウチのエース。良い時も悪い時も、結果はすべて君にかかっているんだよと、少し厳しいんですが、常にそう言ってきました」 投打二刀流で優勝に貢献した吉本は「準決勝はピッチャーとキャッチャーが逆で、僕がキャッチャーで、田村君が先発でした。決勝では、その田村君が『信じて投げてこい』と言ってくれたので、彼の構えたミットをめがけて、思い切り投げるだけでした」と振り返る。 全国を決める決勝弾となった3ランについては「前の打者(阿部主将)が申告敬遠されて、絶対打ってやる、と思ったんです。ど真ん中だったので『来た!』と思って、満振りでした!」。全国大会でも一発が期待されるが、「ホームランを狙うわけじゃないけど、ほかの県の代表の良いピッチャーからヒットを打ちたいです」と声を弾ませた。 決勝もリリーフ登板し、優勝投手となった阿部孝太朗主将は、準決勝で球速120㎞をマーク。「自己最速です。自分でもびっくりしたけど、自信になりました」。決勝では徐々に強くなった雨の影響もあり、苦しいマウンドとなったが、「リードがあったので、最後まで投げたいと思って、とにかく1球1球に集中しました」。 成田監督からは「ピッチングよりも、打撃に器の大きさを感じている」と評価されている主将は、全国大会に向けてこう語っている。 「全国大会は強い相手ばかりだと思うけど、僕らも良いチーム。守備もいいし、3点あれば勝てるチームだと思っているので、全力で戦って、目標はベスト8です」 【県大会登録メンバー】※背番号、学年、名前⑩6 阿部孝太朗②6 田村 大翔⑤6 吉本 結楽⑱4 木塚 駿翔①6 鍛治 世翔④6 福田 啓人⑥6 谷口 蒼馬⑫5 岡 涼介⑰4 前田 大翔⑳4 間瀬 拓海③6 山脇 湊人⑦6 草刈 一颯⑧6 亀井 大翔⑨6 折原 悠真⑬5 亀井 琉音⑭5 阿左美奈知⑮5 川津 椋輔⑯4 林 陽向⑲4 植田 瑛斗㉑4 太田怜士斗㉒4 山本 蓮
【神奈川県代表/初出場】川和シャークス

【プレビュー❸ここだけの特ダネ】出場全53...
高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント(以下、全日本学童)の開幕まで41 日。『学童野球メディア』では、今年もすでに特報をスタートしていますが、6月30日で47都道府県の予選大会がすべて終了し、出場全53チームが決まりました。ではあらためて、出そろった顔ぶれを過去の全国2大大会の実績とともにお届けしましょう。開幕日8月11日の前日までのプレビューでは「ここだけの特ダネ」として、予選大会を踏まえた出場チーム・注目選手の紹介、7月23日の組み合わせ抽選を経ての展望や見どころなどをお伝えしていきます。 (写真&文=大久保克哉) ※大会の歴史や方式などは2023年プレビュー❶参照➡こちら ※一覧表ダウンロード➡こちら 「小学生の甲子園」は2009年から昨年まで、東京都で固定開催されてきたが、今年から全国9ブロックの持ち回り制に移行。今夏は新潟県が開催地となり、8月11日にHARD OFF ECOスタジアム新潟で開会式を行い、翌12日から8会場でトーナメント1回戦が始まる。6日間で52試合を一気に消化し、荒天などのアクシデントがなく順調に進めば、8月17日に2025年の学童日本一チームが誕生する。 唯一無二のチャンピオンシップ大会 今日では「全国」と称する大会が多数あるが、昭和の時代から学童球児の憧れであり続けるメジャーな夢舞台はふたつしかない。この全日本学童大会と、日本スポーツ協会が主催する全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で、いずれも8月に開催されている。後者の大会は、今年度から「エンジョイ!野球フェスティバル」に改称しているが、簡単に言えばスポーツ少年団の全国大会のこと。そこで、出場全53チームの一覧表には例年通り、両大会の出場実績を入れている。 全日本軟式野球連盟(JSBB)に加盟する学童チームは、8680(2024年度)。その全チームに等しく予選参加資格があり、47都道府県での予選を制した優勝チームによる真のチャンピオンシップとなる「全国大会」は、今も昔も全日本学童大会だけだ。 ここ20年は加盟チーム数の減少傾向が強まるばかりで、2022年度にはついに大台の1万割れ。それでもまだ、予選参加規模は日本のスポーツ界でおそらく第1位(団体競技)。予選突破の至難さは例年、半数近くが初出場チームであることからも読み取れる。 今年は開催地の新潟県から4チームが出場することで、全体でも昨年までより2チーム増の53チーム。このうち、初出場は26チームで、2022年から31、25、25とほぼ同数で推移している。 過去の日本一チームは6 過去の優勝チームは、昨年まで3年間は「4」で推移してきたが、今年は6チームに増えた。中でも最古の優勝チームは牛島野球スポーツ少年団(秋田)で、1986年の第6回大会(当時の参加は27チーム)を制している。初出場は前年の1985年(1回戦敗退)で、これが今大会出場チームの中で最も古い出場記録となる。1997年以来28年ぶり5回目の出場を決めた現チームに、39年前の日本一や40年前の初出場時を知る人物はいるのだろうか。 最多優勝は長曽根ストロングス(大阪)の7回。これは大会記録で、直近の優勝は2021年になる。2010年に優勝した常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)は、保持する最多出場記録を「24」に更新している。また、平成の最終年と令和の元年にかけて連覇を遂げた多賀少年野球クラブ(滋賀)は、大会新記録となる「8大会連続出場」を決めた(※コロナ禍で非開催の2020年を挟む)。 目下、2連覇中の新家スターズ(大阪/前年度優勝)は、史上初の3連覇への挑戦権を得ている。2016年にベスト4、翌17年に優勝と、北海道勢の歴史を塗り替えてきた東16丁目フリッパーズ(北海道南)は、3年ぶりに夢舞台に戻ってくる。 巨大トーナメントの組み合わせ抽選は、7月23日(水)の14時から。ここ何年かは左ブロックに有力チームが固まる傾向にあったが、今年は果たして――。開幕前日まで、マニアックなプレビュー「ここだけの特ダネ」をお届けしていきたい。
【プレビュー❸ここだけの特ダネ】出場全53...

【埼玉県代表/初出場】西埼玉少年野球
ついに重い扉をこじ開けた。全国最終予選のトーナメントに参加する半数以上が地域選抜チームとなる埼玉県にあって、単独チームが勝ち抜くのは容易ではない。飯能市を拠点とする西埼玉少年野球が、今年はそれをやってのけた。秋の新人戦では2回の県制覇があるが、夏の全国予選を制したのはこれが初めて。 (写真&文=鈴木秀樹) ※県決勝リポート➡こちら にしさいたま 西埼玉少年野球 [飯能市/1973年創部] 初出場 【全国スポ少交流】 出場=なし 【県大会の軌跡】2回戦〇7対4山野ガッツ3回戦〇7対3山王御狩場ヤンキース準々決〇10対1新所沢ライノーズ準決勝〇8対4吉川ウイングス決 勝〇7対5東松山野球スポーツ少年団 ついに…悲願の全国へ! 「やった!やった……!!」 優勝が決まると、西埼玉少年野球・綿貫康監督はあふれ出る涙を拭うこともなく、「ありがとう!」と隣にいた香川宣廣コーチと抱き合い、悲願達成を喜んだ。そして、表彰式後にはナインの前に呼ばれ、声を振り絞った。「本当にありがとう!」 チームの転機は、2019年だった。 西埼玉はこの年の秋、新人戦で県大会初優勝を果たして関東大会に出場。このときに関東王者に輝いたのは、荒井優聖主将(現・智弁和歌山高2年)を擁して「最強世代」といわれた千葉・豊上ジュニアーズだった。準優勝は茨城・茎崎ファイターズ、3位は神奈川・平戸イーグルスと東京・レッドファイヤーズ。西埼玉は初戦で豊上に敗れ、大会を終えている。 それでも、この大会での経験は綿貫監督に衝撃をもたらした。 前身の精明スワローズ時代から20年以上の指導歴がある綿貫康監督だが、チームは長いことスポーツ少年団の活動に限られ、軟式野球連盟主催大会の出場経験は少なかった。全日本学童大会(マクドナルド・トーナメント)で真の日本一を目指す、他県の強豪チームとの対戦経験はなかったという。 綿貫監督自身、社会人軟式・大陽ステンレススプリングの選手として、1986年に高松宮杯全国大会優勝経験を持つ。指導者としても西埼玉で「育てながら勝つ」野球を目指してはきたが、関東大会で「学童でも全国を目指し、こんな高いレベルで競う世界があるのか」と肌で感じた経験は、「これまでの自分のチームづくりの方針が間違っていなかったんだと、あらためて身震いさせられるくらいの思いだったんです」。 その後は毎年、夏の大一番に目標を定め、チームづくりに邁進する日々。指導育成の骨子は変わっていない。「選手の骨格や身体の強さ、柔軟性も見た上で、投手をはじめ、複数のポジションを経験させる」のが綿貫流だ。厳しいが、丁寧なアプローチに選手自身や親たちの熱も加わり、常に県で上位を争う存在となった。 とはいえ、埼玉も全国大会の上位経験がある東松山スポーツ少年団、熊谷グリーンタウンをはじめ、強豪ひしめく激戦の地。毎年のように優勝候補の一角に挙げられながら、届かない年が続いたが、今回、その思いがついに実を結んだのだった。 主将中心に個性派がそろう ことしの西埼玉のチームづくりのポイントは、一も二もなく、主将に香川幹大を選んだことだろう。 投げては伸びのある速球をビシビシとコースに投げ分ける。打っても一番打者として、県大会最終日の準決勝、決勝でいずれも4打数3安打、計「8の6」と、非の打ちどころがない活躍。試合外の立ち居振る舞いを見ても、そのキャプテンシーは疑いのない香川だが、西埼玉には昨年秋に入部した移籍選手である。「ウチに来たときから、実力的には抜けていました」という綿貫監督の言葉に疑いはないが、入部からまだ日が浅い年明けには、もう主将指名を決めていたのだというから驚く。「僕はこのチームに入ったのが遅かったし、僕が入ったことで、試合に出られなくなった子もいたと思う。最初は遠慮する気持ちもありました…」 香川主将本人が振り返るとおり、彼自身にもそれ以外の選手や、おそらく保護者にも、感情的に難しいところはあっただろう。それを払拭したのは、指揮官の迷いなき決断にあったのではないか。 「本人を見ていれば、当然の選択なんです。実力はもちろんですが、何ごとも常に先頭に立ってやるし、とにかく手を抜かない。それでいて悲壮感がない。すべてを楽しんでいる。気がついたら選手たちばかりでなく、私も後ろをついていかされるくらいなんです」 結果的に、この即断が後押しする形で、香川主将は自信をもって本来の長所を発揮できるようになり、さらにその姿がチーム全体を感化したことで、その結束力が高まる結果につながったのだろう。チームの目標も明確になった。 投手の育成をチームの基本に置く西埼玉だけに、香川以外にも好投手がそろう。「埼玉県大会は最終日、常にダブルヘッダーで試合をします。それに対応できるよう、ウチは6年生投手が4人いて、5年生にも投げられる子がいます」と指揮官。打線もパワーのある水村玲雄を筆頭に新井一翔、早川暖真の中軸、さらに攻守にセンスあふれる捕手の矢澤凌ら、個性ある実力派がそろう。 ついに出場を決めた、真夏の大舞台。綿貫監督は「一球一球、一試合一試合を、慢心することなく戦うだけです。あとは選手たちが楽しんで、実力を発揮してくれれば……」と新潟での戦いに思いをはせた。 口にしなかった、その言葉の続きは「上位進出はおのずと見えてくるはず」、といったところだろうか。全国大会でも間違いなく上位候補に挙がりそうな、ことしの西埼玉だ。 【県大会登録メンバー】 ※背番号、学年、名前 ⑩6 香川幹大 ⓪6 新岡幸伸 ①6 磯部煌稀 ②5 柴田 有 ③6 早川暖真...
【埼玉県代表/初出場】西埼玉少年野球

【群馬県代表/初出場】新里スターズ
1点を確実に奪うための戦術が浸透している上に、作戦が成功しなくてもリカバリーする勝負強さを備える。創部40年目の新里スターズは、志願の復帰を果たした5年目の指揮官の下で、全国初出場を決めた。そこへ至るまでには、どうしても超えられなかった壁があり、それを打破するために100%の準備もしたという。そして指揮官が求めてきた、100点満点のフィナーレも待っていた。登録19人のうち6年生が8人。ひと夏の夢で終わらず、このチームにはまだまだ人が集まってくることだろう。 (写真&文=大久保克哉) ※県決勝リポート➡こちら ※※県準決勝リポート➡こちら 復帰5年目の監督と、準備100%で壁も打破、堅実野球で夏の夢舞台へ初見参 にいさと 新里スターズ [桐生市/1985年創立] 初出場 【全国スポ少交流】 出場=なし 【県大会の軌跡】 1回戦〇7対3子持・渋川・北橘合同 2回戦〇4対3利根沼田イーストジュニア 準々決〇9対4群馬ワールドウイングス 準決勝〇3対0オール東大利根 決 勝〇4対1上川ジャガーズ Wの雪辱から夢心地 「やりました!ホントにすげぇ、ありがとうございます!」 それこそ夢見心地というものだったのかもしれない。群馬大会を初制覇した直後の田上健次郎監督は、どこか他人事のようにそう呟いたのが印象的だった。 全国予選でチームとして目指してきたのは、「県ベスト8の壁」を打ち破ることだったという。昨秋の県新人戦も、今年の春休み中の県選抜大会も、準々決勝で敗退していたからだ。その悔しさをモチベーションとするだけではなく、新たな取り組みにも着手。県内各支部の代表32チームによる全国予選の組合せが決まってからは、対戦相手の投手をリアルに仮想してのマシン打撃に時間を費やしてきたという。 田上監督は「父親監督」を3年間務めて一度は息子と卒団。3年後、自ら志願して指揮官に復帰して5年目になる 以下は田上監督の弁。 「2回戦と準々決勝は、それぞれ秋と春に負けた相手とやる可能性が高かったんです。なので、マシンの球速を相手チームの投手と同じにして、対戦したときの映像も見ながらバッティング練習をしました。そういう準備は100%できたので、子どもたちも自信を持って戦えたと思います」 そして実際に、想定通りの対戦相手にそれぞれリベンジに成功した。2回戦は、昨秋に6対8で敗れていた利根沼田イーストジュニアに4対3で勝利。続く準々決勝は、今春に7対9で敗れていた群馬ワールドウイングスを9対4で下した。 「県8強の壁」も打ち破ったその一戦で、3安打4盗塁と大きな働きをしたのが不動のリードオフマン、松島宏樹=上写真)だ。50mを7秒4で走る健脚に加え、小技もパンチ力もある。準決勝と決勝は、いずれも第1打席で出塁して二盗を決め、先制のホームを踏んで流れを呼んだ。...
【群馬県代表/初出場】新里スターズ

【2025最終予選経過】出場決定チームと全...
「小学生の甲子園」高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、8月11日に新潟県で開幕。今年は前年度優勝と開催地3枠を加えた53代表で、日本一を決します。この夢舞台出場をかけた47都道府県の予選も大半が終了し、残るは6道県となりました。『学童野球メディア』で更新してきた全53チームの一覧表も、あと1回または2回になりそうです。高校野球の甲子園なら当たり前の情報ですが、「小学生の甲子園」では、きっとここだけ! 夏の全国2大大会の実績も踏まえた情報は、間違いなくオンリーワンです。 ※情報は2025年6月25日現在 一覧表ダウンロード⇩クリックまたはタップ
【2025最終予選経過】出場決定チームと全...

【特報最終版】2024夢舞台を総括&202...
第44回高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、大阪・新家スターズの2連覇で閉幕した。開幕の42日前から、4カ月にわたってお届けしてきた特報も、これがラスト。個人成績やデータを含めて大会を総括しつつ、来年の夢舞台出場と活躍が期待される5年生20戦士を紹介しよう。節目の第45回大会は、新潟県で開催される。 (写真&文=大久保克哉) (写真=福地和男) Wのラストイヤー 神宮(東京)開催の最終年に、何本のホームランが生まれるのか――。 巨大トーナメントの勝ち上がりとは別に、今大会はそういう注目もされていた。というのも、打球部が別素材の複合型バットのうち、一般用(大人用)の使用が来年から全面禁止となるからだ。 同バットの代表格と言えば、ミズノ社の『ビヨンドマックス レガシー』。コロナ禍の2020年に登場すると、伝統のこの全国大会も翌年から本塁打が激増。外野の両翼70mの特設フェンスと、試合数の50はほぼ変わらない中で、2021年から34本(53試合)、43本(48試合)、29本と推移してきて、今年は39本のホームランが飛び出した。 3位の東京・不動パイレーツの四番・山本大智(=下写真右)が、大会最多の4本塁打。その前の三番を打つ細谷直生(=下写真左)が3本と、ランキングの上位2位を同一チームが独占した。以下、2本塁打で4選手が並んでいる。 10本増の総本数以外に、昨年と比べて違いが顕著なのは、大会序盤に本塁打が集中していることだ。1回戦(19試合)も2回戦(16試合)も、前年の倍以上(※2023総括➡こちら)。1回戦は何と20本塁打で、1試合に1本以上が出た計算になる。一方、3回戦8試合では1本(前年8本)、準々決勝以降では5本(前年7本)と尻すぼみに。 こうした極端な傾向から推察されることのひとつは、戦力レベルの二極化だ。そのギャップが大会序盤の本塁打の量産を招き、拮抗してきた後半戦で激減したと考えることもできる。出場全51チームが初戦を終える、2回戦までの35試合で、2ケタ得点が17チーム(前年10)もあったことも、ひとつの裏付けとなるだろう。 ミラクルも犠飛も多々 2年連続優勝を果たした大阪・新家スターズ(=下写真)は、1試合平均9.8得点という恐ろしい成績を残しながら、本塁打は1本だけ。ただし、その唯一がスペシャルだった。 5対7と逆転され、残り時間からしても最後の攻撃になるだろうという2回戦の4回表に、六番・黒田大貴が逆転3ラン。本人にとっても初のホームランという神懸かり的な決勝アーチから、チームは勢いを増していった。前年同様、走攻守のすべてが整うチャンピオンの牙城を崩し切るチームは、ついに現れなかった。 それでも、実際に相対した5チームはそれぞれ独自のカラーがあり、試合前半は見応えのある勝負を展開した。 中でも初出場ながら、王者をとことん追い詰めた埼玉・山野ガッツの打撃力は特筆するべきものだった。 準優勝の兵庫・北ナニワハヤテタイガースは、準々決勝で北嶋隼士主将(=上写真右)が完投し、続く準決勝では山口琉翔(=上写真左)が完封。ともに右腕で、三振の山を築くような本格派ではなかったものの、制球が安定していて駆け引きが巧み。数パターンあるという守備の変則陣形を使い分けるなど、チームとしても細やかな野球が印象的だった。 逆転に次ぐ逆転やサヨナラ決着など、球史にも残りそうな名勝負が複数あったのも、今大会の特長だった。初出場の福井・東郷ヤンチャーズに、過去準Vの実績がある不動パイレーツと愛知・北名古屋ドリームス。この3チームのミラクルは1度ではなかった。 初出場の福井・東郷ヤンチャーズは「選手ファースト」で3回戦進出。就任8年目の竹内浩二監督は次男・千太郎と今年度限りで卒団も、末っ子の2年生・承太郎が高学年になるころには復帰も!? 2回目の出場で全国1勝を挙げた神奈川・平戸イーグルスは波に乗り、3回戦では過去2回Vの多賀少年野球クラブ(滋賀)をサヨナラで破り、ベスト8まで躍進。その決勝打も含め、今大会は犠牲フライも目立ったが、来年度は本塁打とともに激減するのかもしれない。 関東勢の躍進続く 参加51チームの選手の平均人数(登録)は20.6人で、6年生は平均9.4人。昨年度の平均19.2人、6年生8.9人をそれぞれ上回った。 ベンチ入りの人数が、従来の20人から25人に拡大されたのは昨年度。その枠を満たしたチームも、前年の6から8(15.7%)に微増。一方、6年生が9人以上のチームは、前年より1つ減って24チーム(47.1%)だった。 京都・西城陽MVクラブは6年生15人。中学硬式など指導歴30年超の武田利行監督(左端)の就任は昨年11月で「冬場に徹底的に走らせたので動きにキレが出ました」。全国は初戦で1対2の惜敗も、ベンチを含むマナーとハイレベルな投手陣が目を引いた 全体として、選手の数は気持ち回復の傾向にあるようだ。しかし、気になるのは地域格差だ。東京と大阪の2大都市と周辺の府県は、6年生を含む選手の数が概ね平均値に達しているのに対して、北海道を除く地方はバラつきが激しい。特に心配なのは四国地方で、2年連続で登録20人に達したチームがない。 もちろん、都市部と地方部との人数格差は学童野球の全国大会に限ったことではなく、若年増の人口とも大いに相関関係があるのだろう。またその格差が、大会成績にも表れてきている側面もある。...
【特報最終版】2024夢舞台を総括&202...

【チームインサイド・ルポ❷】"百戦錬磨"の...
史上3チーム目の2連続日本一。2024年の夢舞台で最後まで勝ち抜いたのは、前年度優勝枠で出場してきた大阪・新家スターズだった。真夏の酷暑もゲリラ豪雨も苦にしなかった5連戦。タイプの異なる強敵を粛々と下していく様は、ぶつかり稽古に胸を貸す横綱のようでもあった。新チーム始動から無敗を貫いて王座を防衛したチャンピオンの強さを、チーム成績やV戦士のコメントも交えて掘り下げていこう。 (写真・文=大久保克哉) 包囲網を破り、暑さにも雨にも動じず。 5連戦をマイペースでフィニッシュ ―2023&24 CHAMPION ― [前年度優勝/大阪] しんげ 新家スターズ 【戦いの軌跡】 2回戦〇10対7山野(埼玉) 3回戦〇9対1船橋(東京) 準々決〇11対5豊上(千葉) 準決勝〇6対2不動(東京2) 決 勝〇11対0北ナニワ(兵庫) レギュラーとして全国2連覇に貢献した藤田主将(手前)。明るくて頼れる三番・捕手だった 心憎い。盤石や鉄壁が、あまりにも過ぎて「判官びいき」を助長する。 学童球児の親世代でもギリギリ知っているか、いないか。昭和末期の高校野球では、大阪・PL学園高がそうだった。1983年夏から5季連続で甲子園に登場してきて、すべて4強以上で優勝と準優勝が2回ずつ。そう、桑田真澄(元巨人ほか)と清原和博(元西武ほか)の「KKコンビ」がプレーした、あの時代だ。 今夏の新家スターズには、「KK」のような超怪物クラスのタレントはいなかった。けれども、どこにも穴がなくて、抜け目もない。相手を自ずとコケさせたり、最終的には勝負をものにする泰然自若。これらは「PL黄金期」を思わせるようでもあった。 敵に下を向かせる 大会初戦となった2回戦は、山野ガッツ(埼玉)との歴史的な打撃戦で辛くも勝利(「名勝負数え唄❶」➡こちら)。続く3回戦の相手は、新人戦の関東王者のタレント軍団、東京・船橋フェニックス(チームルポ➡こちら)。この「天下分け目の決戦」をワンサイドで制してみせた。 一番・山田はチームで唯一、全5試合で安打と盗塁をマーク。効果的な一打と三盗も光った 新家は序盤2イニングで単打7本に5四死球、2盗塁で8得点。そのうち3点は相手のミスによるものだった。またそれだけの大量リードをしても、守りがまるで緩まない。外野手のポジショニングを含む守備範囲と安定感は、今大会随一ではなかっただろうか。 3回戦ではレギュラー唯一の5年生、竹添來翔の右翼守備でビッグプレーがあった。2回裏、船橋の先頭打者が放った小飛球を、前進してきてからのダイビングで好捕した(=下写真)。 「(打球が上がった)瞬間に飛び込む判断をしました。今日は打つほうも2本打てて、うれしかったです」と、初々しい5年生。ボール3からストライクを4球(2球ファウル)続けた、マウンドの庄司七翔もお見事だった。仮にこの先頭打者が塁に出ていれば、流れが変わる可能性もあった。...
【チームインサイド・ルポ❷】"百戦錬磨"の...

【チームインサイド・ルポ❶】道半ばで散った...
今夏の夢舞台を語る上で、決して外せないチームがある。最後まで主役の座を張れなかったものの、前半戦は間違いなく、チャンピオンシップの巨大トーナメントの中心にいた。船橋フェニックス。そう、“東京無双”の陽キャなタレント軍団だ。「天下分け目の決戦」とも言えた前年王者との3回戦を中心に、その懐へも入り込んでリポートしよう。 (写真・文=大久保克哉) 冬の神宮へ。舞い戻れ、不死鳥よ! 夏の夢を終わらせてはいけない。 [東京] ふなばし 船橋フェニックス 【ベスト16への軌跡】 1回戦〇9対0黒部中央(富山) 2回戦〇13対0国分小(鹿児島) 3回戦●1対9新家(大阪) 3回戦 ◇8月19日 ◇神宮球場 ■第1試合 [大阪]3年連続4回目 新家スターズ 2601=9 1000=1 船橋フェニックス [東京]2年連続2回目 【新】庄司、山田、今西-藤田、庄司 【船】吉村、松本、木村-竹原 二塁打/松瀬吟(新) 気合いの五輪刈り 日本一決定からの歓喜の輪も胴上げも、雨で流れてしまった今夏の夢舞台。終わってみれば、筆者が目にした一番の笑顔は、開会式の日にあったのかもしれない。 8月15日の夕刻、明治神宮野球場。前年度王者と47都道県のチャンピオンが一堂に会した中での、最後のセレモニー。始球式が発端だった。...
【チームインサイド・ルポ❶】道半ばで散った...

【名勝負数え唄❹3回戦/不動vs.北名古屋...
学童球史に残るだろう、点取り合戦を第1弾でお伝えした『名勝負数え唄』。最終の第4弾は、好プレーのオンパレードで、特別延長も3イニングを渡り合うシーソーゲームとなった3回戦。改めて野球の深さを訴えるとともに、舞台裏にも迫ると全国大会の存在意義やそこを目指すことの尊さも見えてくる。さらには、安定したクラブチームの育成システムや、父親監督が率いるチームの理想的な終着までが浮き彫りに。やはり、後世にも語り継ぎたい麗しき一戦だった。 (写真&文=大久保克哉) (特別継続試合写真=福地和男) 3回戦 ◇8月19日 ◇神宮球場 ■第4試合 ◇8月20日 ◇駒沢硬式野球場 ■特別継続試合 [東京]2年連続5回目 不動パイレーツ 000030021=6 ※規定により7回からタイブレーク 011001020=5 北名古屋ドリームス [愛知]2年連続6回目 【不】山本、鎌瀬-鎌瀬、唐木 【北】三島、富田-岡野 本塁打/細谷(不) 二塁打/山本、米永、田中(不)、三島(北) 無念のクジ引きも覚悟 「白黒をつけさせてもらった。何よりも、それがありがたかったですよね」 愛知・北名古屋ドリームスの岡秀信監督の、振り返りの第一声がそれだった。 神宮球場での第4試合はナイトゲームとなり、既定の6回を終えてスコアは3対3。無死一、二塁で始まる特別延長戦に入り、7回の表裏はともにバントで一死二、三塁とするも、両投手が踏ん張って無得点に終わった。そして8回を迎える前に、まさしく“水入り”となる。 7回はそれぞれ犠打で一死二、三塁とするも0点。表の不動は遊ゴロも本塁タッチアウト(上)。裏の北名古屋は、申告敬遠で満塁から後続が倒れる(下) 轟く雷鳴に続く豪雨で、19時21分に試合が中断。グリーンの人工芝にみるみる水面が広がり、土砂降りの粒玉がそこに跳ねて花火のよう。やがて大会本部席から両ベンチの指揮官が呼ばれ、岡監督は「抽選」を覚悟したという。 「夏の全国大会でのダブルヘッダーはある意味、禁断ですよね。聞いたことないし、1回戦が台風で1日順延されたので予備日もない。スポーツ少年団の全国大会(軟式野球交流大会)では、今年は暑さ指数(WBGT)が一定以上なら試合せずに抽選だったとか、そういうのも知っとるから…」...
【名勝負数え唄❹3回戦/不動vs.北名古屋...

【名勝負数え唄❸2回戦/岩見沢vs.北名古...
超難関の全国舞台も6回目。過去には決勝で2者連続アーチなど伝統の打力を存分に発揮しながら、銀メダルに終わったことも。夢舞台で勝ち切ることの難しさも骨身に沁みている。だからこそ、周到に準備をしてきて、それがひとつの身を結んだ形となったようだ。『名勝負数え唄』第3弾は、歓喜と失意が渦巻く逆転サヨナラ劇に潜んでいた、納得のクールにも迫る。 (写真&文=大久保克哉) 2回戦 ◇8月18日 ◇府中市民球場 ■第4試合 [北海道南]初出場 岩見沢学童野球クラブ 102000=3 000103x=4 北名古屋ドリームス [愛知]2年連続6回目 【岩】大西竣、山下-北川 【北】三島、富田-岡野 本塁打/山下、井川(岩) 二塁打/大西竣、柳谷(岩)、髙井(北) 競技2日目の2回戦。府中市民球場での第4試合は、夕刻の18時5分にプレーボール。そして30秒としないうちに、先頭打者アーチが生まれた。 それから1時間と44分後。カクテル光線で浮かび上がる夏夜のスタジアムでの幕切れを、いったい誰が予想できただろうか。のっけからビハインドで、残り1アウトどころか、あと1球で敗北。よく言う「徳俵に足がかかった」瀕死のチームが、一気に同点、そして逆転サヨナラで勝利を収めてみせた。 しかし、それを安易に「奇跡的」と表現してはいけないのもしれない。勝者の指揮官にも確信はなかったものの、「そういう練習はず~っとやってましたよね」と話している。要するに、試合終盤でひっくり返すというシミュレーションも経て臨んだ、全国舞台だったのだ。 待望のニューウェーブ 北国や豪雪地域はハンディを背負っている。この認識はあながち間違いではない。極寒の季節が長く、屋外で自由に白球を追える時間は限られるからだ。ただし、そうした「特例区」につきまとう概念は、昨今の学童野球にはないと言えるだろう。 北信越の石川県勢は、全日本学童大会で優勝3回。これは全国2位タイの記録だ。また2017年には、東16丁目フリッパーズが道勢初の日本一に輝いている。同チームはその前年に全国3位(=下写真)。個々の打力が高い上に、1点をもぎ取り、また守るための戦術が洗練されている。その戦いぶりは、非力や拙いという「特例区」のイメージを夢舞台でも一変させるものだった。 そんな北海道きっての強豪は今年、全国予選の南北海道大会1回戦で敗退。最終回に七番打者・細野世羅の逆転サヨナラ満塁ホームランで勝利し、そのまま勝ち続けて真夏の本大会に初めてやってきたのが、岩見沢学童野球クラブだ。 「とんでもなく強い!」との前評判に偽りのないことは、全国初陣となった前日の1回戦で実証された。高知県の王者を17安打21得点で圧倒。今大会50試合の中で、その得点数は最多タイ、ヒット数は3位タイだった。 縮小と二極化が加速する学童球界にとって、いわば待望のニューウェーブ。成り立ちも目的も運営も先駆的で、少子高齢化に悩むローカル地域の模範例にもなるだろう。チームは創設2年目で、小松連史監督(=下写真中央)は今大会最年少で唯一の20代だ。 「私たちが活動する岩見沢市も人口がかなり減ってきている中で、子どもたちが野球をする環境を残すために、NPO法人を立ち上げてできたチームです。指導者7人は全員が学校の教員。監督はボクがやっていますけど誰でもよくて、地域のみなさんと子どもたちを育て上げる、という目的は変わりません」(同監督) 道都・札幌から1市1町を隔てただけでも、岩見沢市は有数の豪雪地帯で野球環境はさらに厳しい。それでも、昨今の親世代の多くが学童チームに求める無条件の「安心」が、そこには確実にあるのだろう。選手は1学年9人以上。そのうち6年生14人と、5年生9人が東京での全国舞台へやってきた。...
【名勝負数え唄❸2回戦/岩見沢vs.北名古...

【名勝負数え唄❷2回戦/不動vs.金田】ハ...
個々のハイスキルに加え、野球知能の高さも存分にうかかえた両軍による、逆転また逆転の熱戦が2回戦であった。ベンチで応援マーチを歌って手拍子で盛り上げるのも「学童あるある」。だが、この2チームはきっと、試合中に声を枯らすよりも頭を働かせ、野球を深く学ぶことに重きを置いてきたはず。勝者は大会3位まで勝ち進み、敗者は地元に戻って史上初の年4冠(県)に。『名勝負数え唄』第2弾は、それらの必然性にも迫る。 (写真&文=大久保克哉) 2回戦 ◇8月18日 ◇府中市民球場 ■第3試合 [東京]2年連続5回目 不動パイレーツ 00250=7 10400=5 金田ジュニアクラブ [福岡]16年ぶり2回目 【不】川本、鎌瀬-鎌瀬、唐木 【金】今井悠、石光奏-石光奏、今井悠 本塁打/鎌瀬、山本(不) 二塁打/福間煌、石光奏(金)、難波、川本、石田(不)、中田(金) 口より行動の「当たり前」 どれだけ野球を理解しているのか。またどれだけ野球を教えられているのか――。知識も経験もゼロから始まる小学生ゆえ、実戦ではそのあたりが如実に見えてくる。 とりわけ、顕著に表れやすいのが守備のバックアップだ。次の展開や仲間のミスを想定して動けているかどうか。そのあたりの浸透具合やベンチの指示から読み取れる「野球知能」の格差が、結果として明暗を分かつこともままある。 一塁側・不動の応援席から始まった試合前の敵軍へのエール(上)に、三塁側・金田の応援席も呼応(下)。清々しい雰囲気でプレーボールを迎えた 高校野球の甲子園の比ではない超難関。ハイレベルな全日本学童大会になると、さすがに大きな差は見られなくなる。その中でも、この2回戦で激突した両軍は、野球知識や戦術や駆け引きという面でも、極めて高い次元にあった。 たとえば、開始直後の三遊間寄りのゴロを流れるようなランニングキャッチ&スローで捌いた、福岡・金田ジュニアクラブの高村昇太郎(=下写真)だ。 5年生のこの三塁手は、投手が一塁へけん制した際には、一塁手からの返球に合わせて必ずバックアップに動いていた。相手の東京・不動パイレーツで三塁を守った、石田理汰郎と川本貫太もまた然り。 ちなみに、こうしたバックアップはプロでも当たり前にやっている。 「万が一の確率もない。としても、やるべきをやるのもプロ」。これは筆者が野球誌で千葉ロッテを担当していた10数年ほど前、当時の正三塁手・今江敏晃氏(前楽天監督)から直接に聞いた言葉だ。 学童野球なら、投げミスの確率は「十が一」(1割)以上あるかもしれない。全国舞台になると、三塁手が一塁けん制でバックアップに動くのは、そう珍しくはなくなる。走者がいるときに、捕手から投手への返球1球1球に、二遊間が呼応するバックアップも普通に見られる。 ただし、二塁けん制から投手への返球に合わせて、捕手が立ち上がって送球コースまで動くとなると、相当にレアとなる。金田のスタメンマスク、5年生の石光奏都(=下写真)は、それも自然にやっていた。「来年度の主役候補」と呼べる5年生の逸材が目立った今大会だが、6年生でもそこまでやれていた捕手が他にいただろうか。...